友人の言葉で決意した特別養子縁組

早発閉経で、不妊治療が体に合わず妊娠を断念したものの……。

二人に子どもがいないのはもったいない。友人の言葉で決意した特別養子縁組。

子どもができる可能性は限りなく少ない。

医師にそう言われても諦めきれなかったA子さん夫婦。特別養子縁組に目を向けたきっかけは二人をよく知る友人のある告白とアドバイスでした。

不妊治療を試みるも体に合わず断念

2009年の大晦日。共通の友人のパーティーで出会ったA子さん( 46 歳)とT男さん(43歳)。初対面から意気投合し、3年のおつきあいを経て2012年に結婚。ほぼ同時にA子さんは婦人科へ。38歳という年齢もありましたが、生理不順だったため、問題がありそうな気がしていたからです。

そこで早発閉経(POI)と診断されました。女性ホルモンの値が非常に低く排卵がないため、 40歳未満で閉経に至る病気です。

「医師からは自然に妊娠する可能性はない、体外受精などの治療を施しても妊娠は期待できないと。そう聞いた瞬間、自分の体の一部がなくなったように感じました。どうしたらいいのかわからなくて悲嘆にくれるしかなかったです」

それでも、子どもが欲しかったA子さんは一縷の望みをかけ、ホルモン補充療法を行い、卵胞の発育を刺激する不妊治療を開始することにしました。

「これが体に合わなくて本当につらかった。過酷でした」(A子さん)

T男さんも「彼女は体調を壊しただけでなく、精神的にも追い詰められていました」。それでも可能性があるのであれば続けていたかもしれません。しかし、体外受精は失敗に終わり、医師からも「妊娠の可能性は限りなく低い」とはっきり告げられます。「言葉では言い表せないほどショックでしたが、まずは彼女の体調を整えることを優先、不妊治療をやめて早発閉経の治療に切り替えました」(T男さん)。

「実は私は養子なんだよ」。友人の告白で心がほどけた

もう自分たちの子どもをつくることはできないとわかったものの、T男さんは「時間を少しおけば、チャンスがあるかもしれない」と心のどこかで希望を捨てきれなかったと言います。

「不妊治療を中止後に子宝を授かったというケースをいくつか見聞したのと、早発閉経の治療次第では可能性がゼロではない、と医師に言われたからです」(T男さん)。

不妊治療をやめてから気づけば3年が経っていました。その間に、養子縁組という選択肢もあると知っていたので、二人で何度か話し合いました。「ただ私が、血のつながりに執着していたのか、なかなか踏ん切りがつかなかったんです」(T男さん)。気持ちを切り替えるきっかけになったのが二人の共通のある友人の告白でした。

「実は私、養子なんだよね、と。身近にいたことで、養子縁組に対して親近感が芽生えたというか、すごく身近なことに思えたんです」

一方、A子さんは自分が不妊だとわかった時から、養子縁組でも子どもを育てられるんだったら、それもいいなと何となく思っていました。先ほどの友人にそう話したところ、

「あなたとT男はすごくいい関係の夫婦。二人ならきっと子どもを素敵な人に育てられるはず」と。その言葉に勇気づけられたA子さんは「養子縁組に登録しましょう」とT男さんに提案します。

「ちょうど僕もその気になっていたところだったので、そうだね、と。すぐにネットでいろいろ調べ、実際に管轄の児童相談所へ話を聞きに行きました」

児童相談所では養子縁組の制度についての説明を受けました。

「人ひとりの命を預かることになる、生半可な気持ちではできない、相当な覚悟は必要だと痛感しました。それでもやはり自分たちで子育てがしたかった。気持ちはもう揺らぎませんでした」(T男さん)

新生児委託事業で生後間もない子の里親に

A子さん夫婦はその後、新生児里親説明会、面接、家庭訪問などを経て新生児委託に登録します。

「東京都が2017年10月から、生後  28日未満の新生児の特別養子縁組を希望する夫婦に託すモデル事業を始めたところでした。できれば乳児から育ててみたかったのでよかったです」(T男さん)

児童相談所から受託をお願いしたい新生児がいると連絡があったのが2018年5月末。そして、 6月中旬に引き取ることに。

Mちゃんは愛らしい女の子。生後  6カ月までは里父母のどちらが家庭で養育することという条件がありました。教職に就くA 子さんが急に退職することができなかったので、T男さんが仕事を辞めて専従することに。そこから新しい三人の生活が始まりました。

「もうガラッと変わりましたね。Mのことで、二人でいろいろ話すようになりましたし、週末も三人で出かけることが多くなって。特に彼女は教育者でもあるので抜群に子育てが上手です。そんな彼女を見ながら僕は(子育てを)勉強しているところです」(T男さん)

翌2019年縁組も成立。今年1月、法的に養子歳になるMちゃんはまさに育ち盛りです。

「たとえば、言葉をだんだん話すようになってきたり、新しいことができるようになったりと日に日にできることが増えていく。その成長を目の当たりにできる瞬間が本当に幸せです」

A子さんたちはMちゃんを一人の人間としてアイデンティティを尊重してあげたいからと、すでに産みの母親のことも話しているそうです。「養子縁組で里親になった方が一番悩むのは真実告知だと思うのですが、Mには最初からオープンにしようと夫婦で話し合ってきました」とT男さん。A子さんも「まだどこまで理解しているか、わからないですが、産みのお母さんに似てるよって伝えています」。

不妊治療がうまくいかなかったから、子どもは諦めるという選択も全然間違っていないとA子さんたちは思っています。「でも、血の繋がりがなくても養子縁組で子どもを受け入れることが、夫婦にとっての幸せな将来につながる。そのことを私たちの経験を通して、不妊治療で苦しむご夫婦に伝えたいです」(A子さん)。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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