排卵誘発剤が効かない場合の治療方針

PCOSの疑いがあり 排卵誘発剤で卵胞が育ちません

宮崎 和典 先生 大阪医科大学医学部卒業。学生時代の新生児医療への興味がきっか けとなり、体外受精や不妊治療の世界を志す。同大学産科婦人科講師 を経て、1992年に不妊症、不育症治療専門クリニック、宮崎レディー スクリニック開業。平成29年4月、クリニック名を「うめだファティリティー クリニック」と改称し、名誉院長就任

ドクターアドバイス

●いろんな排卵誘発剤を組み合わせることで、スムーズに排卵する可能性が高いです。
●一般的に人工授精は5〜6回が目安です。今後の結果次第では体外受精も検討して。
タルタル さん(32歳)からの相談 Q.多囊胞性卵巣症候群の疑いありと診断され、排卵誘発剤 を2周期使いました。1周期目は、D5 からクロミッド Ⓡ1 錠×5日間。卵胞が大きくならず、プラノバールⓇでリセット。 2周期は、D5 からクロミッド Ⓡ2錠×5日間。 それでも卵 胞が育たないので、D13とD15の2回ゴナピュールⓇ注 射。人工授精を希望していますが、転院した昨年9月以降、 1度も実施できていません。最後の診察の際に「排卵誘 発剤が効かないのであれば、体外受精をすすめる」と言 われたのですが、急なステップアップに理解と知識がつい ていけません。体外受精に移行したほうがいいのでしょう か? 今後、どんな排卵誘発法が考えられるでしょうか?

多囊胞性卵巣症候群(PCOS)について 教えてください。

宮崎先生 PCOSはとくに若い女性に みられる病態です。卵巣のなかで卵胞が成 熟できず、卵巣の表面に小さな囊胞がたく さんできることから、ネックレスサインと も呼ばれています。他にも黄体化ホルモン (LH)や男性ホルモンの過剰分泌、イン スリン抵抗性、肥満など、多彩な病態を示 します。一般的な所見としては、生理不順 や無排卵、基礎体温の乱れなどがあります。 PCOS の方の特徴として肥満や多毛が 上げられますが、日本人の場合、多毛はあ まり見られません。
  ただし LH 値が高いため、どうしても卵 胞の発育が悪くなり、月経異常になります。
タルタルさんは「PCOSの疑い」とのこ とです。

一般的にPCOSはどのように診 断されるのでしょうか。

宮崎先生 日本産科婦人科学会の診断基準 では、次の3つを満たすものをPCOSと 呼んでいます。 ①月経異常(無月経、稀発月経、無排卵周期症) がある ②超音波検査で多囊胞性卵巣が確認できる ③血液検査で男性ホルモンが高い、または LH値が高く、FSHが正常値 そのほかに、インスリン抵抗性の検査もあ ります。
  とはいえ、PCOSは境界領域が広く、た とえば「、疑い」の場合は多囊胞性卵巣があっ てもきちんと排卵している場合もあります ので、血液検査が大きな目安になります。タ ルタルさんはLHとFSHの数値が書かれ ていませんので、具体的な疑いの程度がわ かりにくいですね。

一般的にはどんな治療法がありますか?

宮崎先生 肥満の傾向がある方は、まずは 体重管理が重要になります。一般的に目標 体重はBMI(体格指数) 25 未満が望ましいとされています。
  タルタルさんは、クロミッドⓇを1周期に 1錠、2周期に2錠使用されています。こ こからは保険適用外のお話になりますが、 当院ではクロミッドⓇを3錠にして、赤ちゃ んを授かる方もいます。さらに、クロミッ ドⓇを1回使用して、1週間後の超音波検査 で排卵が難しいと判断した場合、再度クロ ミッドⓇを使用する「2段階投与」が有効な こともあります。ほかにも、レトロゾールと いったアロマターゼ阻害剤など、いろんな 排卵誘発剤の組み合わせでスムーズに排卵 する可能性が高いと思います。PCOSの 方はOHSS(卵巣過剰刺激症候群)にな りやすいため、慎重に行う必要がありますが、 最近は自己注射などでOHSSをかなり予 防できます。

  また、インスリン抵抗性がある場合は、糖 尿病薬のグリコランⓇやメトグルコⓇ、ある いは柴 さいれいとう 苓湯という漢方で、治療と並行して 改善していきます。一般的に人工授精は5 〜6回が目安とされていますので、それで も結果につながらないようであれば、体外 受精を検討されてはいかがでしょうか。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

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