中村 嘉宏 先生 大阪市立大学医学部卒業。同大学院で山中伸弥現CiRA 所長の 指導で学位取得。大阪市立大学附属病院、住友病院、北摂総合 病院産婦人科部長を経て、2013 年より藤野婦人科クリニック勤務。 2015 年4月なかむらレディースクリニック開院。庸軒流の茶道歴5年 の先生。現在は薄茶平点前を卒業し、炭点前を練習中とのこと。「お 茶の世界は、一見形式的に見える所作の一つひとつにも意味があり ます。一つの所作を決しておろそかにせずに体が覚えるまで反復練習 することが重要です。この点は医療にも通じますね。」

子宮内胎児発育遅延で死産し、 その後も流産を経験。

今後の治療法を教えて

ひでこっちんさん(43歳)からの相談 Q.7年前から不妊専門科に通院し、2回目の人工授精にて妊娠。しかし、子宮内胎児 発育遅延により7カ月で死産。その後、体外受精にステップアップし、採卵するも なかなか胚盤胞まで育たず、採卵回数が増えました。移植1〜2回目(39歳)は陰 性。3〜4回目(40歳)は二段階移植にするも陰性。その後、リンパ球免疫療法を し、二段階移植5〜6回目(40歳・41歳)も陰性。今年8月にリンパ球免疫療法+二 段階移植し、移植では陽性反応が出ましたが、5週目で流産。最後の移植になる かもと思っていましたが、初めて陽性反応が出ました。まだ大丈夫なのかなと思い 始めてきましたが、この先どのような治療方法がいいでしょうか。今年になり、通 院できる範囲に病院ができ、転院もアリかなと思い始めています。

甲状腺機能異常

ひでこっちんさんは、死産と流産を経験されています。考えられる原因はありますか。
中村先生 死産と流産が続き、さぞ辛い経験をされたと思います。
妊娠してもなかなかうまくいかないのは、心が折れそうになりますね。
ひでこっちんさんの場合で気になるのは子宮内胎児発育遅延で死産されている点ですね。
原因として、抗リン脂質抗体によるものや凝固因子の異常が考えられます。
その他にも甲状腺機能異常が考えられます。
いずれも重要な不育症の原因なので、検査されることをお勧めします。
検査で問題があれば、まずはそれに応じた対応が必要です。

胚盤胞移植にこだわらない

現在 43 歳とのことです。年齢の点から考 えられることはありますか。
中村先生 卵子や胚細胞の加齢による変化を考慮し、胚細胞へのストレスをなるべくさける治療が必要です。
まず、なかなか胚盤胞に到達しないとのことですが、当院の体外受精のデータでも 40 歳近くになると、胚盤胞の形成率 が明らかに低下してきます。
加齢に伴って、長期の体外培養が胚細胞の成長にとってストレスになります。
そのような場合は、あまり胚盤胞移植にこだわらず、より培養期間の短い、 2 日目、あるいは 3日目の分割期胚を移植することをお勧めしています。
次に、凍結融解胚移植は、子宮内膜の状態と胚細胞の成長段階を同期させる優れた方法ですが、加齢に伴い、凍結、融解操作が胚細胞にとってストレスになる可能性も考えられます。
次回は分割期胚の新鮮胚移植も検討されてはいかがでしょうか。
仮に採卵周期に内膜が薄いなど、新鮮胚移植ができない場合、当院では凍結のストレスに強い、前核期胚の段階で凍結し、胚移植周期に前核期胚を融解して培養し、2 日目、あるいは 3 日目胚を移植しています。

誘発法の工夫

採卵方法についてはいかがでしょうか。
中村先生 この方は、排卵誘発にFSH製剤を使用されています。
40 歳を超えて くると、FSH製剤を大量に用いても、低刺激法と採卵数があまり変わらないことがあります。
当院では基本的にクロミフェンとhMG製剤を併用した低刺激法で誘発しています。
クロミフェンで結果が出ない場合は、クロミフェンをフェマーラⓇなどのアロマターゼ阻害剤に変えたり、排卵誘発剤を全く使わない完全自然周期を選択したりしています。
フェマーラはクロミフェンⓇに比べて内膜が薄くなりにくいため、新鮮胚移植の場合にも用います。
45 歳以上の症例であれば、妊娠例の多 くが排卵誘発にアロマターゼ阻害剤を用いているという報告もあるようです。
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