左側卵管閉塞と卵管造影後の痛み、その後の治療について

Q 卵管の詰まりと両卵巣囊腫、 どんな選択肢が最良?

蔵本武志先生 久留米大学医学部卒業、山口大学大学院修了。山口県立中央病 院産婦人科副部長、済生会下関総合病院産婦人科部長を経て、 1990 年オーストラリア・PIVETメディカルセンターへ留学。帰国後、 1995 年蔵本ウイメンズクリニック開院。JISART(日本生殖補助医 療標準化機関)理事長。久留米大学医学部臨床教授。

ドクターアドバイス

●造影剤の流出によって子宮内膜が損傷したとは考えにくい。
チョコレート囊胞の疑いがありますが、まだ摘出不要なサイズだと考えます。
しいさん(32歳)からの相談 Q.先日卵管造影検査を受け、左側卵管閉塞と診断されました。 右側も詰まりぎみのようです。この検査の際、造影剤が左卵 管の毛細血管に流出したらしいのですが、よくあることなの でしょうか。検査後鈍痛が続いていて、損傷や今後への影響 が気になります。また子宮後屈で子宮の可動性も悪く、両卵 巣囊腫(各2.7cm)もあり、常に左側に腰痛、下腹部痛があ る状態です。今後、腹腔鏡検査、卵巣囊腫の腹腔鏡手術を 考えていますが、どのような選択肢が最良でしょうか。なお 無痛性甲状腺炎による甲状腺機能低下症にて3日前からチ ラーヂンSⓇを内服しています。TSHは3.2μIU/mlです。 現在、腰に負担のかかる業務をしているので、不妊治療に関 して上司へどう相談したらよいかも悩んでいます。

卵管造影検査で造影剤が流出した影響を心 配されていますが、いかがでしょうか。

蔵本先生 卵管の通りが悪いため、造影検査で圧を加えた時、子宮から脈管に造影剤が入ったということですね。子宮内膜などへの損傷はまずないでしょう。疼痛が残っているのは、子宮内腔に圧を加えたためだと思います。疼痛が落ち着けば、お考えのように腹腔鏡検査を受けられるとよいかと思います。
  卵管性の不妊のようですが、腰痛もあり、 子宮後屈で可動性不良ということは、子宮の後面と骨盤内腹膜に癒着があるかもしれません。癒着は子宮内膜症によるものと予想しますが、卵管、卵巣が子宮の裏側にあれば、同じようにこちらも癒着している可能性もあります。まず癒着の有無を腹腔鏡で観察して、癒着があれば剥離するとよいでしょう。また、癒着と関わるクラミジアの検査も必要かと思います。データを拝見して気になるのが、TSHの値が 3.2μIU/ml と高いこと。高いままだと 着床不全や習慣流産の原因になりますか ら、TSH が 2.5μIU/ml 未満になるまで量を 調節しながらチラーヂンSⓇの服用を続け てください。

ご心配の両卵巣囊腫については、やはり内 視鏡手術が必要になってくるのでしょうか。

蔵本先生 両側に 2.7 cmの卵巣囊腫というこ とですが、これは卵巣内にできた子宮内膜症(チョコレート囊胞)かもしれません。エコー検査で両側卵巣囊胞内が黒でなく白っぽい高輝度な部分があれば、チョコレート囊胞である可能性が高いと思います。

その場合、腹腔鏡での摘出手術は慎重を期す必要があります。というのは摘出する際に、囊胞と一緒に正常な卵胞までかなり の部分取られてしまい、卵巣内の卵子数が激減することがあるためです。失われた卵細胞は戻りませんから、正常部分をできるだけ切除しないように気をつけなければい けません。ただ通常、3cm以下はすぐ摘出を行うことはなく経過観察になります。

腹腔鏡で卵管の疎通性が改善されればタイミング法、人工授精といった一般不妊治療を数回行い、妊娠しなければ再度子宮卵管造影を。それで卵管の通りが悪ければ、体外受精顕微授精などの生殖補助医療を受けられるのがよいと思います。卵巣予備能(卵巣内の卵子数が多いか少ないかの予 想)を調べる AMH 検査がまだなら、今後の方針を決めるためにも、ぜひ調べたほうがいいと思います。

卵管が詰まっていても妊娠は可能ですが、ご主人の精液検査で奇形率 90 %が続け ば、体外受精をしても受精しない場合があります。その場合は顕微授精を行ったほうがよいでしょう。

また、上司への報告に関しては、不妊治療中であることは言うべきだと思いますよ。働き方改革も進んでいます。厚生労働省が用意する「不妊治療連絡カード」に医師が記入し、企業側に示すこともできますから、ぜひお役立てください。

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全記事、不妊治療専門医による医師監修

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