初の低刺激による体外受精で採れた卵子はわずか1個。もっと採卵数を増やすにはどうしたらいいのでしょうか。麻布モンテアールレディースクリニックの山中智哉先生にアドバイスをいただきました。

山中智哉先生(麻布モンテアールレディースクリニック)
1998年山梨医科大学卒業。2014年に麻布モンテアールレディースクリニックを開院。タイミング法から人工授精、体外受精まで、それぞれの患者さまにあった方法を探り、全力で「妊娠」に向けて治療を行っている。日本産科婦人科学会専門医、日本抗加齢医学会専門医、米国ISFN認定サプリメントアドバイザー、点滴療法研究会認定医
相談者:ともみさん(33歳)今までタイミング法6回、人工授精3回やりましたがすべて陰性。今回、初の体外受精をしました。通院中のクリニックは、保険診療だと低刺激のみ。薬はクロミッド5日分、ゴナールエフ150×3、300×1。採卵予定2日前に点鼻薬。結果は、一番大きい2cmの卵胞か3回つ採卵できたのみ。その他、吸い取った6個の卵胞からは卵子が取れませんでした。採卵した卵子で受精できなかった場合、再度採卵することになります。低刺激で採卵数を増やすにはどうしたらいいでしょうか。また昨年、検査した際にAMHは3.3でしたが、急激に数値が悪くなることはあるのでしょうか。

採卵数が少ない原因は、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)のために採卵時期が合っていない可能性が

今回、採卵する際に一番大きかった卵胞が2cmということは、他の卵胞はもっと小さかったということになります。AMHが3.3というのは、ともみさんの年齢から考えると年齢相当、もしくは高めといえます。通常、3.3あれば、採卵に適した時期に2cm番大きな卵胞は2cmよりももっと大きくなっていてもいいはずです。

ただ、ともみさんの検査歴をみると「低温期採血の際にLHFSH値が逆転」とあり、ベースに多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)があると考えられます。おそらく軽度のため、生理周期もほぼ順調だったとは思いますが、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の場合、AMHが高い数値を示す傾向があるわりに、薬に対しての反応が鈍いため、刺激に対して卵の発育が芳しくない、卵胞形成が遅れ気味になるという傾向がみられます。

こういった状況をふまえると、今よりも多く採卵するためには、「排卵誘発の強さ」と「採卵の時期」を再検討することが大切です。

クロミッドとゴナールFのコンビネーションは、低刺激というよりは中刺激ともいえます。同じ中刺激を行なっても、反応は人によって低反応~高反応まで異なり、ともみさんの場合は、今回の刺激の強さでは低反応であったといえます。したがって、採卵数を多くするためには、ゴナールの量を増やすことも採卵数を多くする方法となります。

一般的には生理開始12日~14日目頃に採卵しますが、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の場合は、排卵が遅れ気味になるので、おそらく15日以降に採卵するのがいいと考えられます。

 

 

適切な採卵時期は「血液検査の数値」に対する「卵胞の数と大きさ」で判断を

 

適切な採卵時期を決定するには、血液検査の「エストロゲンの数値」と、それに対する「卵胞の数と大きさ」が大切になります。

例えば、エストロゲンの数値が高くても、それが小さい卵胞が多数形成されてそうなっているのであれば、個々の卵子はまだ未熟な状態です。複数の卵胞が形成されている状態では、成熟した卵胞と未熟な卵胞が混在していますが、成熟卵胞がより多くなった時点まで待って採卵を行なわなければ、予定の数を採取できなかったり、採取できても未熟卵が多いということが生じます。

 

適切な採卵時期を把握するには、血液検査でエストロゲン数値を見るだけでは不十分です。なぜなら1つ5pg/mlのエストロゲンを出す小さな卵胞が10個ある時と、1つ10 pg/mのエストロゲンを出す大きい卵胞が5個あるのとでは、どちらも5×10個と、10×5個で血中のエストロゲンは同じ数値を示してしまうからです。なので、同時に超音波で卵胞の大きさがどのくらいあるかを一緒に確認することで、適切な時期に採卵することができます。

 

クロミッドと一緒にメトフォルミンを服用することで、卵子の発育をサポート

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の場合は、クロミッドなどの薬に対しての反応が弱いという特徴があります。そこでクロミッドと一緒にメトフォルミンを服用するのがいいでしょう。反応がよくなり、卵子が育ちやすくなるため、採卵できる個数も増える可能性があります。

今回、ゴナール150単位を3回うっていますが、量をかえてみるのも方法の1つです。ゴナールは225〜300単位に増量すれば、有効な卵胞数は増えると思います。当院の場合は、ゴナール300を2回接種して卵子の発育状況を確認するようにしています。

サプリメントを摂取することで採卵数が上がる可能性も

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)を引き起こす原因の1つにインスリン抵抗性があります。

インスリンとは、食事の後に上がってしまう血糖値を正常な値に引き下げる役割を担うホルモンです。このホルモンが作用しづらくなると、排卵障害が生じることがわかっています。このインスリンの働きをサポートしてくれるが、マイタケなどに含まれている「グリスリン」という物質です。

また、筋肉や神経細胞などに多く存在する「イノシトール」という栄養素も排卵をスムーズにする役割があります。「グリスリン」や「イノシトール」はサプリメントとして販売されているので、飲んでみると採卵数を増やすことにつながる可能性があります。

AMHが下がる=多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)が改善された証に

ともみさんの質問の中に「AMHが急激に下がることがあるか」という質問がありますが、がん治療のために化学療法や放射線治療を受けたり、長期間喫煙を続けているような、卵巣にとって不利な環境下においては、急激にAMHが低下することがあります。

ただ、ともみさんのように多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の方は、AMHは高い数値を示す傾向にあります。その場合、排卵誘発剤などによって排卵が促されると、AMHは低下してきますが、それは卵子が減ったという意味ではありませんので、ご心配をなさらないでください。

 

ともみさんは年齢的にも充分に妊娠できる可能性はあります。主治医の先生に採卵する時期を決めるタイミング、組み合わせる薬を再度検討してもらえるよう相談してみてくださいね。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

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