【Q&A】刺激法による胚盤胞形成への影響と卵の質〜西川 和代先生【医師監修】

三日月まるさん(43歳)

今までに採卵を2度しました。
1度目は、2025年に生理3日目から「ゴナールエフペン」を14日間使用し、刺激周期16日目に採卵しました。結果は成熟卵15個、受精卵10個、胚盤胞4個でした。

出産まで至らなかったので、今年再度採卵をしました。
生理3日目から「ゴナールエフペン」を6日間、以降は「HMGフジ」と「ゴナトロピン1000」を9日間使用しました。間隔をあけ、「セトロタイド」も使用しています。刺激周期17日目に採卵しました。刺激周期14日目でのE2は21900になってました。
結果は、成熟卵16個、受精卵11個、胚盤胞1個でした。

ここから質問です。刺激注射の種類により、胚盤胞まで育つ影響や、採卵数に影響ありますか?
また年齢を毎月重ねるに連れ、卵の質も落ち、もう一度採卵しても胚盤胞まで育たないのではと心配です。1か月、2か月で卵の質は下がり、胚盤胞まで育ちにくい影響は大きいですか?
その場合、刺激注射を変えたり、初期胚で凍結するなど、どのように治療を進めていくことがよいですか?

宜しくお願いいたします。

とよた星の夢ARTクリニックの西川 和代先生に伺いました。

【医師監修】とよた星の夢ARTクリニック 西川 和代 先生
旭川医科大学卒業。旭川日赤病院、旭川医科大学病院、木場公園クリニックなどを経て、平成30年1月より現職。日本産科婦人科学会認定専門医。日本生殖医学会認定 生殖医療専門医。臨床遺伝専門医。各治療のメリットデメリットをお伝えし、最終的にはご夫婦の意思を最大限に尊重する「インフォームドチョイス」を重視。 ご夫婦の納得のいく治療を心がけています。

※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。

三ケ月まるさん、ご相談いただきありがとうございます。
これまで人工授精から体外受精へ進まれ、採卵を2回、移植を3回経験され、さらに流産というつらい経験も乗り越えながら治療を続けてこられたことと思います。
今回の採卵結果をご覧になり、「もう胚盤胞ができなくなってしまうのではないか」と心配されているお気持ちは、とてもよく理解できます。
まずお伝えしたいのは、今回一度の採卵結果だけで、「今後は良好な胚盤胞が得られない」と判断する必要はないということです。
今回の結果にはいくつかの要因が考えられますので、一つずつ整理しながら今後の治療について考えていきましょう。

① 刺激注射の種類で胚盤胞まで育つ割合は変わりますか?
ゴナールエフ(FSH製剤)やhMG製剤、アンタゴニスト法など、排卵誘発にはさまざまな方法があります。しかし、刺激注射の種類だけで胚盤胞まで発育する割合が大きく変わるとは言えません。
一方で、卵巣の反応には個人差があり、FSH主体の刺激が適している方もいれば、LH活性を含むhMG製剤を組み合わせた方が良好な結果につながる方もいます。
また、刺激方法によって採卵できる卵子の数や成熟度、ホルモン環境が変化するため、その方に合った刺激法を選択することはとても重要です。
そのため、前回とは異なる刺激法を試みることには十分な意義があり、刺激方法を見直すことで、より良い結果につながる可能性があります。

② 年齢による卵の質の低下と胚盤胞への影響について
年齢とともに卵子の質は徐々に低下し、胚盤胞まで発育する割合も低下する傾向があります。その最も大きな要因は、加齢に伴い卵子の染色体数の異常(異数性)が増加することであり、受精後に胚発育が途中で停止しやすくなることが知られています。
今回の採卵結果で注目されるのは、刺激14日目のE2(エストラジオール)が21,900 pg/mLと非常に高値であり、成熟卵も16個採取できていることです。
この結果からは、AMHが比較的高く、卵巣が刺激に対して良好に反応している状態である可能性が考えられます。また、三ケ月まるさんのご年齢を考慮すると、これだけ多くの成熟卵子が得られたことは、採卵できる卵子が十分残されていることを示唆する前向きな結果と言えるでしょう。
その一方で、E2が20,000 pg/mLを超えるような強い刺激では、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクが高くなるだけでなく、多数の卵胞が同時に発育することで、卵胞ごとの大きさや卵子の成熟度にばらつきが生じることがあります。
そのため、採卵数が多くても、すべての卵子を最適な状態で回収できるとは限らず、そのことが胚盤胞到達率に影響を及ぼした可能性も考えられます。
次回の採卵では、「より多く採卵すること」を目標とするのではなく、「より質の高い卵子を得ること」を意識した刺激法を検討する価値があると考えます。
今回の結果は、その周期の刺激方法や刺激中のホルモン状態、加齢に伴う異数性胚の増加、採卵時の精液所見など、複数の要因が重なって生じたものと考えられます。つまり、今回一度の採卵結果だけで今後の結果を判断する必要はなく、次周期に刺激方法などを見直すことで、異なる結果が得られる可能性があります。

