妊娠できないかもという不安

不妊治療をしているのに授からず、その理由がわからないと「私は妊娠できないかも…」と、心配になりますよね。そんな時はどうしたらいいを花小金井レディースクリニックの長島隆先生に教えていただきました。

長島隆先生(医療法人社団 隆清会 花小金井レディースクリニック院長)
北里大学医学部医学科卒業。慶應義塾大学医学部産婦人科学教室入局。2009年に米国ベイラー医科大学病理学教室留学。 医療法人社団 生新会 木場公園クリニックにて副院長を務める。「産婦人科専門医として培った様々な知識や技術を生かしつつ、患者さまがふらっと気軽に立ち寄り、高度で丁寧な診療と治療を受けることのできる、温かみのあるクリニックを立ち上げたいと考え、花小金井に同クリニックを開業。
相談者:れいさん(28歳)最近、不妊治療を始めましたが、不安でいっぱいです。6カ月ほど自分でタイミングをとっていましたが、生理痛もひどかったため思い切って不妊外来へ通い始めました。卵胞期や黄体期のホルモンに問題はなく、卵胞も育っていたのでタイミングをとり、着床を助ける薬を服用したもののNG。再度、卵胞計測を受けに行ったところ、卵胞が育っていないため、薬で誘発することに。現在の通院している医療機関では、卵胞が育たない理由や治療方針などをあまり話してもらえず、不安で一杯です。ネットを検索するといろいろな不妊原因が出てきて心配になり、先生を信用できなくなったり、妊娠できないかも…と、精神的に不安定になりがちです。卵胞が育たないのは機能が落ちているからでしょうか。私はこれからどうしたらいいでしょうか。

無排卵周期症の可能性があることと、月経時検査の内容が不十分であるのが気になります

まずは月経周期(生理周期)が32日ということ。少し長めですが、規則正しく発来しているので、排卵できている可能性はあります。しかし、「発育卵胞を認めない」と言われたことを考慮すると、れいさんが無排卵周期症である可能性もあります。無排卵周期症とは、月経(生理)のような出血が周期的に発生するものの排卵できていない、排卵障害の1つです。

また、今まで受けた検査を拝見していると、月経期でしかできない、月経、卵胞発育、さらに排卵に関与するホルモンの採血で、受けるべき検査項目で受けていないものがいくつかあります。

まずは甲状腺機能検査です。甲状腺刺激ホルモン(TSH)や甲状腺ホルモン(FT3とFT3)を検査し、排卵障害や流早産の原因となる橋本病やバセドウ病の可能性を調べるものです。

れいさんは、以前、多嚢胞性卵巣の可能性がわかるテストステロンの数値を黄体期に調べていますが、通常は月経期に受けるべきものであり、さらにテストステロンではなくフリーテストステロンの方がより診断精度の高い検査項目になります。さらに、テストステロンの前駆体であるDHEA-S(デヒドロエピアンドロステロンサルフェート)も同時に調べると、テストステロン分泌状態が計測でき、この数値が高いと排卵障害で最も頻度の高い多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の可能性が考えられます。

卵子の在庫数がわかるAMHの数値を調べておくことも大切

また、卵巣内に卵子がどのくらい残っているかを調べるAMHの数値も検査しておきましょう。高値の場合、PCOSである可能性が考えられます。PCOSとは、卵巣内にたくさんの卵胞がみえるものの、どれも充分に育たず、排卵できない状態です。よく「PCOSだとAMHが高くなる」といいますが、たまにPCOSの診断基準を満たしていないのにAMHの高い人がいます。どういうことかというと、PCOSだからAMHが高くなるのではなく、もともとAMHが高い、要するに他の人に比べてもともとの卵胞(始原卵胞)の数が多いためにPCOSのような排卵障害になる人もいるようです。ただ、PCOSの場合も、AMHが高値の場合も、排卵障害を伴う場合が殆どのため、排卵誘発剤を用いて排卵を促す必要があります。

一方、稀ですが「PCOSだとAMHが高い」とは限らない場合もあります。PCOSの方は、正常に排卵している人と比較して、1回の排卵周期でより多くの卵子を消費していることになります。おそらくは、若い頃はAMHが高かったのに卵子の消費スピードが早いため、ある一定の年齢に達すると、正常に排卵している人と比較して、AMHが年齢のわりに低下してしまうのだと思われます。

