里親・養子縁組制度

不妊治療の 原点から考える 里親・養子縁組制度

不妊に悩む夫婦の年齢が年々上がっている今、新たな選択肢の一 つとして注目されつつある里親・養子縁組制度。

生殖医療の観点 からセント・ルカ産婦人科の宇津宮隆史先生にお話を伺いました。

厚生労働省のデータで里親等委託率の全国平均は 16 ・5%です(平成 26 年度)。大分 県は平成 16 年度の7・4%から平成 26 年度 の 28 ・5%へと大幅に増加。理由として何 が考えられますか?

私の印象ですが、児童相談所の運営・連携クオリティの高さが大分県の委託率向上につながっているのではないでしょうか。体制が整っているからこその結果と推測できます。
 
私は別府市にある児童養護施設の理事長を兼務していて、当院のスタッフも施設運営に力を貸してくれています。子どもたちと向き合っていくなかで、施設のスタッフ、子どもたちとはとてもいい関係性ができています。なぜなら我々が考える不妊治療は「不妊の夫婦のため」ではなく「生まれてくる子どものためにある」ということが原点にあるからです。不妊に悩むご夫婦の大半は、夫婦のために治療を受けていますが、生まれてくる子どもは「人」そのもの。この世に生を受けて本当に良かったのかが最も重要であり、それに基づいた治療を提案します。どんな時でも子どもが最優先にされるべきという思いが、皆の共通認識なのです。
 
子どもを授かることが難しいご夫婦の不妊原因が明確な場合、治療はある程度限定され、やめるタイミングも比較的早い段階で訪れます。助成金を受ける女性不妊治療の 原点から考える 里親・養子縁組制度 特別企画〈家族の未来を考える〉の年齢が 43 歳未満なので年齢の条件も一 つのきっかけになるでしょう。治療を終える時に子どもを授かっていればいいのですが、そうでない場合もあります。もし、そのご夫婦が 40 代前半で治療を終え たなら、そのあとにまだ 40 年は夫婦二人 での生活があります。その年月を、夫婦でどのように生きていくのか。子どもを諦めざるを得ない時、夫婦で考え、決断しなければならないのです。そのようなことを多角的に考え、サポートする取り組みとして、当院では 40 歳以上の方を対 象にした座談会や、二人だけの生活を選んだご夫婦の体験談を話してもらう会を定期的に開催しています。
 
どうしても自分たちの子どもが欲しいという思いで卵子提供を希望される方もいますが、当院では卵子提供を実施していません。希望されれば他院を紹介することもありますが、これは不妊治療のステップアップとは別次元の話としてとらえていただきたいです。

出自を知る権利の現状は?

非配偶者間人工授精(AID)が日本で認められる際、精子提供者の情報は一切秘密とされました。戸籍上、何も記載はないので告げられなければ子どもは永久に知ることができません。しかし、ほとんどの場合は、ある日突然に、しかも家族の一大事というタイミングで知らされるのです。両親が離婚する時、親が危篤または亡くなった時。それでなくても大変な状況なのに、「お父さんの子どもではない」「知らない人の精子で産んだ」などと告げられた時の動揺、その後の葛藤や悲しみは想像をはるかに超えるものでしょう。
 
海外での卵子提供により誕生した子どもたちは年長の子ですでに 5 ・ 6 歳に成長しています。彼らに出自を知る権利が保障されているかというと、残念ながらそうではありません。議論の途中で卵子提供がスタートしたため、クリニックや患者さん各々の解釈で「知らせる」「知らせない」と大いに異なるのです。また、子どもの成長を 20 年間フォローアップす るのも確実に実施されるかは疑問で、現状は子どもの立場、権利が置いてきぼりにされていると言えるでしょう。
 
里親・養子縁組についても、最優先されるべきは子どもです。養親が必要な子どもも不妊の夫婦も増えているのが現状ですが、そのうえで考えたいのが「特別養子縁組」について。戸籍の記載が実子なので、夫婦としては、子どもができる、親になれたという喜びがあるでしょう。しかし、実の親との関係が継続する「普通養子縁組」に比べ、「特別養子縁組」は実の親との関係を完全に断つものです。戸籍に民法上の一文が記載されて自分が養子だと知る機会が訪れても実の親=ルーツを知ることができない可能性が高いです。結果は出自を知る権利が奪われることになるのではないでしょうか。

最後にメッセージをお願いします。
 
大抵のことは実現できる時代ですが、何でもやっていいわけではありません。また、そういう決断をする時に本来はその子どもの気持ちを聞くべきなのですが、それができないのですから大人が責任をもって保障してあげなければならない。不妊治療中の皆さんも、今しようとしているのは何のためか、夫婦で向き合い、思いを一つにして最善の道を選択していただきたいと切に願います。

教えて! 里親Q&A

Q1 里親になるために資 格は必要ですか?

A1 一定の要件を満たしていれば、特別な資格 は必要ありません。里親に望まれることは、子 どもが大好きで明るく健康的なご家庭である ことです。

Q2 里親って養子縁組の ことですか?

A2 里親には養子縁組を前提とする場合や、事 情があって家庭で生活できない子どもを一 定期間養育する養育里親などがあります。 里親=養子縁組ではありません。

Q3 子どもを育てるのは 大変そう。子育て経 験がないのですが、 疑問や悩みを相談す ることはできますか?

A3 里親が安心して子育てできるように、研修以 外に、里親専門の相談員等が電話や訪問 により、疑問や悩みをお聞きして一緒に解決 方法を考えます。また、地域の里親会による 支援や交流活動もあります。 初めから完璧な里親なんていません。 子どもと一緒に生活を楽しみ、学ぶ姿勢が 大切です。

Q4 共働きでも里親にな れますか?

A4 共働きの里親ご夫婦もいらっしゃいます。子 どもの養育に支障のない範囲での共働きは 問題ありません。詳しいことはお近くの児童 相談所にご相談ください。

 

宇津宮 隆史 先生 熊本大学医学部卒業。1988年九州大学生体防御医学研究所講師、 1989年大分県立病院がんセンター第二婦人科部長を経て、1992年 セント・ルカ産婦人科開院。国内でいち早く不妊治療に取り組んだパイオ ニアの一人。開院以来、妊娠数は8,000件を超える。O型・おひつじ座。 プライベートな休日が取れないほど多忙な日々を送る宇津宮先生。体力を 維持するために寸暇を惜しんで運動することを心がけていて、「学会で上 京した時は皇居を走ろうかな」と笑顔で語ってくださいました。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

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