高齢妊娠で知っておきたいリスク

高齢妊娠で 知っておきたい リスクは何ですか?

40代の妊娠には、加齢に伴うさまざまなリスクがあるといわれます。

そこで妊 娠後に気をつけるべきさまざまなリスクについて、久保みずきレディースクリ ニックの石原尚徳先生にくわしく教えていただきました。

ドクターアドバイス

40歳以上に多い染 色体異常の受精卵。 タイムラプスで選別で きる日が来るかもし れません。

石原 尚徳 先生 高知大学医学部卒業。神戸大学医学部大学院修了。医学博士。兵 庫県立成人病センター、兵庫県立こども病院の勤務を経て、2008年よ り久保みずきレディースクリニック菅原記念診療所。不妊治療から周産 期、小児医療まで、地域に根ざした総合的なサポート体制が整う同クリニッ クで、不妊治療/産婦人科、産科の外来を担当する。緊急手術直後で お疲れの中、取材にご対応くださった先生。取材後に近況をたずねると「最 近、目にきてねぇ…」としみじみ。聞けば老眼鏡を2本もつくったとのこと。 そこで今回はメガネ姿でのご登場となりました。

40 代の妊娠は増えても リスクの高さは同じ

当院でも 40 代で妊娠・出産され る方の割合は年々増加しています。 治療技術の進歩などで 40 代の妊娠・ 出産が可能になりつつある一方、 そのリスクに直面するケースも増 えています。

なかでも気をつけたいのは、「流 産」「染色体異常」「妊娠高血圧症 候群」「妊娠糖尿病」「前置胎盤」「先 天性奇形」「低出生体重児」「帝王 切開」です。

ある統計データでは35 歳未満の人と比べると流産は3 倍、染色体異常は 9.9 倍、妊娠高血 圧症候群は 1.1 倍、妊娠糖尿病は 2.4 倍、前置胎盤は 2.8 倍、先天性奇形 は 1.7 倍、低出生体重児は 1.6 倍、帝 王切開 2.0 倍という報告もあります。

年齢を重ねるにつれ、リスクが高 くなることがわかります。

代表的なリスクと その特徴について

【流産】

流産とは、妊娠 22 週以内にお腹 の赤ちゃんの成長が止まることを いいます。

おもな原因は加齢によ る染色体異常ですが、ほかにも凝 固異常、ホルモン異常、免疫異常、 子宮形態異常などがあります。

流 産率は、 20 代が 10 〜 15 %なのに対 し、 40 歳〜 42 歳は 50 %、 43 歳以上 になると、まれに出産される方も いますが、100%に近い統計デー タもあります。

流産には切迫流産、繋留流産な どがあり、おもな兆候として不正 出血、基礎体温の低下、お腹の痛 みを感じることなどがあります。

流産をできるだけ回避するために は、とくに妊娠初期の過度な運動 を控え、母体や赤ちゃんの成長を 促すバランスの良い食事を心がけ ることが大切です。

【染色体異常】

40 代の染色体異常の確率は約80 %といわれています。

加齢による 卵子の老化が原因とされ、流産にも 大きくかかわっています。

さらにダウン症の確率も高くなります。

30 歳 では600人に1人なのに対して、42 歳では 35 人に1人です。

ダウン症 は遺伝子情報がもっとも少なく、染 色体としてはもっとも小さい 21 番 目の染色体の異常によって起こり ます。

すべて流産につながるような 他の染色体異常とは違い、症状が軽 いために生まれることができます。

残念ながら染色体異常の治療法 はありませんが、羊水検査やNIP T(母体血を用いた新しい出生前遺 伝学的検査)などで妊娠中の赤ちゃ んの染色体異常を確認することは できます。

【妊娠高血圧症候群】

妊娠 20 週から分娩後 12 週まで高 血圧が見られる場合、また高血圧に タンパク尿を伴うものです。

もとも と血圧の高い方や腎機能の悪い方 はさらに悪化することがあります。

また、BMIの値が 25 以上の方も注 意が必要で、 40 歳以上ではその確率 はさらに高くなります。

発症すると子宮や胎盤の血流が悪くなり、母体と赤ちゃんに大きな 負担がかかります。

例えば、母体 が痙攣を起こす子癇発作、分娩前 に胎盤が剥がれる常位胎盤早期剥 離などがあり、場合によって帝王 切開が必要になることもあります。

さらに、肺水腫、脳出血などの合 併症を引き起こす可能性もありま す。

根本的な治療法はなく、軽症 であれば安静と食事療法、重症の 場合は降圧剤を使用し、早期に出 産してもらう場合もあります。

【妊娠糖尿病】

一般的な糖尿病とは異なり、妊 娠中に発症する糖代謝異常の一種 です。

妊娠することで血糖値が上 がり、お腹の赤ちゃんも平均より 大きくなることが多いです。

また 赤ちゃんは出産後に呼吸障害や黄 疸、低血糖発作などさまざまな合 併症を引き起こす可能性がありま す。

軽症であれば母体は出産後に 元通りになりますが、家族や親族 に糖尿病がある方や、妊娠前から 肥満の方は、体重のコントロールはじめ、食事の調整、適度な運動を 心がけるようにしましょう。

【前置胎盤・帝王切開】

40 代の妊娠では前置胎盤の頻度 も増加しています。

前置胎盤は胎 盤が正常よりも低い位置にあり、 胎盤が子宮の出口をふさいでいる 状態をいいます。

胎盤が赤ちゃん の出口になる子宮口付近にあり、 赤ちゃんが出られなくなるため、 ほぼ100%帝王切開での分娩に なります。

また胎盤に問題がなくても年齢 を重ねるにつれ体の柔軟性が低下 し、産道の筋肉が硬くなるために 難産で帝王切開になることもあり ます。

日頃から柔軟体操などを取り入れて、体を柔らかく保つこと も重要です。

出産・育児と同時に 高齢の親の心配も

40 代の妊娠では良い面もありま す。例えば、年齢や体力面で過信し ている若い方に比べ、 40 代で妊娠さ れる方のほとんどは妊娠に対する 意識が高く、こちらのアドバイスを 素直に聞いてくれます。

適切な情報 を進んで得ようとする努力や勉強 をされています。

また、心身をきち んとコントロールされている印象 もあります。

さらに、育児や教育に も積極的ですから、赤ちゃんの発育状態や情緒面においては、 40 代で妊 娠するメリットは大きいかもしれ ません。

とはいえ、年齢が高くなれば、総 合的にリスクを伴うことは否定で きません。

出産後は親のサポートが 必要になる時もあります。

しかし、40 代では親も高齢になり、サポート を受けることが難しくなります。

そ のうえ、育児と親の介護が同時進行 になることも考えられます。

もちろ ん 40 代で妊娠・出産し、ご夫婦でゆ とりをもって子育てされている方 もいらっしゃいます。

それでもでき れば親のサポートを十分に受けら れ、物理的、時間的にもゆとりのあ る環境で妊娠されることが望まし いと思っています。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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