自然排卵していても排卵誘発剤は必要なのでしょうか?【医師監修】

タイミング療法で治療中。できれば自然に妊娠したい……。 自力で排卵できている場合、排卵誘発剤を使うメリットは? 厚仁病院の松山毅彦先生に伺いました。

【医師監修】松山 毅彦 先生 東海大学医学部卒業。小田原市立病院産婦人科医長、 東海大学付属大磯病院産婦人科勤務、永遠幸レディー スクリニック副院長を経て、1996年厚仁病院産婦人科 を開設。日本生殖医学会生殖医療専門医。クリニック では最新医療を積極的に取り入れる一方、産科併設のメ リットを生かし、より安心して出産を迎えられるよう、不 妊治療から出産、育児までをトータルにサポートする。お ひつじ座のA型。好きなスポーツは野球。テレビではメ ジャーリーグも、日本のプロ野球も楽しんでいるそう。

ドクターアドバイス

排卵誘発剤というよりも 高温期を安定させるための薬と 考えたらよいでしょう。
ゴマコさん(主婦・30歳)からの投稿 Q.タイミング療法 6周期目が、今日リセット。軽度の多嚢胞性卵巣症候群で、 次回から排卵誘発剤を使うように言われています。5日目から 飲み始める経口薬だそうですが、自力で排卵している私が、排卵誘発剤を飲んで、 どのようなメリットがあるのでしょう。多胎を防ぐため、 2 つ以上排卵しそうなら、その周期は見送ることになるが、その可能性は 低いとも言われました。排卵誘発剤の必要性について教えてください。

タイミング法で排卵誘発剤?

タイミング療法で治療中だそうです。自力で排卵しているゴマコさんが、排卵誘発剤を使うメリットは?
松山先生 少し難しいのですが、自力排卵していても、たまに排卵のしかたや強さに問題のある方がいらっしゃいます。
採卵しても妙に数が少ない、あるいは空胞が多いなど、そういう周期を繰り返している方には、クロミフェンなどのマイルドな刺激で誘発することがあるのです。
排卵周期があるにはあるが、命令系統が弱いというのかな。
脳、視床下部、下垂体、卵巣へとつながる命令が弱いということは、当然、卵巣でつくられる卵子も力が弱い。
しかもタイミング療法だと、排卵後も黄体をつくって高温期を安定させなければならない。
だから、そのために排卵誘発剤を使っているのかなと思います。HMG製剤では強すぎるので、クロミフェンや、よりマイルドな刺激のシクロフェニルなどの経口薬が用いられることが一般的です。

誘発剤で、メリハリある排卵周期

卵子の成熟をバックアップするために飲む薬と考えたらよいのですね。現在はタイミング療法ですが、この先はどんな治療法があるでしょうか。
松山先生 今のところ、排卵誘発剤を使うことによって、どれだけメリハリのついたよい排卵周期をつくっていけるかということが大切なのではないでしょうか。
先ほど言ったように、高温期をしっかりつくっていくことが大事。
それも結局、黄体形成ホルモン(LH)が、その後、持続的に命令を与えて黄体を活性化するわけだから、クロミフェンはそこまで効いていることになる。

高温期を安定させるには…

排卵しているかどうかということ以上に、メリハリの利いた排卵周期であることが大切なんですね。
松山先生 これには、いろいろな考え方があると思いますが、黄体機能不全は結局、排卵までのアプローチをコントロールすることによって、かなり改善できるのではないかと私は思っています。
黄体機能不全だから黄体ホルモン剤を使いましょうとか、HCG製剤を高温期に何日も注射しましょうというのは、できれば避けたいものです。
それ以前に、黄体機能が悪いということは、排卵誘発の最初の段階が問題かもしれないと考えるべきです。
ただ、排卵がきちんとあるのに高温期が安定しない人はたしかにいるので、そういう時には黄体ホルモン剤も使いますが、あまり積極的には使わないですね。
その前にクロミフェンやシクロフェニルを使ったほうが高温期は安定すると思います。
多嚢胞性卵巣の影響は?
松山先生 確かに多嚢胞性卵巣の人は排卵日が特定しにくく、高温期が不安定です。
ただ、ゴマコさんの場合は軽度ということと、結果的に排卵しているので、神経質になって治療するほどではないと思います。

一般不妊治療と多胎問題

排卵誘発剤を使うことで、複数個の排卵が起こることについては?
松山先生 移植する受精卵の数をコントロールできる体外受精と違って、タイミング療法などの一般不妊治療のほうが、双子などの多胎になる可能性が高いといえるでしょう。
クロミフェンを使って2個以上排卵する可能性は低いですが、ゴマコさんの主治医がおっしゃるように、当院でも2個以上排卵しそうな周期はタイミング指導などをキャンセルする場合があります。
また「双子になる可能性もありますよ」と説明して、了解をしていただいたうえで、タイミング指導などを行っていることもあります。
りおなさんの投稿がまさにそのケースです。
先生が2個とも着床する可能性が低いとおっしゃった理由は、もともと多嚢胞性卵巣で排卵障害があることと、2個排卵して2個とも着床する確率は比較的低いと考えられているからだと思います。
体外受精による妊娠では、ガイドラインで移植する胚の数が規制されていますが、一般不妊治療では特に取り決めがありません。
どうしたら妊娠率の向上を図りながら、多胎率を下げることができるかが、我々の重要な課題でもあるのです。

体外受精という選択肢

将来的に体外受精という選択肢も視野に入れたほうがよいですか。
松山先生 体外受精をすると、卵子が受精してきちんと胚盤胞まで育つかどうか確認できるので、それもありだと思います。
るまさんの投稿にもあるように、体外受精で受精卵が問題なく育つことがわかれば、今度は卵管などピックアップ機能に問題があったのだなと結果的にわかる場合もありますよね。
実際、そういう方は多いです。
しかし、今のところは自力で排卵をしているようですので、クロミフェンなどで卵の成熟を助けてあげる程度がいいと思います。
排卵周期をコントロールすべく、排卵誘発剤を使っていく。
それでもなかなか結果が出ないということであれば、最終的に体外受精へのステップアップも視野に入れながら、治療を進めていかれてはどうでしょうか。
※タイミング療法:基礎体温や尿中または血中のエストロゲンや黄体形成ホルモンを測定して、排卵日を予測し、その排卵日前後に性交渉を行う、 不妊治療の一つ。
※HMG製剤:卵胞の発育を促す下垂体性性腺刺激ホルモ ン製剤。排卵誘発療法に用いられる。 
※シクロフェニル:排卵誘発剤の一つで、クロミフェンに比べて作用は弱いが、クロミフェンでみられる ような副作用がない
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