子宮腺筋症の治療法は?この病気だとやはり妊娠は難しいですか?【医師監修】

子宮腺筋症」と診断された場合、妊娠を望む人にとって どのような治療法が有効なのでしょうか? 秋山レディースクリニックの秋山先生にお話を伺いました。

【医師監修】秋山 芳晃 先生 東京慈恵会医科大学卒業。東京慈恵会医科大学 附属病院、国立大蔵病院に勤務後、父親が営んで いた産科医院を継ぎ、不妊専門病院として新たに 開業。O型・やぎ座。本誌でもおなじみのかしわざき 産婦人科の柏崎先生と、先日、愛車に乗って早朝ド ライブ&朝食に行かれた秋山先生。同じ大宮地区と いうこともあり、手術が必要な患者さんや、妊娠が成 立した患者さんなどでお世話になっているそうです。

ドクターアドバイス

手術で切除することは難しい
不妊の原因ともなりうるが、必ずしも妊娠を諦めることはない
現実的な治療法はホルモン療法後に体外受精
りらさん(37歳)からの投稿 Q.不妊治療中ですが、左卵巣に嚢腫があり、MRI検査を受けたところ、子宮腺筋症が見つかりました。先生からは手術はできないと言われ、ジエノゲ ストの服用を開始。調べたところ、子宮の温存手術は自費で170万円~ と高額。 手術は無理だとしても、ダナゾールの投薬や3EPを子宮に直接注射して くれるような病院に転院したほうがいいでしょうか?  また、この病気ではやはり妊娠は難しいのでしょうか。

これまでの治療データ

検査・ 治療歴

血液検査の結果、クラミジアとがんについては異常なし。
ホルモン数値 はFSHが高く、プロゲステロンが9.3で低値とのこと。
AMHは16.1 で異常なし。
子宮卵管造影検査の結果、左側の通りが若干ゆっくりなも のの、詰まりはなし。
最後に受けたMRI検査で、卵巣嚢腫(奇形腫4.5㎝)、子宮腺筋症(通 常の子宮の2倍ほどの大きさ)と診断される。

不妊の原因 となる病名

子宮腺筋症の治療について、担当医から「手術はできない」と言わ れ、薬物療法として今回生理2日目からジエノゲストの服用を開始。

精子データ

異常なし

子宮腺筋症とは

子宮腺筋症とはどのような病気なのでしょうか。
秋山先生 子宮腺筋症とは、子宮内膜に似た組織が子宮の筋肉の中にできてしまう疾患です。
以前は、子宮の外側の腹膜や卵巣などにできるものを外性子宮内膜症、そしてこの子宮腺筋症を内性子宮内膜症と呼
び、子宮内膜症の一種と考えていましたが、最近は単独の疾患として分類されています。
本来、子宮内膜にあるべき組織がほかの場所にできてしまう点では、確かに子宮内膜症と同様の病気といえます。

子宮筋腫との違いなど

筋肉の中に組織ができるということですが、子宮筋腫とも違う病気なのですか?
秋山先生 子宮腺筋症と子宮筋腫は 30 %程度の高い頻度で合併するのですが、子宮筋腫とはまたちょっと違う病気です。
 子宮筋腫は、子宮をつくっている 平滑筋という筋肉にできる腫瘍です。
子宮腺筋症というのは、子宮内膜に似た組織が腫瘍のようにポコッとできるのではなく、びまん性といって、広範囲にわたって腫れる病気なのです。
 筋腫の場合は健康な組織との境目 がはっきりしているため簡単に切除できることが多いのですが、腺筋症は境目がないので、手術で病巣を切除することは非常に難しいんです。
そのようなことから、りらさんの主治医の先生も「手術はできない」と判断されたのではないでしょうか。
この病気になりやすいのはどのような人ですか。また、症状の特徴は?
秋山先生 比較的年齢が高い方に起こりやすい病気のようです。
一般的な子宮内膜症は 20 ~ 40 代にかけて多く見られますが、子宮腺筋症は 40~ 50 代の方に多いといわれています。
症状は子宮内膜症と似ていて、月経困難症、月経時以外の腹痛、過多月経、不正性器出血などが挙げられます。

