カバサール®の 服用中止の判断は 適切なのでしょうか?

排卵障害や無月経の原因となる、高プロラクチン血症

治療薬の選択と、服用をやめる際の注意点などを、 セント・ルカ産婦人科の宇津宮隆史先生に伺いました。

宇津宮 隆史 先生 熊本大学医学部卒業。1988年九州大学生体防御医学研 究所講師、1989年大分県立病院がんセンター第二婦人科部 長を経て、1992年セント・ルカ産婦人科開院。国内でいち早く 不妊治療に取り組んだパイオニアの一人。開院以来、妊娠数は 7,000件を超える。O型・おひつじ座。昨年会長を務めた「第31 回日本受精着床学会総会・学術講演会」の参加者数が1000 人を超え、成功の手応えを感じたという先生。「今年は児童養護 施設の運営強化を手始めに、趣味の登山やパリの美術館巡りな ど、公私ともに充実させたいですね」と語ってくださいました。

この薬が知りたい!

●カバサール ®

ホルモンの一種プロラクチン の分泌異常「高プロラクチ ン血症」の治療に用いられ る。
高プロラクチンが原因と なって引き起こされる排卵 障害や無月経などを改善す る働きがある。
りんごあめさん(35歳)Q.初めての体外受精を行う周期で、血液検査後にカバサール®5錠 を処方されました。その後、週1回の服用で妊娠判定日を迎える も陰性。その日がちょうどカバサール®5錠目で最後の服用でし た。1週間後の血液検査で数値が下がっていたため、服用中止 に。ホルモン補充周期にて血液検査をせずに凍結融解胚2個を 移植予定です。カバサール®の突然の服用中止と、その後も検査 を行わずに移植することに不安を感じています。 以前、ルトラール®を服用した際に胸が痛くなったりしたので、プロラクチン値が上がるのではないか、着床に影響はないかなど、 カバサール®服用中止による不安がぬぐえません。服用中止の判 断などについて教えてください。

■これまでの治療データ

検査・ 治療歴

不妊治療歴1年。
4カ月間のタイミング治療後、腹腔鏡検査 で軽微な卵巣癒着剥離、卵管通色素検査異常なし。
月経周期 は26~37日。 AIH通算6回、体外受精1回。
採卵11個のうち受精卵8個で いずれもグレード2。

不妊の原因 となる病名

不明

現在の 治療方針

ホルモン補充周期にて 凍結融解胚2個を移植 予定。

精子 データ

問題なし。

カバサールの処方

不妊治療では、どのような症状の患者さんがカバサール ® を処方されるのですか?
宇津宮先生 通常のホルモンは、脳下垂体視床下部から、脳下垂体が刺激を受けることによって分泌されます。
その一番主なのが、卵胞を刺激するFSHです。
FSHが分泌されるためには、それをリリースするホルモンであるGnRHが視床下部から出ています。
このように、視床下部からの刺激でLHやFSH、他には甲状腺関係のホルモンや、副腎皮質に影響するホルモンなどが同様の経路をたどって分泌されるわけですが、ここで問題となるのが、高プロラクチン血症です。
プロラクチンも、脳下垂体から出される刺 激ホルモンで、妊娠して授乳の時期になると大量に分泌されて母乳が出ます。
通常は正常値程度に抑えられていますが、何らかの理由でブレーキがきかなくなると、プロラクチンが高値になり、卵巣での排卵が抑えられてしまい、生理が止まります。
そして、出産経験がないのに母乳が出てくることになります。
カバサール ® は、プロラクチンの分泌を抑えるホルモンと同じ作用を持つ薬で、高プロラクチン血症の患者さんに処方します。
プロラクチンが上がる原因はさまざまですが、一般的には胃薬や精神安定剤、睡眠薬などの服用が挙げられます。

