向田 哲規 先生 1985年高知医科大学卒業(2期生)、同大学産婦人科医局、1987 年不妊治療・体外受精の研究・臨床の研鑽のため、アメリカ・マイアミ大 学留学(生化学教室での基礎研究と体外受精プログラムでの臨床経験)、 1990年から5年間、NY・NJ州のダイヤモンド不妊センターで更なる研 鑽を積む。1996年帰国後それらの経験を生かすためART治療専門であ る広島HARTクリニックに勤務し、現在院長として臨床に携わっている。 広島HARTクリニックは、体外受精専門施設で高いレベルの個別化した 不妊治療を行っており、近年話題の卵巣予備能力の指標となり得るAMH 値を、ベックマン社製・アクセス2(迅速ホルモン値測定機器)、安全管 理システム、生存性の高いICSI技術、高精度の倒立顕微鏡などを導入 している。今後はネット予約呼び出しシステムの導入や最終的にはより広 い施設への移転も企画し、患者さんへの利便性・診療レベルの更なる向 上を目指している。

変性卵の割合が高く、 原因がわかりません。

精神的にもつらいです

うるさん(35歳)からの相談 Q.不妊歴4年です。主人に悪いところがなく、私も多少プロラクチンが高い程度で 重大な問題もないのですが、なかなかできません。染色体検査もしましたが異常 ありません。去年からふりかけの簡易IVFを始めました。3回行ってすべて陰性で、 現在4回目を始めているところです。1回目は3個中2個変性卵、1個桑実胚移植。 2回目は4個中1個変性卵、1個空胞、2個胚盤胞(うち1個はハッチングあり)2 個移植。3回目は4個中2個変性卵、1個未成熟卵、1個桑実胚移植。4回目7 個中1個未成熟卵、1個空胞、2個変性卵、残り3個まだわかりません。誘発方 法はすべてクロミッドⓇとHCG。変性卵が多いのですが、成熟するものはすべて グレード1です。やはり年齢のせいなのでしょうか? このままでは凍結法も効率 が悪く、行えないといわれています。治療後の体重増加も気になっています。

高プロラクチン血症

まず、高プロラクチンであるということは、 不妊の原因になるのでしょうか?
向田先生 高プロラクチン血症により生理周 期が不規則になったりする場合はそれが不妊 の原因となり得ますが、この症例においては 適切な排卵誘発管理による体外受精を治療法 として選んでいるので、著しく高い場合を除 いて問題になることはないと思われます。

変性卵が多いのは?

うるさんは4回すべて、変性卵の割合が高 いようです。これまでの治療内容をどう思わ れますか?
向田先生 35 歳で165㎝ 65kgというのは、 やや肥満体型のようです。
体外受精に伴う排 卵誘発目的のホルモン剤投与では、軽度の体 重増加は見られますが、それは水分貯留が中 心ですので、治療が終わり生理になると改善 されます。
生理周期は 25 ~ 27 日型とのことで、 PCO(多嚢胞性卵巣)ではないと思われま すが、PCOのような卵の質に問題がある症 例と思われます。
改善できるとすれば誘発方法が、クロミッ ドⓇと H CGのみの繰り返しで、採卵数がいつ も 5 個以下である点です。
35 歳で平均的なAMH値(卵巣予備能力)の症例の場合、適切 な排卵誘発を行えば 10 ~ 15 個の採卵数になる と思われます。
マイルドな誘発方法で行うこ と自体に問題はないのですが、変性卵の割合 が多いという経緯で、 2 回目、 3 回目の採卵 に臨むのであれば、採卵数を増やし質的な変 化も期待して、誘発方法を変更すべきです。

誘発方法と移植方法

では、うるさんに今後の治療のアドバイス をいただけますか?
向田先生 AMH値や、卵巣の反応性に関す る情報がないので、明確なアドバイスはでき ませんが、その周期の卵巣の状態から毎回適 切な誘発法を選ぶ必要があります。
ART治 療にはいろいろな選択肢があるので 4 回とも 同じ誘発方法というのは、その良さを生かせ ていないと思われます。
まずマイルドな方法であるクロミッドⓇと H CGのみから始め、良 い結果にならなければ、より積極的な方法を 用いて、 10 ~ 15 個採卵して、確率を高める必 要があると思います。
変性卵が多いのは、体質に関係しそれが不 妊原因である可能性がありますが、偶発的に その周期のみに見られることもあります。
変 性卵をなくす方法を考えるより、変性卵以外 の正常卵を一つでも多く得るようにすれば十 分であり、最終的に挙児を得るには一つ良い 受精卵が得られれば可能です。
また初期胚や 桑実胚で移植または凍結保存するのではなく、 胚盤胞になった胚のみを移植することで妊娠 率を高めるようにする必要があるでしょう。
だからこそ、より多くの卵子を採卵するため に誘発方法を工夫するべきです。
たとえば 2 個胚盤胞が得られる周期であれば、 1 個は新鮮胚移植を行い、 1 個は凍結保存するのが適 切と思われます。
凍結胚移植の妊娠率のほう が、一般的に新鮮胚移植の妊娠率より高く、 現在日本において、ART治療で出生する全 出生児の 7 割以上は凍結胚移植によって得ら れています。
今後は誘発方法を変更してより 多くの卵子を採り、積極的に凍結胚移植を試 みてはいかがでしょうか。
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