子宮腺筋症と妊娠

子宮腺筋症になると妊娠しづらくなってしまうのでしょうか。
秋山先生 子宮腺筋症により不妊をきたす主な原因は、着床障害と考えられています。
子宮内膜症と同様の組織から出される免疫物質が卵胞の発育や着床を阻害するという説や、子宮の筋肉が異常に収縮することにより、精子や受精卵の輸送がうまくいかなくなるというような説があります。
しかし、 35 歳以上の妊婦さんを帝王切開した際、 15 %程度の人に子宮腺筋症が認められたという報告もあります。
ですから、必ずしもこの病気が妊娠成立の邪魔をしているわけではなく、病気があるからといって妊娠を諦めることはないと思います。
ただし、エストロゲン(卵巣から分泌される女性ホルモンの一種)により状態が悪化してしまう病気なので、不妊治療との兼ね合いは非常に難しくなります。

子宮腺筋症の治療法

では、子宮腺筋症の治療法について教えてください。
秋山先生 治療は大きく分けて、ホルモン剤による治療とそれ以外の治療ということになります。
 ホルモン療法は、GnRHアゴニ スト(点鼻や注射)で脳からのホルモン分泌を抑えて排卵を止める方法、低用量ピルでホルモンのレベルを下げる方法、それから、りらさんも服用されているジエノゲストによる方法。
この薬は黄体ホルモン製剤で、子宮内膜症を縮小させる効果が比較的高いといわれています。
 ほかに、りらさんが今後の治療の 選択肢として挙げられているダナゾール(子宮内膜症を直接治療する薬剤)の内服・腟内投与・子宮内投与。
これは昔からある薬で、子宮内膜症に対する効果は比較的高いのですが、肝機能への影響や男性化してニキビができてしまうなど、副作用も出やすいといわれています。
あとは、ミレーナ ® という黄体ホ ルモンの一種を放出する避妊リング。本来の使用目的ではありませんが、これを入れると子宮内膜症もよくなると考えて治療されている先生もいらっしゃるようです。
ホルモン療法以外の治療としては手術による病巣切除がありますが、先に申し上げたように、子宮腺筋症は病巣が広範囲なので切除が難しいうえ、妊娠成立後の子宮破裂のリスクが高まることもいわれています。
また、りらさんが調べられたように、手術は保険適用外なのでどうしても高額に。
外科的な治療としてはほかに、足の付け根からカテーテルを入れて病巣に行く血管を塞ぎ、病巣を小さくさせる動脈塞栓術という方法がありますが、この施術も子宮腺筋症に対しては有効性や危険性がまだはっきりしていないことに
加えて、保険適用外のため治療費が高額になります。
また、りらさんも考えている3EPですが、これは3EPという子宮内膜症の薬を局所に直接注射する方法です。
まだ新しい薬で、一応安全性は認可されていますが、日本では限られた施設でしか使用されていません。
これらのなかで安全かつ現実的な 治療といえば、やはりホルモン療法ではないでしょうか。
ただし、この治療は不妊治療と併行して行うことはできません。
妊娠を望む場合は、ある程度の期間ホルモン療法を続けて、病巣が少し小さくなってから体外受精を行うという選択が一番いいのではないかと思います。
※ジエノゲスト:卵巣機能の抑制や子宮内膜の増殖を抑制して、子宮内膜症を治療する薬。ディナゲスト®がある。副作用として父性出血が続く可能性がある。
※ダナゾール:子宮内膜症の治療薬。※3EP(3-ethyl pyridine):3-エチルピリジン。ウイスキー、ビール、紅茶などの食品中に存在し、アサリ、ラム肉、イカなどの加熱調理により生成する成分。基本的安全性はアメリカのFDAをはじめ、日本内閣府の食品安全性委員会が保 証している。
>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。本サイトの全ての記事は医師監修です。