精子の検査で問題なくてもDNAが損傷していることがある?

精液検査では特に異常が見つからず、卵子側にも問題がないと診断されたのに、なかなか子どもが生まれない場合、精子のDNA損傷が原因だと心配されている人も多いようです。精子のDNA損傷とはあるのでしょうか。また、不妊の原因になっているのでしょうか。セントマザー産婦人科医院の田中温先生に教えていただきました。

田中 温 先生(セントマザー産婦人科医院)順天堂大学医学部卒業。越谷市立病院産科医長時代、診療後ならという条件付きで不妊治療の研究を許される。度重なる研究と実験は毎日深夜にまで及び、1985年、ついに日本初のギフト法による男児が誕生。1990年、セントマザー産婦人科医院開院。日本受精着床学会副理事長。順天堂大学医学部客員教授。

不妊原因を探る精液検査は治療初期に実施

不妊治療の初期に男性が受ける一般的な検査が精液検査です。精子の数に異常があれば乏精子症、運動性に異常があれば精子無力症・精子不動症、形態に異常があれば奇形精子と診断されます。数の少なさと運動率の低さ、奇形精子は、個々の症状のみではなく、併発していることがよくあります。

精液量が多くても良好な精子が多いとはかぎりません。検査2〜3日前は禁欲していただきますが、禁欲期間が長すぎると精子の状態が悪くなる可能性があることを心に留めておいてください。検査結果に問題があれば再検査を行うこともあり、所見改善のために漢方薬を処方することもあります。また、当院では希望されるご夫婦には検査と同時に精子を凍結することが可能で、治療成績は新鮮精子を用いた場合とほぼ変わりません。病院での採精に抵抗を感じる方も少なくありませんが、自宅採精を行うこともできますので、気軽に主治医に相談してください。

「損傷」は正常な現象の一つ。惑わされず、正しい情報を

では、今回のテーマを説明するために、精子とDNA損傷の関係について話をします。受精には卵子1個につき精子1個あればよいはずなのに、なぜ1回の射精で何億個もいると思いますか? それは、精子自体が傷つきやすいものであり、常にDNAが切れたり修復したりを繰り返しているからなのです。「損傷」という言葉には負のイメージがとても強く感じられますが、細胞分裂をするための損傷であるため、正常な自然現象の一つだと知っておいてください。

自然妊娠の場合は、自然に選ばれた精子と卵子が受精します。体外受精顕微授精であれば精子の動きや形、質のよいものを選抜します。ただし、その1個の精子にDNA損傷が絶対にないという保証はどこにもありません。精子のDNA検査は受精に選ばれたその1匹に対して調べるものではなく、精子の群を検査して損傷率が何パーセントかを判断する検査しかないからです。世界的にも精子1個に対するDNAのデータはありません。精液検査で問題なく、卵子にも問題ないのに子どもができない場合、一般的には精子のDNA検査をすすめられることも多いですが、このような理由から私は積極的にはおすすめしていません。

「損傷」は決して異常なことではなく正常な現象であり、精子側に何らかの異常があっても顕微授精できる精子が採取できるのであれば心配ありません。ただし、最近のデータとしてはやはり男性も高齢になると出生率が下がることも知っておきましょう。

よい精子をつくるためにはマスターベーションが大事!

マスターベーションの健康メリット

・前立腺がんのリスクが減る

・長生きにつながる

・異性への関心が高まる

・元気な精子が採れる

日本人は性的な欲望やマスターベーションについて人前で話すことをタブー視する傾向にありますが、性欲は正常な欲求です。精液検査では結果が悪くても、欲求をかきたてて正しいマスターベーションで射出した精液で検査をすると、まったく正反対の、良好な結果が出ることも珍しくありません。欲求をもち、異性の目を気にすることは、男女ともに大切なこと。「きれい」「ステキ」と思われたいという気持ちは、自分の体に目を向け、ダイエットや規則正しい生活をするという意識にもつながります。そのための一歩としても、「マスターベーションのススメ」を皆さんにお伝えしたいですね。

NEWS 世界初の快挙! 極少精子凍結に成功し、14人誕生

 

無精子症と診断された患者さんの精液を遠心分離機にかけると、1〜3個という極少数ですが精子を見つけることがあります。精巣の造精機能に障害がある非閉塞性無精子症にはMicro-TESEで精巣内精子を採取するのが唯一の治療法ですが、精巣精子は動きが弱く、数も少なく、従来の凍結では成功率30〜40%以下、10個以下ではほぼ成功しません。また、数が極少であるため外科的侵襲の高いMicro-TESEを繰り返し行う必要もありました。
そんななか、田中先生率いる研究チームが、凍結した極少精子の回復率97%、生存率87.1%という高い臨床成績を得た方法を開発。この技術により少数の精子でもすべて凍結できるようになり、2回目以降の手術を極力避けることも可能に。従来、極少精子はDNA損傷があると危惧されていましたが、極少凍結精子の顕微授精で生まれた子ども14人の予後調査を7年間かけて行い、正常妊娠時とまったく変わらないことを証明しました。これは世界初の快挙とのことです。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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