1PNの胚盤胞を移植しても大丈夫でしょうか?

 

渋井 幸裕 先生(キネマアートクリニック)東邦大学医学部卒業。東邦大学大森病院客員講師を経て、2010年、東京・蒲田に「キネマアートクリニック」を開院。クリニック名の「キネマ」は、クリニックのある蒲田がその昔現代劇映画の撮影スタジオとして栄えていたからなのだそう。

ドクターアドバイス

●1PNでも胚盤胞まで育てば正常の受精卵と考えてOK
●テープを増やし様子をみて
こいさん(33歳)からの相談不妊治療歴2年。12個採卵し、そのうち成熟卵が9個。病院の方針によりスプリット法で2個体外受精し、7個顕微授精しました。そのうち6個は正常受精。ほかに顕微授精をした1個が1PNで胚盤胞4AAまで育ちました。1PNは単為発生の可能性などで移植しないところも多いのですが、かかりつけ医は移植してみないとわからないが問題なしとの見解。本当に移植しても染色体異常などはないのでしょうか。また、移植周期の生理3日目からエストラーナ®テープを2枚貼っていましたが、生理12日目で卵胞が16mm、18日目では排卵後だったので移植中止に。子宮内膜もいつも薄く12日目で4.6mmでした。テープの枚数を増やせば、内膜が厚くなったり、卵胞の育ちを抑えられますか。また卵胞が小さければ移植可能かも教えてください。

●これまでの治療データ

【検査・治療歴】
治療歴2年
タイミング6周期
人工授精5回
体外受精(スプリット法)1回

【精子データ】
<最高値> 総数30,942万 運動率59.5%
<最低値> 総数6,450万 運動率40%

相談者が病院の方針で行ったスプリット法とは?

 

「スプリット法」とは、採卵した卵子を2つに分け、体外受精と顕微授精の両方を行う治療法です。

通常は卵巣から採った卵子と、採取した精子を培養器の中で受精させる体外受精が行われます。しかし精子の量が少ない、運動率が悪いなどの男性不妊や受精障害がある場合は、体外受精では受精することが難しいケースもあります。その場合は、顕微鏡を見ながら卵子に1匹ずつ精子を注入していく顕微授精が行われるのです。学会でも「顕微授精は、体外受精を行っても受精が成立しない夫婦に対して行う治療」としています。

ただ、最近では高齢になってから初めて体外受精をする方、体外受精をしてもどうも受精率が芳しくない方などもいらっしゃいます。そういった方にはスプリット法を適応し、受精率や妊娠する可能性を広げるのです。

患者さんの要望で行われることもありますが、医療機関によって適応基準が異なるので、事前にどういった場合にスプリット法の治療が行われるか確認しておくといいでしょう。

顕微授精をした受精卵が1PNということです

 

成熟した卵子と精子はそれぞれ1個ずつ前核(PN)があり、正常受精すると合計2個の核(2PN)を確認することができますが、たまに1つの核しか見えない(1PN)ことや、3つ以上の核(3PN)が見えることもあります。3つ以上の核が見える受精卵は、おそらく受精の際に複数の精子が卵子に入ってしまったことなどで発生したのではないかと思われます。ただ異常受精のため、移植の対象とはなりません。

1PNの受精卵に医療機関からは「問題なし」。本当に移植しても大丈夫?

 

1PNの場合、「単為発生」といって正常に受精できず、1つの核しかもっていないことがあります。一方で実際は2つの核が存在するものの、たまたま確認した際に卵子側の核か、精子側の核しか見えなかったという場合もあります。単為発生の場合は移植しても妊娠できませんが、後者の場合は、正常に受精したものと変わらないので、移植の対象になります。

移植対象の1PNか見分ける方法については2~3年前にシンポジウムや学会などで議論され、現在では「1PNであっても胚盤胞まで育った受精卵であれば、異常受精の可能性は低く、移植しても問題ない」という見解に落ちついてきました。今は当院をはじめ、ほとんどの医療機関がこの見解をもとに治療を行っているのではないでしょうか。そこから考えるとこいさんの1PNは胚盤胞まで育ち、グレードも4AAと良好。単為発生の受精卵の可能性はゼロではありませんが、移植の対象となります。

移植して妊娠が成立すれば正常の受精卵と変わらないと考えていいでしょう。ただ、正常に受精したものでも染色体異常が発生するのと同じく、必ずしも染色体異常がないとは言い切れません。

テープの枚数を増やせば相談者の悩みは解決する?

 

エストラーナⓇテープとは、エストロゲンというホルモンを補充し、子宮内膜を厚くして受精しやすくするために使われる薬剤です。エストロゲンの補充量は医療機関によって規定が異なりますが、一度テープの枚数を増やして卵胞の発育具合や、子宮内膜が厚くなるか確認してみるのも一つの方法でしょう。

しかし、もともとFSHが高めなどホルモンの分泌が不安定な場合、エストロゲンを補充することでホルモン量が安定し、逆に卵胞が発育することがあります。できればテープを貼って数日後に卵胞の発育状況を一度確認してもらうのがいいでしょう。当院では、テープを貼ってから1週間後に卵胞の状態をチェック。もし発育していたら自然排卵後に移植を行う自然周期に切り替えることもあります。

また、一般的に着床、妊娠しやすさを考えるなら子宮内膜は8mm前後の厚さがあることが望ましいとされています。ただ、薄くても機能的に問題がないのであれば、着床、妊娠成立するケースもあります。移植前に子宮鏡などで確認し、着床するうえで構造や形に問題がないか確認する方法もあります。

もし排卵を誘発させるためにクロミッドⓇを服用しているのであれば、その副作用によって子宮内膜が薄くなっている可能性も考えられます。それならば服用を一度やめて様子をみるのもいいかもしれません。

また、現在では再生医療の分野も進展し、不妊治療にも応用されつつあります。将来的に子宮内膜を再生するというような治療が普及し、治療法の一つとして選択できる日がくることも考えられます。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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