アンタゴニスト法と ショート法で 5 個ずつしか 採卵できません
田中 雄大 先生 慶應義塾大学医学部卒業。日本産科婦人科学会専門医、日本生殖医学 会生殖医療専門医。大和市立病院産婦人科勤務、内視鏡手術の専門病 院を目指した矢崎病院婦人科での勤務などを経て、2009年、矢崎病 院に不妊治療専門の湘南IVFクリニックを開設。その後、2012年に メディカルパーク湘南を開設。聖マリアンナ医科大学非常勤講師。B型・ かに座。最近27段ギヤの自転車を購入した先生。休日は境川に沿っ て江ノ島近くまで走ったり、夜間はライトをつけて近所を走ったりす るのを楽しんでいらっしゃるそう。「いつか愛媛と尾道をつなぐ瀬戸 内しまなみ海道を走ってみたいですね」
たかさん(35歳)からの相談 Q.現在35歳。夫が閉塞性無精子症のため、TESEにて精巣内精子を採取し凍結し ました。採卵は、1回目はショート法で、D3~D6はフジ Ⓡ150+フォリルモンⓇ 150、D7~D11はフェリングⓇ300で刺激した結果、採卵数は5個で、正常卵3 個、そのうち2個が受精し、3日目7分割G4、6分割G4でした。2回目はアンタ ゴニスト法で、クロミフェン+フェリングⓇ300で8日間刺激した結果、採卵数は5 個で、正常卵4個、そのうち3個が受精し、8分割G2、6分割G3、6分割G4でし た。移植は、1回目はアンタゴニスト法で採卵した8分割G2を移植し、化学流産。 2回目アンタゴニスト法で採卵した6分割G3と6分割G4を2個移植し、現在判 定待ちをしている状態です。次回の採卵に向けて数を増やし、質の良い卵子を育て たいと思いますが、どのような刺激法がよいでしょうか?
刺激法で卵子の質は変わらない
これまでショート法、アンタゴニスト法で刺激をしてきたそうですが、これについてはいかがですか?
田中先生 TESEで採取した精子は、容器に分割して凍結保存され、 1 回の採卵につき 1 本を融解して使用します。
採卵数が 1 個でも 10 個でも 1 本の精子を使う ということには変わりがありません。
ですので、 1 回でなるべく多くの卵を採る方法が有効と考えられます。
ショート法、アンタゴニスト法はいずれも 高刺激な方法。数多く採卵するためにこの方法にされたのでしょう。
排卵誘発に使ったフ ジⓇ、フォリルモンⓇ、フェリングⓇというのは、どれもHMG製剤で、少しだけLHとFSHの含有量の比率が違うものですが、基本的にはそれほど明確に差は出ないと考えていただいていいと思います。
たかさんはAMHが 3.9 ということですが、 この数値からすると、卵巣年齢は実年齢の35 歳よりも若いと思います。
それにもかか わらず、刺激の注射を合計 2 0 0 0 単位以上使って、採卵数が 2 回とも 5 個というのは、確かに少なめだと思います。
年齢とAMHから考えると 10 個以上採れてもおかし くないので、ギャップを感じざるを得ません。
しかし、刺激の方法が間違えているということはないと思います。
「次回は質の良い卵子を育てたい」というこ とですが、刺激方法によって卵子の質が変わるというのには誤解があり、低刺激や自然周期にすれば、質の良い卵子が発育するというわけではありません。
また、もし 1 個しか卵が採れなくても、 1 本の凍結精子を使ってしまうことになります。
閉塞性無精症のTESEなので精子は 10 ~ 15 本あるかと思いますが、 限りある精子を有効に使うために、あくまでも量にこだわって卵をたくさん採る方法にすべきだと思います。
年齢とAMH値から高刺激でも
では、このまま同じ方法を続けた方がよいということでしょうか。
田中先生 1 回目と 2 回目の採卵の間隔がどのくらいあいているかわからないのですが、これだけの高刺激をしたあとは、卵巣を少し休めたほうがいいと思います。
まだ年齢的に 余裕がありますので、例えば2~3ヵ月お休 みして、十分卵巣が休まったところであらためてショート法なりアンタゴニスト法なりの高刺激をするという方法がいいと思います。
前回、採卵数が少なかったので、別の方法を試してみたいということであれば、卵がたくさん採れる方法の中でバリエーションを変えてみるやり方もあります。
同じ高刺激の方法でもう一つロング法がありますので、それを試してみてもいいかもしれません。
ただし、絶対そちらのほうがいいということではなく、たかさんに合う方法を試行錯誤で探していく中の一つという意味合いになります。
たかさんの年齢とAMHから考えれば、高刺激法であれば、次はいきなり 10 個以上 採れる可能性もあると思います。