初の顕微授精で不安いっぱい。本当に胚盤胞で移植したの?卵管造影検査は必要ないの?【医師監修】

治療が高度になるほどに、患者さんの不安は尽きません。 なぜ胚盤胞移植が一般的なのかという基本的なお話から クリニックママの古井先生に伺いました。

【医師監修】古井 憲司 先生 1986年日本医科大学卒業。1年間の研修医を 経て、1987年名古屋大学産婦人科学教室入局。 名古屋大学産婦人科では文部教官を務める。さ らにその後、大垣市民病院産婦人科医長を経て、 1998 年クリニックママを開院。A 型・やぎ座。 同クリニックでは、今年の春から約60坪の畑 で無農薬野菜を栽培する「クリママファーム」 がスタート。採れた新鮮・安心野菜は、院内の レストランのメニューで登場! 手書き発行の『レ ストラン ポワーヌ新聞』も要チェックです。

ドクターアドバイス

◎ 胚移植は経腟超音波ガイド下で
◎ 3BB以上の胚盤胞であれば妊娠の可能性は十分
◎ 3回を目安に転院するのも一つの選択肢
たかこさん(35歳)Q.今年の春から治療を始め、初めての顕微授精で、勉 強不足でわからないのですが「受精卵は胚盤胞まで 育ちました」と培養士さんから聞いていましたが、移 植後7日目の受診の際、カルテに「ET」と判子が押 してありました。「BT」ではなく「ET」です。 最初の説明会でも、胚盤胞まで育てての移植と聞い ていましたし、看護師さんにも子宮卵管造影検査は 必要ないと言われたので検査はしていません。今回 の「ET」は、もし卵管が通っていなかった場合、無 意味な移植なのではないでしょうか?

これまでの治療データ

■ 検査・治療歴

血液検査のみ、ただし生理中の血液検査は受けてい ない。
AMHも不明。
ショート法での採卵。
新鮮胚移植は卵巣が腫れていたため、中止。自然周期で移 植予定だったが、排卵の有無が確認できないため中止。
人工周期で移植。
現在に至る。

■ 不妊の原因となる病名

乏精子症

■ 現在の治療方針

現在はホルモン補充中。
エストラーナ ® テープ3枚を 1日おきに貼る。
プロゲステロン膣座薬を朝・晩使用。
移植後7日目にプロゲストンデポー筋注。
現在に至る。

胚盤胞移植の意味

そもそも、なぜ胚盤胞まで育てて移植するのでしょうか?
古井先生 当院では全例、胚盤胞移植を施行しています。
それはDay2やDay3での分割期胚移植の場合、胚盤胞を選択する場合に比べて、本当の良好胚を選択するのが難しいからです。
Day2で4分割、Day3で8分割まで発育した胚が良好胚といわれていますが、実際にDay3で8分割になり、フラグメンテーションも少なく割球の大小不同もない、そういった良好胚が、双実胚までで止まってしまうとか、胚盤胞までいかないケースは、当院の統計では全体の約 20 %もあります。
ですから、Day2、Day3で選別するよりも、胚盤胞まで発育したものを選んだほうが、選択としてはより確実なわけです。

分割のスピードの意味

良好胚を見極める目安は?
古井先生 やはり分割のスピードだと思います。
当院ではオリジナルのDay3の胚評価スコアがあって、これは論文としても発表しましたが、かなり胚盤胞への到達率を予見できる内容です。
当院はそれに従ってDay3胚の評価を行っておりますが、そのなかでグレードの高い胚でも胚盤胞の到達率は先程も述べましたように約8割です。
ですから、やはりDay5やDay6での胚盤胞移植のほうが確実だと言われていますし、当院でもそのように考えております。
ただ、体外で長期間培養をするということについては、学会でもエビジェネティック(遺伝子的)な問題が問われています。
そういったことも含めて、胚盤胞移植がいいか分割期胚移植のほうがいいかという問題については、まだ結論が出ていないのが現状です。
現在、どの施設も1個胚移植が一般的です。
当院でも、年間の移植胚数は平均 1.1 個です。
稀 に患者さんの希望が強い場合、2個ということもありますが。
つまり、1個胚移植をしようとすればするほど、より確かな胚評価をしたいということで、最近では胚盤胞移植をする施設が多くなっているのが現状です。
当院では、2004年から全例、胚盤胞移植を施行しており、当時は他施設から異様に映っていたようです。

