
▶︎培養5日目前後で成長が止まってしまいます
多囊胞性卵巣症候群(PCOS)で、AMH 値が11ng/ml以上と高め。採卵では15 個前後と卵子はよく採れるのですが、多くが培養5 日目前後で成長が止まり、胚盤胞まで育ちません。6 回の採卵で凍結できたのは2 個だけで、1回目の移植は陰性、2 回目は化学流産でした。次は培養士から顕微授精ではなくふりかけ法を提案されていますが、ほかにできることはありますか。今後の治療の進め方についてもアドバイスをお願いします。

京都府立医科大学医学部大学院修了。2008 年から田村秀子婦人科医院に勤務。2025 年1 月より田村秀子婦人科医院の院長に就任。日本生殖医学会認定 生殖医療専門医。
卵子は多く採れるのに胚盤胞にならず、化学流産も経験。これはPCOSではどのような状態なのでしょうか。
田中先生●PCOSは、①月経不順や無排卵、排卵障害を伴う月経周期異常、②超音波で卵巣に小さな卵胞がたくさん見られる多囊胞性卵巣、または卵巣予備能の指標である抗ミュラー管ホルモン(AMH)が高値、③男性ホルモンまたは黄体化ホルモン(LH)が高め、という3つの主な特徴があり、ホルモンバランスや糖代謝にトラブルを抱えていることも少なくありません。
EMKさんはAMH値が11ng/ml以上と非常に高く、採卵数も毎回15個前後と卵子は多いですが、胚盤胞までたどり着く胚はこれまで2個とごくわずかで、そのうち1個は着床せず、もう1個は化学流産に終わっています。卵胞数はあるのに成熟卵子や良好胚の数が少なく苦労するケースといえるでしょう。こうした場合は、糖・脂質代謝、甲状腺機能などの血液検査や、食生活・生活習慣についても確認しておくことが大切です。
追加で受けておきたい検査はありますか。
田中先生●胚盤胞がなかなか得られないなかで、貴重な胚が着床不全や化学流産に終わっている点が気になりますね。流産そのものは決して珍しくなく、多くの場合は「たまたま起こった」受精卵側の染色体異常です。1回だけであれば、すぐに習慣流産の精査が必要というわけではありません。卵子の問題だけでなく、子宮内環境や着床のタイミング、免疫環境など、いわゆる受け皿側に要因がある可能性もあります。全員に必須ではありませんが、採卵を重ねてもできる胚盤胞が少なく、貴重な胚で結果が出なかった場合は、「次の一歩」として検討してもよいと思います。
胚盤胞まで育たない原因として、卵子と精子、それぞれどのような点を見直す必要があるのでしょうか。
田中先生●PCOSの方は、見かけの卵子数は多くても、その中に占める成熟卵子の割合が低く未熟卵子が多い傾向があり、たくさん採れても胚盤胞まで育つ卵子が少なくなってしまいます。刺激法を変える、ピルで卵巣を休ませてから再度刺激するなど、成熟卵子をいかに増やすかを意識した工夫も重要かと思います。
精子側も、一般的な精液検査で問題がなくても、DNAのダメージを受けた精子が受精卵(胚)の発育に影響する可能性があります。この精子のDNAダメージの割合をみるDNA断片化検査で精子の詳しい評価をすることも有用です。実際のARTでは、先進医療であるマイクロ流体技術やPICSI(※)などの精子選別法を用いて、より質の良い精子を選択することも考慮してみてはいかがでしょうか。
顕微授精から「ふりかけ法」に変えることで、どのような変化やメリットが期待できますか。
田中先生●顕微授精は、決まったタイミングで精子を卵子に直接注入する方法で、受精のタイミングが固定される一方、卵子に多少のストレスがかかる面もあります。「ふりかけ法」では、精子が自分の力で卵子に到達し、より自然に近いかたちで受精が進むため、卵子への負担を減らし、発育の仕方が変わる可能性が期待できます。精子所見に大きな異常がないのであれば、一部をふりかけ法に切り替えてみる価値は十分あります。その際はこれまでの受精率や胚の育ち方、精子のDNA断片化の状況なども参考にしながら、顕微授精とふりかけ法の受精率や胚盤胞率を比較することで、より最適な受精方法を見つけることができるかも。これらのことを主治医と相談して決めていくとよいでしょう。
卵子の質を高めるためにできることはありますか?
田中先生●生活面では、たんぱく質やビタミンをしっかり摂りつつ、炭水化物や脂質のバランスを整えること。適度な運動、体重管理、十分な睡眠、そしてストレスを溜めすぎないこと。サプリや漢方はあくまで「サポート役」です。「たくさん摂らなきゃ」という重圧がストレスに ならないよう、必要なものに絞り、肩の力を抜くことも大事です。
PCOSで卵子はたくさん採れるのに結果が出ず、ストレスを感じ、自分を責めてしまう方は本当に多いと感じます。ただ、卵子が多いこと自体は大きな強みです。良好な卵子を引き出すために、これまでの刺激法や生活習慣、検査などで「変えられるところはどこか」を主治医と一緒に整理してみてください。そして、「少し肩の力を抜くこと」も意識しましょう。治療のペースを落としたり、気分転換の時間を作ったりしながら、ご自分の心と体を守ることも、大事な治療の一部だと考えていただければと思います。