FSHが高い場合、どのような排卵誘発や治療が適していますか?【医師監修】

年齢が若くても、卵巣機能が低下してしまっている場合、 排卵誘発はどのような方法が適しているのでしょうか。 京野アートクリニックの京野先生にお聞きしました。

【医師監修】京野 廣一 先生 福島県立医科大学卒業後、東北大学医学部産科婦人 科学教室入局。体外受精の第一人者、鈴木雅洲教授 に学ぶ。1995 年、レディースクリニック京野(大崎市) 開院。2007年、京野アートクリニック(仙台市)開院。 B 型・おひつじ座。排卵誘発の方法に関しては、一般 的なデータだけを参考に「これが絶対」と決めつけず、 豊富な経験から一人ひとりの患者さんに合ったやり方を 提案している。

ドクターアドバイス

卵巣の能力が低下している方は 低刺激法やショート法など マイルドな方法が適しています。
ちろさん(会社員・32 歳)からの投稿 Q.卵巣年齢が非常に高く「数年で閉経するかもしれない」と言われています。 今回、D3の卵 ※ 胞刺激ホルモン(FSH)の値が15あり、いったん薬で 下げてから治療をスタートさせました。体外受精で受精しない可能性もある とのことで、病院側は顕微授精がいいかもしれないと言っています。 卵子は1~2 個採卵予定です。排卵誘発の方法を含め、私のような場合は どのような治療がよいのでしょうか。

FSHの数値について

ちろさんは、FSHの値が 15 ということですが、やはり、これはかなり卵巣の機能が低下しているということなのでしょうか。
京野先生 FSHは、脳下垂体から分泌される卵胞刺激ホルモンのことですが、当院ではD3で3~ 10 を正常値の範囲として考えています。
測定方法や検査センターによって基準値に多少違いが出ることもありますが、やはり 15 という数値は高めだと思いますね。
ただし、ちろさんのように薬を飲んだり、カウフマン療法などをすると、FSHの値はいったん下がります。
また、前の周期にどのような治療をしたかによっても変動するので、現在のFSHの値が本当にその方の卵巣予備能力を示しているかというのは、少し疑問がありますね。

卵巣予備能を調べるには

では、FSHのほかに、卵巣機能を調べるために、どのような方法がありますか?
京野先生 いつ測っても変動しないということであれば、抗ミュラー管ホルモン(AMH)値があります。
32 歳のAMHの正常値は 27 ~ 30   pM /mL 程度。
ところが、ちろさんのように、卵子が1~2個しか採れない方の場合は、この数値よりも低い方が多いんですね。
卵巣の予備能力を調べるためにはFSH、 10 ㎜以下の卵胞の数に加え、AMHの値も調べていただくとよいかと思います。

若いのに、FSHが上がる?

まだ 32 歳なのにFSH値が上がってしまうこともあるんですね。
京野先生 FSHの値は加齢とともに上がっていくのですが、若い方でも子宮内膜症があったり、悪性腫瘍などで化学療法や放射線療法を受けることによって、卵巣機能が低下してしまう場合があります。
また、多嚢胞性卵巣症候群、遺伝や強いストレスなどでも高くなることがあります。
20 以下であれば妊娠の可能性はありますが、やはり、より多くの卵子を採るために、卵巣刺激を考えなければいけないと思います。

卵巣予備能低下時の刺激法は?

ちろさんのような場合、どのような刺激法が適していますか。
京野先生 ちろさんのように、おそらくAMHが低下していて、卵胞が育っても5個未満の方を低反応型といいますが、このような場合には低卵巣刺激法、もしくはショート法、薬を使わない自然周期法など、比較的マイルドな刺激法を選択することになると思います。
卵巣の能力が低下している方は、注射の量を増やして強い刺激をしても、かえって反応しないことがあるんですね。
低卵巣刺激法は5日程度クロミ フェン(クロミッドⓇ・セロフェンⓇ)やレトロゾール(フェマーラⓇ)などを内服し、その後に少量の注射を追加する方法です。
目標採卵数はだいたい2~7個とやや少なめですが、1回の胚移植あたりの妊娠率はロング法とほとんど変わりません。
注射が少ないので身体的負担や薬剤費の負担が少なくてすむうえ、卵巣過剰刺激症候群などの副作用発生頻度を減らせることも、この方法の大きなメリットです。

カフマン療法も併用するの?