プロラクチンの大量分泌

妊娠していない時にプロラクチンが大量に分泌されると、どのような影響が出ますか?
宇津宮先生 プロラクチンが大量に分泌されている時期は妊娠している状態と同じなので、脳は「妊娠している」と判断します。
妊娠中は新たに妊娠することはありませんから、結論としては妊娠しない。
そのため、プロラクチンの値を正常範囲に抑えることが大切であり、抑えのホルモンの代わりとなるカバサール ® を服用することになるのです。
抑えがきかなくなってプロラクチンが出て いるのに、そのまま対処せずにいると、分泌量はさらに増加します。
脳下垂体は 0.5 gほど の小さな器官ですが、その中ではLHやFSH、甲状腺や副腎皮質など、さまざまなホルモンを分泌する働きをしています。
そこで抑えがきかなくなって、小さな器官の中でプロラクチンの細胞が増えると、他のホルモンが減少してしまうのです。
たとえば、FSHが少なくなると、卵巣に対する刺激が少なくなるわけですから、そのことだけを見ても、プロラクチンは重要であると理解していただけるのではないでしょうか。

以前は大手術だった

プロラクチンの異常分泌は、不妊に大きな影響があるのですね。
宇津宮先生 そうですね。しかしその影響は、不妊だけではありません。
プロラクチンが増えすぎると、トルコ鞍という骨のくぼみに収まっている脳下垂体が、それを破って出てきてしまうことがあります。
そして外側にある視神経を圧迫し、視野狭窄などを引き起こす原因になるケースも。
今はカバサール ® などの有用な薬がありますが、このような薬が開発される以前は、視野狭窄を引き起こし、その治療法は脳外科手術しかなかったのです。

PCOのタイプかも

想像しただけで怖いですね……。
宇津宮先生 ただし、PCOの患者さんでもプロラクチンが高くなる場合もあります。
りんごあめさんは、月経が 26 ~ 37 日周期で、月経不順であると考えられます。
排卵誘発法について記載されていないので詳細がわかりませんが、採卵で 11 個の卵子が採れているというのは少し多いので、おそらくPCOのタイプではないでしょうか。
PCOは、独特の代謝経路によってプロラクチンが高くなるので、純粋に病的な状態ではない。
このケースでの数値ならば、心配することはありません。

服用を中止してもいい?

では、カバサール ® の服用中止の判断について、先生の考えをお聞かせください。
宇津宮先生 高プロラクチン血症で、ホルモン分泌の抑えがきかない状態の時には、カバサール ® の服用をやめてはいけません。
りんごあめさんの主治医は「数値が下がっているから」と服用中止の判断をしたようですが、薬で数値を下げているのに突然やめると、反動が大きくなり、前よりもさらに大量にプロラクチンが分泌されてしまいます。
カバサール ® 服用中止後の反動については明らかでない部分もありますが、抑えるホルモンが少ない人は、勝手にやめてはいけないのです。
やめる際には医師と相談しなければなりませんし、やめた後も定期的にプロラクチンの値を測定して判断していく必要があります。
血液検査は必須ですから、主治医にその旨を伝えてください。

自己判断せず、相談を

最後に、カバサール ® 服用についての注意点や副作用など、アドバイスをお願いします。
宇津宮先生 カバサール ® は当院でも処方することが多い一般的な薬です。
プロラクチンの数値は体温表に記録していますから、患者さんは常に自分でチェックすることができます。
この「記録する」というのが重要。
数値が上がる原因を知ることも、自分の現状を知ることも、治療に向き合う姿勢としてとても大切ですから、心掛けていただきたいです。
薬の飲み合わせでは特に意識する必要はあ りませんが、妊娠中の安全性は確立されていないので、妊娠が判明したらすぐに服用を中止します。
副作用について記載している資料等もありますが、どんなものでも体に取り込むものには必ず副作用があります。
だからこそ医師は、患者さんの状態をきちんと把握し、注意してあげなければなりません。
もちろん、患者さんも自己判断で薬を飲んだりやめたりしてはいけません。
安心して任せられる主治医の指示に従い、不安や不明点はあいまいにせず、医師に相談し、ご自分に合った不妊治療を行ってください。
※GnRH:ゴナドトロピン放出ホルモン。視床下部から分泌され、下垂体に働きかけて卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体化ホルモン(LH)分泌を促す。
※PCO(多嚢胞性卵巣):排卵がうまくできず、卵巣内にたくさんの小嚢胞がある状態。排卵誘発により卵巣過剰刺激症候群を起こしやすい。
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