【Q&A】体外受精へのステップアップは遅かったのか?~中島先生【医師監修】

リリママさん(36歳)
36歳女性、AMH4.75で多嚢胞です。
33歳のとき人工授精1回目で第一子出産。2人目不妊で治療して2年経過しました。
タイミング法と人工授精でトライしてきましたが、今年8月にステップアップのために転院。
体外受精顕微授精をこれから始めます。
原因不明の不妊のため、検査は何をしたら良いですか?
治療は何をしたらいいのか、現在までの治療法と今の治療法で良いのか、他にしたらいい検査・治療はあるのか教えていただきたいです。
【医師監修】空の森KYUSHU 中島 章 先生 鹿児島大学医学部卒業。久留米大学病院産婦人科、国立成育医療センター周産期診療部不妊診療科(現・国立成育医療研究センター)などを経て、空の森CLINIC(沖縄県)立ち上げより参加。2022 年4 月、地元久留米市に空の森KYUSHU 開院、院長就任。サッカー観戦が趣味で、特にアビスパ福岡を応援しているそう。
※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください

①原因不明の不妊のため、検査は何をしたら良いですか?

本当に原因不明でしょうか?子宮卵管造影検査や子宮鏡検査など、基本的な不妊原因の検査を受けることができたのか?確認が必要だと思います。もしかしたら実は卵管が通じていないという可能性も否定はできません。着床環境も一度確認してみるとよいと思います。子宮内膜ポリープなどの着床阻害要因はないでしょうか?また、月経量が極めて少ない場合、子宮内膜が十分な厚みがなくなっている可能性があります。漫然とクロミフェン内服を2年間使用していると、子宮内膜の厚みも薄くなり、十分な頸管粘液が出なくなってくることにより妊娠しづらくなる可能性があります。

②治療は何をしたらいいのか、現在までの治療法と今の治療法で良いのか、他にしたらいい検査・治療はあるのか教えていただきたいです。

もしも、もう少し先に述べたような精査を行った上で、人工授精などの治療を別の医師の目線で捉えながらやってほしいという場合には、その先生とよく相談されてください。他にもより精査していきたいのであれば、4-7日程度の入院を要しますが腹腔鏡検査により卵管周囲の癒着や子宮内膜症が無いか?を確認して、必要に応じて治療する方法もあります(しかし上に小さいお子さんがいる状態での入院は現実的ではないかもしれません)。これまで2年間一般不妊治療をやってきた上で、体外受精・顕微授精を検討されているのであれば、基本的にはその方向性でトライすることをお勧めします。

多嚢胞性卵巣症候群の場合の治療の選び方や注意点について教えてください。

 多嚢胞性卵巣症候群の場合、卵巣刺激により卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を発症する可能性があります。アンタゴニスト法やPPOS法、低刺激法などで卵巣刺激を行うことで、OHSSリスクを低減できる可能性があります。刺激に用いる注射の量もAMHや注射開始日の2-7mm程度の卵胞数、血中FSH値、体重などを評価して適切な量を検討する必要があります。それでもなおOHSSリスクが高い状態に多数の卵胞発育があるようなら、最終成熟(トリガー)にはGnRHアゴニストを使用するとその重症化を予防できます。カベルゴリンの内服をトリガーした日から開始することも重症化予防に重要です。

④治療を続けるにあたって受けた方が良い検査はありますか?

保険診療で可能なレベルであれば、上記のような内容となります。

保険外診療であれば、従来、抗精子抗体検査などを行っていましたが、現在はその実施は混合診療と考えられるため各施設での方針に従っていただく必要があります。

タイミング法や人工授精をおこなっている段階で不妊原因について考えられる検査レベルと、体外受精・顕微授精を行った上で考えていく不妊原因の精査可能な検査レベルには違いがあります。

今は前向きに治療を進めていき、しっかりとよい受精卵ができることを確認し、移植できる内膜ができるかを確かめていくことが大事です。着床予測が高い質の高い受精卵の移植で妊娠が成立しない場合に、何らかの着床を阻害する原因がある可能性がありますが、その時になって考えていくとよいと思います。

しかし、原因追求を考え過ぎていくと、自分自身で昼夜問わずスマホで検索しようとしすぎて、頭の中がそのことでいっぱいになってしまい、不妊治療のストレスも大きくなっていく傾向があります。もちろんはっきりと原因が分かれば良いかもしれませんが、年齢が高くなるにつれ、原因不明不妊症の夫婦の割合は増加します。つまり卵子の老化が原因の一つではありますが、早めに決断して、前向きに治療を行なっていくことそのものが大事になります。

⑤月経について問題はないでしょうか? 問題があれば、改善するために何をすれば良いでしょうか?

 

月経量と子宮のコンディションが連動しているのか?については、一概には言えません。月経の状態に関しては、周期ごとに少しずつ様子が違っていることもよくありますので、まずは主治医の先生に排卵時期の内膜の様子をしっかりと超音波で見ていただくことが最も重要です。

その中でも、まずは子宮内膜の厚みを気にしておく必要はあると思います。排卵直前の子宮内膜の厚みが7mm以上あるのならば、あまり月経量を気にする必要は無いと思いますが、7mm未満であれば、受精卵を移植しても着床率が低くなる可能性があります。内膜の厚みを増す方法については、保険診療で十分に診療を行うことは難しいことが多いです。子宮の血流改善を目的に冷えの解消や、ウォーキングなどの運動療法に加え、十分な卵胞ホルモン製剤を併用することなどが必要となりますが、改善が見られない場合には、保険外診療であれば自分の血小板を使った治療で、再生医療としてPRP療法やPFC-FD療法などの治療方法が使用されることがあります。他にもG-CSFという薬剤を子宮内に注入する治療方法などもありますが、いずれも保険診療での体外受精・顕微授精、胚移植を行う上では混合診療となりますので併用はできません。

次に、もし帝王切開で第1子を分娩しているのならば、帝王切開による子宮の切開部分の傷が深く残っていないか?を確認しておいた方がよいかもしれません。帝王切開の傷の部分が深く残っている場合に月経がダラダラと長く続いたり、茶色の粘り気のつよいおりものが出たりすることもあります。この場合、着床しづらくなっている可能性もありますので、必要に応じて子宮鏡手術や腹腔鏡手術による子宮創部の手術を行うこともあります。

また、全身状態についても考慮する必要があります。貧血気味であれば鉄剤や鉄サプリで十分に改善をしておくことで、しっかりと月経量が増えてくる方もおられます。妊娠・出産後に体調を安定させておくためにも、今のうちに採血検査(血算、血清鉄やフェリチン)をやっておき、必要に応じて十分な貧血治療をしておいた方がよいと思われます。

⑥今後の治療について、アドバイスをお願いします。

いずれにせよ、一般不妊治療から専門的な生殖補助医療にステップアップした際には、生殖医療専門医の診察を受けることになると思いますので、状態に合わせた検査治療内容を、主治医の先生とよく相談して、納得のいく治療をうけていただきたいと思います。

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