俵史子先生の、不妊治療はじめて講座③【医師監修】

はじめての不妊治療は わからないことがいっぱい。 今回は「検査後の治療の流れ」について、 俵先生が丁寧に お話ししてくれます!

治療の方針は ご夫婦の希望も大切。 納得して進めるように 意見をきちんと伝えて

【医師監修】俵 史子 先生 浜松医科大学医学部卒業。総合病院勤務医時 代より不妊治療に携わり、2004 年愛知県の 竹内病院トヨタ不妊センター所長に就任。 2007年、 出身地の静岡に俵史子 IVFクリニッ クを開業。 最近は体調と体型維持のためにホッ トヨガに通っているとか。汗がたくさん出て美 肌効果もあるそうです。
でろんでろんさん(電話番・31歳) Q.今日、病院デビューしてきたのですが、 なんだかよくわからないので教えてください。 クリニックでまず言われたことが 「ヒューナーテストが良好だったらお互いに問題ないから、 この先3年経っても自然妊娠はできませんよ」でした。 それぞれの個人差もあると思うのですが、 大体どのような流れで治療しているか教えてください。

検査の後は、不妊治療以外にも いくつかの選択肢があります

基本的な検査が終わったら、その後すぐに不妊治療がスタートする」と思われている方が多いかもしれませんが、必ずしもそうとは限りません。
選択肢は1つではなく、検査の後はその結果や患者さんのご希望によって、いくつかの方向に分かれます。
当院では、不妊治療に入る場合は、検査で特に問題がない方は「タイミング療法」からスタートします。
ただし、ヒューナーテストの結果が悪い場合や、精液の所見があまりよくない場合は、「人工授精」からトライしていただくことになります。
ここまではいわゆる一般不妊治療といわれるものですが、卵管閉塞など卵管の状態に問題があったり、精液所見が極端に悪い場合は、一般不妊治療は行わず、高度不妊治療といわれる「体外受精」や「顕微授精」をおすすめする場合もあります。
また初診時に、大きな子宮筋腫チョコレート嚢腫などが見つかった場合は、不妊治療より腹腔鏡手術などの外科的な治療を優先することも。
さらに、待機療法といって、「何もしない」という選択肢もあります。
たとえば、子宮卵管造影検査をした後は一時的に卵管の通りがよくなり、妊娠の可能性も上がると考えられています。
患者さんの年齢が若く、不妊期間も短いという場合は、特別な治療はせず、半年くらいはご自身でタイミングをとられてみるのも1つの選択肢ではと考えます。
一般不妊治療をする際は、ホルモン療法が加わることもあります。
これは排卵が正常な方には必要ありませんが、排卵までの日数が長いなど、排卵に障害がある方や黄体機能不全の方には、ホルモン剤を使いながら調整していくことになります。
検査の後はこのような流れで進んでいきますが、方針を決めていくうえで重要なのは、ご本人の年齢と不妊期間、自己タイミングがきちんととれているかどうか。
そして、何よりも大切なのは、ご夫婦がどのような形で妊娠を希望されているか、ということだと思います。

病院でのタイミング指導には さまざまなメリットがあります

タイミングは、ご自身でとる場合は基礎体温を目安にされると思いますが、必ずしも体温が下がったところが排卵時期とは限りません。
ちょっと上がったところで排卵する方もいれば、なかには上がりきってから排卵する方もいます。
多嚢胞性卵巣症候群の方の場合などは、LHチェッカーを使っても、もともとLHが高いので毎日「+」に出てしまうこともあります。
タイミングをなるべく正確に見極めたり、ホルモンの不足や乱れを補うためには、やはり一度受診されて、医師の元でタイミング指導を受けられることをおすすめします。
また、タイミングをとる際、排卵日に1回しか性交渉をしないという方も多いのでは?
実は、排卵日に1回よりも、排卵の頃に2回性交渉をしたほうが妊娠率が高いというデータが報告されています。
それに基づいて、当院では排卵前に1回、排卵時期にもう1回性交渉をするようにおすすめしています。
1回だけだと精神的にもプレッシャーになりますが、2回チャンスがあると思うと、ご主人も気持ちがとても楽になるようです。
このように、妊娠に近づける情報を得たり時間を無駄にしないためにも、病院でのタイミング指導の意味は大きいと思います。

人工授精は、全員が必要な ステップではありません

タイミング療法の後は人工授精というイメージがあると思いますが、当院では人工授精をすべての患者さんにおすすめしてはいません。
おすすめするケースは、精液所見やヒューナーテストの結果が悪い場合、薬や子宮頸がん治療などの影響で頸管粘液が出にくい場合などです。
人工授精は名前こそ〝人工〞ですが、あくまでも自然妊娠を期待した治療。
子宮の奥まで多くの運動精子を入れられるところにメリットがありますが、それ以外は自然妊娠に近い治療法です。
トライしやすい治療法ですが、その分、1回の妊娠率はそれほど高くなく、長く続けると妊娠率は下がっていきます。
当院では、処理後の総運動精子数が500万/ mL 以上 の方であれば、6回くらいまでが有効であると考えています。
このような一般不妊治療にかける期間は、患者さんの年齢などの条件によって個人差はありますが、当院ではだいたい6カ月を目安としています。
タイミング療法だけの方、人工授精だけの方はそれぞれ6カ月。
タイミング療法と人工授精を両方トライする方の場合は、合わせて6カ月の期間で考えています。
比較的年齢の若い方でも、長く同じ治療法を続けるのではなく、期限を決めて治療をしていくことが大切です。
※ 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS):月経異常や不妊、多毛、肥満などの症状があり、慢性的にアンドロゲン(男性ホルモン)の過剰や血液中の黄体化ホルモンが高値(卵胞刺激ホルモン上昇をともなわない)、排卵がうま くできない原因不明の疾患。卵巣内にたくさんの小嚢胞がある。
※LH:黄体形成ホルモン。卵胞刺激ホルモンとともに卵子の発育や排卵、黄体の形成を促す。
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