移植と卵管の状態

たかこさんは、初めての胚移植で胚盤胞移植(BT)と聞いていたのに、カルテには初期胚移植(ET)と記載されていたとのことです。また、ETだった場合、卵管が詰まっていたら無意味な移植ではないかと不安を覚えているようです。
古井先生 この点はあまり心配せず、培養士さんの言うことを信用していいと思います。
当院では、全例、胚盤胞移植のため、そもそもそういう判子を作っていませんが、胚盤胞まで育てて移植したというのであればBTという判子を作っていないだけで、ET、すなわち、その日に胚移植をしたという意味で間違いない
のではないでしょうか。
子宮卵管造影検査については、ETの場合は胚を子宮内に移植したのち、一旦、その胚が卵管に戻ってから再び子宮に戻って着床するという説を唱えているクリニックもありますが、私は別に卵管が通っていなくても問題ないと思っています。
確かに卵管を通した後のほうが着床率は高いという報告は他にもありますが、もともと体外受精は卵管が詰まっているなど卵管障害のある人に有効なわけですから、たかこさんの胚移植は決して無意味ではないと思います。
これも特に気にする必要はないでしょう。

経膣超音波移植

移植の際、特に着床率を上げる胚移植の方法はあるのでしょうか。
古井先生 やはり、経腟超音波ガイド下による胚移植でしょう。
現在、まだまだ一般的な経腹超音波ガイド下での胚移植に比べ、経腟超音波ガイド下では、胚移植カテーテルの先端がより鮮明に観察でき、胚を子宮内の適切な位置にピンポイントで戻すことができます。
私は、子宮底からおよそ8〜 10 ㎜くらいの場所に戻すのが有効だと考えているのですが、経腟超音波ガイド下での胚移植では、正確にその位置に戻すことが可能です。
当院の胚移植あたりの妊娠率が 50 〜 60 %を毎月維持しているのもそのためと自負しております。
また、経腹超音波ガイド下での胚移植の場合は、患者さんは胚移植前に膀胱に尿を溜めなければいけないという負担があります。
しかし、経腟超音波ガイド下での胚移植では、その必要がありません。
その負担を軽減するだけでも、経腟超音波ガイド下での胚移植のほうがよいのではないかと思います。
もちろん、経腹超音波ガイド下での胚移植でいい成績を出している施設もあると思いますが、それは、今まで長期間やってきたからのことであって、将来的にはどの施設も、全例、経腟超音波ガイド下での胚移植を行うようになると私は考えています。

グレードと妊娠率

最後に、不安を感じている患者さんへメッセージをいただけますか。
古井先生 たかこさんの場合、まずは胚盤胞にはなっていますから、次は、そのグレードがどのくらいなのかということが大事です。
胚盤胞のグレードにはAA〜CCランクまであるのですが、基本的には3BB以上の胚盤胞ができていれば、妊娠の可能性は十分あると思います。
それから、最近つくづく感じるのは、培養液などによっても結果は変わるということです。
使用している培養液も排卵誘発の方法も施設によってさまざまですから、1つの病院で3回くらいを目安に胚盤胞ができなければ、病院を変えてみるのも患者さんの1つの選択肢だと思います。
ただ、3回やっても良好な胚盤胞ができているのに妊娠しない場合は、あと2回くらいは同じクリニックで粘ってもいいかもしれませんが、 10 回も 20 回も同じ施設で行うのはよくないと思います。
私自身、もちろん精一杯治療をしておりますが、3回で結果が出せなければ、他の病院に移っていただいてもまった
く気になりません。
それは、3回もチャンスをもらったのに結果を出せなかったのですから。
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