顕微授精、過去7度の失敗の原因について

7回の顕微授精に失敗 原因は卵子?   それとも精子?

山下 能毅 先生 大阪医科大学医学部を卒業後、北摂総合病院産婦人科部長・大阪医 科大学産婦人科学医局長、講師として、不妊治療や腹腔鏡手術に積 極的に取り組む。2014年、宮崎レディースクリニックの副院長に就任し、 2017年4月、同院の院長に。各患者様の背景に配慮した“オーダーメ イド治療”をめざす。日本産科婦人科学会認定医、生殖医療専門医、 日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医、臨床遺伝専門医。趣味はゴ ルフ・映画鑑賞・ピアノ。同院では開業25年の節目を迎え、宮崎院長 から山下院長にバトンタッチ。2017年4月15日、「うめだファティリティク リニック」としてリニューアルします。「『ネクスト25』をスローガンに、こ れまでの歴史を継承しつつ、新しくより良い25年をめざします」

ドクターアドバイス

●採卵数が多いのはPCOSの可能性も。マイルド法で確実に成熟した卵子の採卵を
●胚や着床の問題ならタイムラプスによる移植胚の選別やG-CSF治療も有効
衣千夏さん(32歳)からの相談 Q.主人の無精子症で、過去7回顕微授精を行いましたが、 すべて陰性。なぜ失敗したのか悩んでいます。やはり私 の卵子が悪かったのでしょうか? 不育検査、子宮鏡検査 などできる対策はすべてしました。シート法、2段階胚移植ハッチングエンブリオグルーでの培養、ヘパリン注 射もダメでした。2回採卵を行い、1回目は45 個(ほぼ G2)、2回目は34 個(G1が7個、G2が22個ほか) でした。先日、ほかの不妊治療病院で卵子が採れすぎる と質が下がってよくないと指摘されましたが本当でしょう か? 検査結果で私には何も原因がなかったので、卵子も 問題ないと勝手に思っていましたが、目の前が真っ暗です。 今後も顕微授精をするために何ができますか?

顕微授精を7回されていますが結果が出 ないそうです。

山下先生 精子と卵子について、それぞれ お話しします。
おもな原因としてご主人の 無精子症があります。
原因は不明ですが、 この場合はMDーTESE(顕微鏡下精巣 内精子採取術)で採取した精子で顕微授 精する方法しか選択肢はありません。
すで に2回行って精子を凍結保存されていらっ しゃると思いますので、現状ではこれ以上 の対応策はないと思います。
次に卵子についてです。
衣千夏さんは2 回の採卵で、1回目 45 個、2回目 34 個とあ りますが、毎回の採卵数が多いのが気にな ります。
さらに、採卵数と卵子のグレード については書かれていますが、実際に胚盤 胞になった卵子がいくつあったのかなど、 その後の経過が不明です。
おそらく卵巣刺 激が強すぎて、卵胞に未成熟の卵子がたく さんできてしまうPCOS(多嚢胞性卵胞 症候群)の可能性が高いと思われます。
P COSは卵胞の発育障害だけでなく、卵子 の質の低下や流産率を高める可能性が指摘 されています。
まずは卵巣刺激が少ないマ イルド法で、卵巣をゆるやかに刺激して確 実に成熟した卵子を採卵するといいと思い ます。

ほかに考えられることはありますか?

山下先生 もし受精卵自体を疑うのであれ ば、タイムラプスで受精卵の発育スピード、 分裂パターンを観察し、良好な胚盤胞を選 別する方法があります。
着床の問題については、すでに卵管造影 検査などさまざまな検査をされているよう ですが、着床率を高める方法として、Gー CSF子宮内注入法があります。
GーCS Fは白血球を増やす作用がある抗がん剤で すが、胚移植前の子宮内に注入することで子宮内膜を厚くし、その後の妊娠成績が改 善したという報告があります。
ちなみに、 当院でもなかなか結果が出ない方に行って いますが成功率は 20 〜 30 %です。
さらに、凍結融解胚盤胞を移植する場 合、着床に適したタイミングを調べるER A(子宮内膜着床能)検査もあります。
一 般的には、胚盤胞は5日目、初期胚は3日 目で移植しますが、ERA検査では遺伝子 レベルでそれぞれの人に合った移植日を調 べることができます。
ただし、検査機関が スペインにしかないため、時間と費用がか かるといったデメリットもあります。

今後、この方が妊娠できる可能性につい てはいかがでしょうか?

山下先生 まだ 32 歳とお若いですし、これ だけ卵子が採れているのであれば、今後の 可能性はあります。
ご質問にも書かれてい るように、卵子が採れすぎると未成熟卵が 増え、卵子の質が下がる傾向はあります。
当院では、「採卵 2 〜3回を目安に子ども が1人授かれるつもりで頑張りましょう」 とお伝えしています。
この方もマイルド法 で確実に成熟した卵子を採卵し、もう1回 チャンレンジされてみてはいかがでしょ う。
>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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