AMH値だけでは、排卵しやすいか、排卵しにくいはわかりません。しかし、一般的にはAMHがかなり高い人は排卵しにくいと言えます。一方で、AMHがかなり低い人は残された卵子の数が少ないと考えられ、体外受精による不妊治療でも不利となります。よって、不妊治療を計画的に行い、AMHが正常である人よりは治療を急いだ方が良いと言えます。以上より、AMH検査と合わせて月経時のホルモン検査を正しく受けることで、不妊治療の方針を正しく決めることができることをご理解いただけたと思います。

子宮内膜症は細胞レベルの疾患。腹腔鏡手術をしてみないと、子宮内膜症ではないと正しく診断することは通常できません。

れいさんの質問内容にある「生理の時、生理痛がひどく、すんなり終わらない」という部分が気になります。こういった症状の場合、月経時に子宮が極度に収縮することによる痛みのほか、子宮内膜症である可能性も考えられます。子宮内膜症とは、本来なら子宮の内側にしかない内膜やそれに似た組織が、卵巣や卵管など、子宮の内側以外の部分で増殖してしまう疾患です。月経の度に出血を起こすために月経量が多くなったり、月経痛がひどくなる症状がみられます。また、不妊の原因にもなります。

れいさんの検査歴には「子宮内膜症なし」とありますが、どんな検査を受けたかが気になります。子宮内膜症は細胞レベルの疾患のため、腹腔鏡手術を受けてみないと正確な診断はできません。もし超音波検査だけで「内膜症なし」と診断された場合は、検査時には超音波に映らないほど小さいな内膜症の病変が、現在では超音波検査で発見できるほど大きくなっている可能性があります。

また、子宮のまわりにある子宮筋層に内膜に似た組織が増殖することで、月経の度に出血して子宮筋層が厚くなっていく、「子宮腺筋症」という病気があります。この病気は、子宮内膜症を有する方の約70%に発生すると考えられており、着床障害の原因にもなります。子宮腺筋症は、子宮筋層の厚みに部分的に差が生じたり、筋層内に異常血管が発生したりすることで、その存在を確認することができます。れいさんの場合も、上記のような所

高温期にエストロゲンを測定し、数値が基準値以下なら薬の服用を

高温期にプロゲステロンを測定していますが、エストロゲンも一度調べておきましょう。エストロゲンは、プロゲステロンと共に排卵後の卵巣から分泌され、子宮の内膜に脱落膜化という変化を生じることで、受精卵を着床しやすくさせます。エストロゲンが基準値に満たない場合は、プレマリンかジュリアを、プロゲステロン製剤であるデュファストンやルトラールと一緒に服用し、着床をサポートすることが大切です。

また、これから卵胞の発育を薬で促すということですが、クロミッド、セキソビット、フェマーラなどいくつかの薬があります。ちなみに当院ではフェマーラをおすすめしています。クロミッドの場合、服用を長期に続けると子宮内膜が薄くなってしまい、妊娠率が下がっていくリスクがあります。フェマーラはその心配がなく、4月の保険改正により保険で処方することが可能となったので、今後は不妊治療の第1選択薬として使用される機会が増えると思います。

治療の疑問や不安はかかりつけ医にぶつけてOK。1人で悩まないで

不妊治療は、きちんと取り組んでいても思うような結果が得られないこともあるため、精神的にとても不安定になる患者さんも少なくありません。そのうえ治療方針がよくわからないと更にストレスがかかってしまい、途方に暮れることもあると思います。少子化に伴い、2022年4月から健康保険で行える不妊検査や不妊治療が大幅に拡大されました。この改正に伴い、人工授精以上の不妊治療を行う医療施設では、一般不妊治療管理料を徴収する代わりに不妊治療計画書を作成。それを患者であるご夫婦にきちんと説明し、サインをもらうことになっています。そのため、治療方針がわからず、不安を感じる患者さんは減っていくと思います。

ただ不妊治療で出てくる言葉は難しいものも多く、一度の説明でわからないことや、不安なことも多くあると思います。そういう時は主治医の先生にどんどん話して不安をスッキリさせるのが良いでしょう。案外聞いてみると、いろいろ詳しく説明してくれる場合が多いと思いますし、医師患者間の信頼関係が増すことにも繋がります。

ただ、れいさんが質問したことに対して回答が不十分だったり、先生に対して質問しづらいと感じた時は、思い切って転院を検討してみるのも良いと思います。転院先を探す際は、不妊に関する知識と経験がないと取得できない不妊治療専門医のいる医療機関を選んだ方が良いので、事前に確認することをお勧めいたします。

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