ホルモン補充周期の移植について

ホルモン補充周期で採卵前にまさかの排卵。
移植にたどりつくには?

セント・ルカ産婦人科 宇津宮 隆史 先生 熊本大学医学部卒業。1988 年九州大学生体防御医学研究所講師、1989 年大分県立病院がんセンター第二婦人科部長を経て、1992年セント・ルカ産婦人科開院。国内でいち早く不妊治療に取り組んだパイオニアの一人。開院以来、妊娠数は 9,500 件を超える。
相談者 : nicoさん(39歳)1回目採卵後、初期胚4個を凍結。自然周期、ホルモン補充周期と移植を続け、3回目は受精卵2個を自然周期で戻し、レトロゾールを服用し妊娠したものの8週で流産。2回目採卵後、初期胚4個と胚盤胞2個を凍結し、前回同様ホルモン補充周期でしたが排卵して移植中止です。今周期も同じ薬を同量で。1度目は薬で排卵しなかったのですが、2度目は流産後に子宮内に変化があったのか、今回も排卵する可能性が高いのか……。年齢的に1周期が大切なのでアドバイスをお願いします。
nicoさんの相談内容から、先生はどのような印象をもたれましたか?
宇津宮先生● タイミング法から人工授精顕微授精へと段階を踏んでいる、とのことですが、私の印象としては少しのんびりとしたペースに思えます。ご本人も年齢的に「1周期が大切」と思っていますよね。現在、nicoさんは39歳ですから、良好胚盤胞が得られる確率は約1割です。そして、AMH値は1.9ng/ml。これは検査時の数値であり、年齢的にも低下するスピードは増してきます。「あと半年早ければ」「1年早ければ」という時期に近づいているということを見据えて、なるべく多く採卵し、胚盤胞の数を増やすことを考えていただきたいですね。
良好な胚盤胞を得るために、できることはありますか?
宇津宮先生●ホルモン補充周期での移植について気になるのは、「今周期も同じ薬で同じ量での移植周期」の部分です。私なら、結果が出なかったことを繰り返すのではなく、今回の方法でうまくいかなかった原因を検証し、次の新たな方法を考えます。
 また、移植前に排卵してしまったとのことですが、原因は流産ではなく、nicoさんと同じような年齢の患者さんによく見られる現象のように思います。当院では高齢の患者さんの思いがけない排卵を防ぐために、採卵前に抗炎症薬(本来、発熱時や疼痛時に使用)とHCGの注射を用いるという方法を提案することもあります。いずれにしても、nicoさんにとって、より適した治療をスピーディに行うためには、結果を検証し、次に生かすという治療方針を主治医に依頼していただきたいですね。
最後に、アドバイスをお願いします。
宇津宮先生●n i c oさんのデータには精子についての記載はありませんが、顕微授精をしているので精子所見はあまり良好ではないかもしれません。実は当院でもARTの患者さん全体の7割以上は顕微授精を行っています。当院では、WHO(世界保健機関)の基準値以下は全体の43%なので、精子が良好ではない男性は増えているという印象があります。
 コロナ禍では自宅で採精して病院に持参するという人が多いとは思いますが、時間差や温度変化などのストレスはゼロではありません。治療中にストレスを感じる人は多いかもしれませんが、採卵前、採精前には特に体をリラックスさせ、心身ともに落ち着いた状態で行うことを心がけてください。
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