③ 1〜2か月で卵子の質は大きく低下するのでしょうか?
年齢による変化は少しずつ進行するものであり、通常、1〜2か月という短期間で卵子の質が急激に低下することはありません。それ以上に、採卵周期ごとのばらつきの方が大きいことを、私たちは日常診療でよく経験します。実際に同じ患者さんでも、ある周期では胚盤胞が0個、次の周期では複数個得られるということは決して珍しくありません。このように、採卵結果には周期ごとのばらつきもあるため、今回一度の結果だけで卵子の質が急激に低下したと考える必要はありません。

④ 刺激方法や初期胚凍結について
次回の採卵では、「さらに多く採る」ことを目標にするのではなく、より質を重視した刺激方法を検討してもよいかもしれません。
例えば、FSH製剤の使用量やLH活性(hMG)の使い方、排卵を促すトリガー方法や採卵時期などを見直すことで、より良い結果につながる可能性があります。
また、胚盤胞まで培養すると途中で発育が止まってしまう場合には、初期胚で凍結・移植する方法も選択肢の一つです。
ただし、現在の研究では、胚盤胞まで育つ胚が得られる場合には、初期胚移植よりも胚盤胞移植の方が妊娠率は高いことが示されています。そのため、初期胚移植は、毎回胚盤胞まで到達しない場合や、これまでの治療経過を踏まえて検討されることが多いと思います。

⑤ 次回の採卵に向けた最適な治療計画について
次回の採卵では、今回の採卵結果を踏まえ、ご自身に合った排卵誘発方法や受精方法を選択することが大切です。FSH投与量が多くなると、採卵数は増えても、良好胚盤胞の獲得率がかえって低下する可能性を示した報告もあります。そのため、過排卵になり過ぎない卵巣刺激を選択することも、良好胚の獲得につながる可能性があります。
また、受精卵の発育には卵子だけでなく精子の質も大きく関係します。そのため、これまでの受精率や胚発育の経過によっては、精子DNA断片化検査(DFI検査)やHDS検査(未熟な精子の割合を評価する検査)を行い、精子の状態をより詳しく評価することも有用です。
さらに、採卵時の精液処理を工夫することで、より質の高い精子を選別できる可能性があります。例えば、マイクロ流体技術を用いた精子選別法(Zymot)は、運動性が高くDNA損傷の少ない精子を選択することを目的とした方法です。また、ヒアルロン酸を用いた生理学的精子選択術(PICSI)は、成熟した精子を選択する方法です。これらの方法によって、良好胚盤胞や正倍数性胚盤胞が得られる可能性が期待できる症例もあります。
良好な胚盤胞が得られた後は、移植に向けた準備が始まります。しかし、子宮環境を整えるには一定の時間を要する場合があります。そのため、子宮内フローラ検査や慢性子宮内膜炎の評価(CD138検査)、必要に応じて子宮鏡検査などを早めに行い、着床しやすい子宮環境をあらかじめ整えておくことも大切です。

最後に
今回の採卵結果だけで、「もう良い胚盤胞はできない」と考える必要はありません。次回は、今回の刺激方法を振り返りながら、卵子の数だけでなく、質も意識した排卵誘発法を検討してみてください。採卵、移植、それぞれの段階で改善できる点を一つずつ見直し、ご自身に合った治療を積み重ねていくことが、妊娠への近道になると考えます。
そして、健康な妊娠につながる体づくりも、とても大切です。日頃の食事やサプリメント、適度な運動、十分な睡眠といった基本的な生活習慣は、妊娠を後押しする大切な要素です。一つひとつ取り組んでみてくださいね。
三ケ月まるさんの妊活を心より応援しています。

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