【医師監修】小田原 靖 先生 東京慈恵会医科大学卒業、同大学院修了。1987年、オーストラリア・ロイヤ ルウイメンズホスピタルに留学し、チーム医療などを学ぶ。東京慈恵会医科大 学産婦人科助手、スズキ病院科長を経て、1996 年恵比寿に開院。AB 型・ みずがめ座。最近、ますますスリムになった小田原先生。半年で体重11kg 減、 体脂肪は15%まで落ちたとか。ダイエット成功の秘訣は週 2 回の筋トレと食 事のカロリー制限。身軽な体型で趣味のサーフィンも絶好調だそうです。
Aprilさん(29歳) Q.先日、不妊専門病院で検査を受け、夫婦ともに不妊原因があることがわ かり、顕微授精しか治療法がないといわれました。主人は乏精子症(精子 数約400万個/mL)でTESEの必要があり、私は PCOS(多嚢胞性卵 巣症候群)の疑いがあるが、AMH値が低く、40歳程度の卵巣年齢だと いうことです。先生からは「それは1年前にチョコレート嚢腫を腹腔鏡手 術により摘出したことが原因」だといわれました。つまり、卵子の数が少 なく、質も悪いということなのでしょうか。妊娠のために手術をしたのに逆 効果になってしまった? このような状態で、さらに男性不妊もあり、顕 微授精をしても妊娠は難しいのでしょうか。
精液所見から考える治療
まず、ご主人の状態についてどう思われますか?
ただし、運動率や奇形率はそれほど悪くないので、TESEの必要はないのでは。
一般の顕微授精で十分なレベルだと思います。
Aprilさんのほうはいかがでしょうか。PCOSの疑いと卵巣機能の低下があるようですが。
小田原先生 月経周期が 28 日とのこと。
一般的にPCOSというのは、LHというホルモンの値が高く、月経異常をともない、超音波で卵巣に小さい卵胞がたくさん確認される、ということで判断されるのですが、この方は月経周期が正常の範囲内ですから、明らかな排卵障害があるわけではないようです。
年齢が若い方というのはテストステロン優位ですから、卵巣がPCOS様の所見を示すことがあります。
ホルモン値などを見てみないと、本当にPCOSかはっきりとはわからないですね。
次に卵巣の機能についてですが、AMH値というのはあくまでも1つの目安です。
卵子のもととなる前胞状卵胞の数を調べるものですが、絶対的な評価手段ではありません。AprilさんのAMH値は2・ 39 で、確かに 38 〜 39 歳くらいに相当する値ですが、1以下でも薬を使って十分に卵子の数が得られる方もいるので、あまり心配されることはないかと思います。
チョコ嚢胞は卵巣機能を低下させる
卵巣の機能が低下したのは、チョコレート嚢腫の摘出手術を受けたからなのでしょうか。
小田原先生 手術したからというよりは、チョコレート嚢腫を発症すること自体が卵巣機能を低下させる主な要因になっているのだと思います。
チョコレート嚢腫、子宮内膜症は卵巣の表面の血流や卵子の成長に悪影響を及ぼしますから。
手術の影響もゼロではなく、チョコレート嚢腫の術後はAMH値が低くなるというデータも報告されています。
また、PCOSだったり、血中のLHが高い傾向を持っていたり、チョコレート嚢腫などで卵巣の血流が悪い場合は卵子の質にも関わってくる場合もあります。
確かに多少の影響はあるかもしれませんが、卵子の質においてもっと問題なのは女性側の年齢なんですね。
40 歳を過ぎてしまうと卵子も老化してきて、どうしても染色体異常などが起こりやすくなってしまいます。
Aprilさんは 29 歳ということですから、今から顕微授精をスタートすれば妊娠のチャンスはあると思います。
若い方の卵巣は低反応であっても、質のいい卵子が採れることが多いんですよ。
ですから、「採れる卵子の数が少ないのでは」と悲観せず、希望を持って治療を続けていただきたいと思います。
※TESE(精巣内精子採取術):精巣内から精子を採取する方法で、精巣を少し切開して採取する。
※チョコレー ト嚢腫(のうしゅ):チョコレート嚢胞(のうほう)ともいう。卵巣にできた子宮内膜症の炎症部位から出血した血液が中にたまり、嚢状になったもの。