卵巣刺激は、カウフマン療法などでFSH値を下げてからスタートさせるのでしょうか。
京野先生 当院の場合でしたら、FSHが 15 あっても、卵胞の大きさが10 ㎜以下で、ある程度粒がそろっていれば、値を下げずにそのまま卵巣刺激をスタートすることもあります。
FSHだけではなく、卵胞の大きさやE2 の値なども参考にして、そのままスタートするか、カウフマン療法などで状態を整えてから治療をするか決めています。
そして、まず初回の卵巣刺激をするわけですが、実際やってみるとその方法にあまり反応しない方もいらっしゃいます。
もしショート法から始めて合わないようなら、次は低刺激法に変えてみるなど、一つの方法で結果が出ない場合、やり方を変えていって、その方に最も合った卵巣刺激の方法を探していきます。

状況に応じた選択が必要

卵巣刺激は実際にやってみないとどのような反応が出るかわからない、という部分があるわけですね。
京野先生 そうですね。初回の方法はAMHやFSHの値、卵胞の数などを参考にしますが、それでも実際にやってみると反応が思わしくなかったり、予想外の副作用が出てしまう場合もあります。
まずやってみて、もしうまくいかなかった場合は、その結果から次の方法を検討していくということになるかと思います。
卵が採れて受精となった場合、ちろさんのケースでは、やはり顕微授精がベストと言えますか?
京野先生 ちろさんはFSH値の問題で相談されていますが、不妊原因がこれ一つとは限りません。
たとえば、受精障害という原因もありうるわけですよね。
受精障害の場合は精子が卵子の中に入っていかないので、体外受精をしても受精しません。
また卵子の質がよくないと、多精子受精といって、1個の卵子の中に2~3個の精子が入ってしまうことがあります。

必ずしも顕微授精にしなければいけないわけではありませんが、ちろさんのように卵巣の予備能力が低下し、何回もトライできないというリスクを考えると、選択肢の一つにはなるかと思います。

※卵胞刺激ホルモン(FSH):卵胞の発育を促す。 

※カウフマン療法:規則的な月経周期を取り戻すため、卵胞ホルモン(エストロゲン)、黄体ホルモン(プ ロゲステロン)といった卵巣ホルモンを周期的に投与する。卵胞刺激ホルモン(FSH)の過剰分泌によって機能が低下している卵巣を元の状態に戻し、排卵 を誘発する方法としても用いられる。ここでは後者の目的であり、FSHの分泌を抑える。 
※抗ミュラー管ホルモン(AMH):発育卵胞、前胞状卵胞から分 泌されるホルモン。AMHの検査値から卵巣の予備能を知ることができる。ミュラー管抑制因子ともいう。 
※子宮内膜症:子宮内膜に類似した組織が骨盤内 の臓器、たとえば卵巣や卵管、ダグラス窩などで増殖し、出血したり炎症を起こしたりするもの。
※多嚢胞性卵巣症候群(PCOS):慢性的に男性ホルモンが過剰な状態にあり、排卵がうまくできない原因不明の疾患。 
※ショート法:月経開始日からGnRH アナログ製剤を使用し、月経3日目からHMGを7日間連続して筋肉注射する排卵誘発法。 
※クロミフェン、レトロゾール:排卵誘発薬。 
※ロング法:月経 前の黄体期からGnRHアナログ製剤を使用し、月経3日目からHMGを7日間連続して筋肉注射する排卵誘発法。 
※卵巣過剰刺激症候群(OHSS):排卵誘発 法により多数の卵胞が発育・排卵することで、卵巣が腫れる、腹水や胸水がたまる、血液の電解質バランス異常、血液の濃縮などの症状が現れるもの。 
※E2: エストラジオール。卵胞ホルモン。
>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。本サイトの全ての記事は医師監修です。