顕微授精に失敗して以来、 ほかの採卵方法や可能性、 失敗原因などが不安です!

蔵本 武志 先生 久留米大学医学部卒業、山口大学大学院修了。山口県立中央病 院産婦人科副部長、済生会下関総合病院産婦人科部長を経て、 1990 年オーストラリア・PIVETメディカルセンターへ留学。帰国後、 1995 年蔵本ウイメンズクリニック開院。昨年 10月に遅い夏休みを ニュージーランドで過ごした蔵本先生。NZは25 年前のオーストラリ ア研修で訪ねて以来でした。NZ南島のクイーンズタウンに滞在し、フィ ヨルドのミルフォードサウンドを観光。「自然豊かな景観に心を洗われ、 また仕事で頑張ろうと思った」そうです。
ちいさん(31歳)からの相談 Q.以前から多嚢胞性卵巣症候群です。結婚してすぐに子宮外妊娠し、卵管を温存 して薬で治療しました。妊娠許可が出てから避妊なしの夫婦生活を再開。同時 に夫婦で検査したところ、実は夫の数値は運動率9%、奇形率90%とかなり悪 く、重度の精索静脈瘤だとわかりました。11月に手術でしたが、その前に顕微 授精に挑戦することに。私のD3の数値が良かったので、クロミッドⓇ12日分と HMG注射してD10に診察。ところがE2が69と低く、卵胞も不育だったため見 送りました。ソフィアAⓇを服用後再び診察したらE2が296あり、成熟卵が1個 採れました。しかし顕微授精に失敗しました。生理中なのにソフィアAⓇが効か ずに排卵するのですか? 何か病気は考えられますか? ほかにたくさん卵子が できる治療法は? この先の可能性は低いのでは?

PCOSと卵巣刺激

ちいさんは多嚢胞性卵巣症候群(PCOS) を抱えていますが、顕微授精ができる有効な 手立てを教えてください。
蔵本先生 PCOSの方は、卵胞は途中まで 育ってもLH値が高いなどの理由で卵胞の発 育が止まってしまうことは多いですよ。
顕微 授精などのARTを行う場合は、複数の卵子 を採取したほうが良い卵子を獲得するチャン スが増え、採卵 1 回あたりの妊娠率が高くな るため、通常、排卵誘発剤による卵巣刺激を 行います。
PCOSでは通常、血中AMH値 や月経初期のエコー検査での小さな卵胞数に より、FSH製剤単独かあるいはクロミッドⓇ やレトロゾールⓇを加えるなど、投与量を決 めて連日注射します。
途中で注射をやめると、 卵胞発育が停止することがあります。
複数の卵子を採取したほうが良いので、ク ロミッドⓇの反応が不良なら、FSH製剤連 日投与またはレトロゾールⓇを 5 日間服用し つつ、FSH製剤を用いたアンタゴニスト法 を行います。
つまり、卵胞径が 14 ㎜近くなっ たら、LH値を下げるため、GnRHアンタ ゴニストの皮下注射を加えるのが良いでしょ う。
この場合もFSH製剤はAMH値、胞状 卵胞数や卵胞発育状態を見ながら投与量を決 めます。

PCOSの傾向

経口ピルであるソフィア A Ⓡを服用したの に、生理中に排卵したことに疑問をもってい ますが。
蔵本先生 PCOSの患者さんで卵胞が育っ ていない場合、ピル等でホルモン環境を調整 すると、それまで高かったLH値やFSH値 が正常化され、卵胞発育が進み、ホルモン剤 投与後に卵胞が育つことがたまにあります。
これはベースにホルモンの異常があると考え られます。
また、ちいさんはBMI(肥満度) が 31 ・ 2 で、肥満があります。
BMIの基準 値は 18 ・ 5 から 25 未満です。
肥満だと薬が効 きにくく、先のFSH製剤の注射も投与量が増えます。
脂肪が多いとホルモン環境の異常 が起こり、卵胞が発育しにくくなったり、排 卵誘発剤の効果が減少します。
 実はPCOSの方には肥満傾向が見られま す。
クロミッドⓇが効かない糖尿病予備軍で あることも考えられますので、血糖値やイン スリン抵抗値を調べてみるのもいいでしょ う。
インスリン抵抗性が見られれば、改善さ せるメトホルミン剤を服用すると卵巣の反応 性が改善されることがあります。
日常の生活 では間食をやめ、就寝 3 ~ 4 時間前は飲食し ない、炭水化物を減らすなどの食事療法や運 動療法を行い、できれば 75 ㎏ぐらいまで減量 したら妊娠が近づきます。

ICSIを使うメリット

ご主人の精子の状態も良くないですね。
蔵本先生 顕微授精(ICSI)をする際に、 ヒアルロン酸に結合した精子を用いるPIC SIがあります。
実は成熟した精子にはヒア ルロン酸に結合する性質があるんです。
ヒ アルロン酸を用いることで良い精子を選別で き、それによってより良く発育する胚ができ ることになります。
通常のICSIより胚盤 胞になる確率が高く、しかも精子と卵子への ダメージが少ないのも利点です。
ダイエット して環境を整え、ご主人から良い精子を選ん で挑戦してはどうでしょうか。
>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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