膿精液症について

膿精液症は男性不妊?
泌尿器科に通院して治療すべきでしょうか

相談者 : とさん(30歳)夫の精液についての相談です。以前、精液検査で膿精液症と診断されました。その際に抗生物質を処方され、1週間ほど内服してもらいましたが、今月ステップアップして初めての人工授精でも「精液に白血球が多い」と言われました。薬を飲んでも精液内に白血球が多いということは、効いていないということなのでしょうか? 膿精液症も男性不妊に入ると知り、不安です。また、夫も泌尿器科に通院し治療したほうがいいのですか? 今後も人工授精は続ける予定です。
セントマザー産婦人科医院 田中 温 先生 順天堂大学医学部卒業。膨大な数の研究と実験は毎日深夜にまで及び、1985 年、ついに日本初のギフト法による男児が誕生。1990 年、セントマザー産婦人科医院を開院。現在も研究と実験に精力的に取り組んでいる。日本受精着床学会副理事長。順天堂大学医学部客員教授。

ドクターアドバイス

●膿精液症は泌尿器科で治療。
●確実な卵管造影検査を受ける。
●二人で学び、治療に取り組む。

膿精液症について教えてください。

田中先生●膿精液症の原因としてもっとも多いのは性感染症です。ただし、とても珍しく、当院でも明らかに膿精液症だという患者さんはほとんど見たことがありません。原因菌としては淋菌やクラミジアが多く、精液の中の白血球が異常増殖していることで確定します。膿が出る、排尿痛がある、性器の腫れ、射精時の出血などのわかりやすい自覚症状があるので、おかしいと思えばすぐに泌尿器科へ。原因菌を特定し、菌に応じた抗生物質を服用すれば、すぐに治癒します。また、再発しても影響があるものではありません。なぜなら、菌は精巣の表面に出現するだけで深部まで浸潤することはなく、精子は毎日新しくつくられているからです。ただし、女性はクラミジアや淋菌への感染、子宮内膜炎などがあっても症状がほとんど出ないため、治療が遅れ、症状が悪化する場合もあります。男性側に異変があれば、すぐに検査を受けることを心がけましょう。

膿精液症が不妊の原因になることはありますか?

田中先生●膿精液症が見つかるのは2通りあり、先ほども挙げたような自覚症状があって自ら泌尿器科を受診する場合と、不妊治療の初期検査で精液検査をしたら「白血球が非常に多い」と言われる場合があります。もしかしたら、ご主人は後者で、不妊治療を開始してすぐの一般的な精液検査で膿精液症が判明したのかもしれません。思いも寄らず、という展開でなおさら不安になっているのかもしれませんね。抗生物質を服用中は夫婦生活を控える必要があるので、それだけを見れば「不妊の原因だ」と言えるのかもしれませんが、抗生物質を服用して治癒さえすれば何の支障もありません。

抗生物質を1週間服用しても白血球が多かったのは、なぜでしょうか?

田中先生●抗生物質の種類が合っていなかったと考えられます。通常、細菌培養する際に行うべき感受性検査をしていなかったのかもしれません。精液検査のみでも単純に白血球が多いということはわかりますが、どの抗生物質を選べば一番効果があるのかを調べる検査をしていないがために、間違った処方をされていた可能性も否定できません。そこから推測すると、やはりとさんのご主人は泌尿器科での検査・治療をしていないのかもしれません。泌尿器科で解決することなので、あれこれ思い悩む前にご主人に受診を提案しましょう。

今後も人工授精を続けたいとのことですが、先生はどう思われますか?

田中先生●人工授精をする時はパーコール法という方法で精液から雑菌を取り除いて洗浄し、元気な精子だけを濃縮させるので、このまま人工授精を続けてもよいでしょう。ただし、白血球が多いままの状態では精子の運動率が下がる場合もあるので、やはり治療してからが望ましいと言えます。人工授精をあと何回試すのか、体外受精や顕微授精にステップアップしたほうがいいのかは、とさんの年齢、排卵の状態、精子の数や動きなど総合的に判断しなければなりません。今は体外受精が保険適用になっているので、ご夫婦のどちらかに少しでも不安要素があるなら、体外受精に進むタイミングを考えてみてはいかがでしょう。

ご主人が泌尿器科で治療する1〜2週間の間に、とさんにも何かできることはありますか?

田中先生●子宮卵管造影検査を受けていなければ、ぜひ受けてください。他院から転院された患者さんのなかには、外来で行った卵管通過検査のみで「卵管造影をして卵管が通っていると言われた」と勘違いをしている患者さんも多くいらっしゃいます。卵管通過検査では卵管が通っているか、詰まっているのかを正確に診断することはできません。本当は閉塞しているけれど卵管の途中に穴が開いていて通水できているように見えたり、卵管水腫があるのに見過ごされる場合もあります。卵管造影検査はレントゲン設備が必要であり、施設側によっては取り扱いが難しい場合もあるでしょうが、間違った診断は治療年数の長期化や患者さんの経済的負担増などにもつながります。通院しているクリニックで受けられないなら設備のある大学病院などに紹介状を書いてもらって、検査をしていただきたいと思います。AMHの検査は受けたほうがいいのですが、体外受精を目的とした場合でなければ保険適用にはなりません。人工授精を希望されている現段階では自費での検査になるので、それなら超音波でおおよその胞状卵胞の数をカウントするだけでもよいでしょう。そして、不妊治療の基本となる基礎体温もつけましょう。

最後にアドバイスをお願いします。

田中先生●今はまだ治療開始して間もなく、初めて耳に入ってくる情報に一喜一憂することもあるでしょう。しかし、本来なら必要なかったはずの時間と費用をかけてしまう可能性や、不安、ストレスを少しでも減らしていただくためにも、不妊治療の基本をしっかりと学び、お二人で治療に取り組んでいただきたいと思います。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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