タイミング療法でうまくいかないときは 一歩踏み出す人工授精

不妊治療の保険適用範囲が大幅に拡大され、人工授精体外受精など費用負担の軽減が期待されています。
そこであらためて人工授精について、治療の流れや妊娠率を高めるポイントなど、佐久平エンゼルクリニックの政井哲兵先生にお話を伺いました。

佐久平エンゼルクリニック 政井 哲兵 先生 鹿児島大学医学部卒業。東京都立府中病院(現東京都立多摩総合医療センター)。日本赤十字社医療センター、高崎ART クリニックを経て、2014 年佐久平エンゼルクリニックを開業、2016 年医療法人佐久平リプロダクションセンターを設立。

「人工」に惑わされないで自然妊娠に近い治療法です

人工授精とは、女性の排卵の時期に合わせて、洗浄・濃縮したパートナーの精子を排卵日に合わせて子宮内に注入する方法です。精子が女性の体内に進入するプロセスは通常の性行為とは異なりますが、その後の受精と着床については自然な経過で妊娠が成立することを期待します。患者さんの中には、人工授精と聞くと「人工」という言葉から人工的な方法を想像しがちですが、事前に採取した精子を、子宮の奥深くに注入するだけ。副作用もほとんどなく、受精・着床と妊娠へ至る方法は自然妊娠とまったく変わりません。比較的費用も安く、身体への負担も少ないため、女性側に明らかな不妊原因がなく、年齢が若い場合には体外受精より前に提案させていただく治療法です。

人工授精は運動精子の数が少ないといったような軽度の男性不妊がまず適応となります。女性側の要因としては、子宮頸管から分泌される頸管粘液の量が少ない、あるいは頸管粘液の性状が悪いなど頸管粘液不全がある場合です。正常ならば、射精された精子は頸管粘液の中を遡上して子宮へ入っていくのですが、何らかの原因で頸管粘液がうまく分泌されないと、子宮の中に入る精子数が少なくなってしまいます。例えば、子宮頸がんの治療で円錐切除術を受けた方は、頸管粘液不全が起こる可能性が高くなります。そのほか、何度かタイミング法で試みても妊娠しなかった方や性交障害、射精障害などによって性交渉がうまくできないカップルに人工授精をおすすめします。

治療の流れを把握して最善の治療法を選びましょう

治療はまず、女性側に超音波検査を行い、卵胞の大きさや子宮内膜の厚さを測定し、排卵日を特定します。場合によっては排卵誘発剤を使います。卵胞の発育に合わせ、採取した精子を子宮に注入します。

タイミング法を何度か試みた中でうまくいかず「なるべく自然で」という思いが強い方に、いきなり体外受精へのステップアップはハードルが高いようです。ただ、本音を言うと人工授精は年齢にもよりますが、タイミング法より妊娠率が10~20%と少しアップする程度。そのため、あまり積極的に人工授精を行ってはいません。ただし患者さんのご希望や納得感という意味で治療を進めるように心がけています。

人工授精では3周期目までに妊娠するケースが多く、ここまでに妊娠しない場合、とくに5~6周期目以降では妊娠率は大きく低下します。そのため一般的には5~6回人工授精を繰り返しても妊娠しない場合には、体外受精や顕微授精へのステップアップを考慮するべきでしょう。

妊娠を高めるポイントは精子の質を高めることです

治療時により妊娠率を高めるためには、人工授精だけに頼らないことです。人工授精の周期に意識を集中してしまうのは分かりますが、人工授精の周期に合わせてタイミング法も試みているカップルの方が妊娠する確率が上がります。一つには精子の射精回数が増えることにより精子の質も良くなるというのがあります。そのため、月に一度人工授精のために精子を採取するよりも、並行してタイミング法を試みることもおすすめします。

精子の採取において当院では、コロナ禍ということもあって今は院内採取を行っていません。以前、院内で採取していた時と比較しても、自宅で採取して2~3時間以内に持参していただける精子とあまり差はないようです。採取した精液を温度変化から守る保温器を採用したことで、精子の状態を良好に保ちながら運搬できています。むしろ自宅の方がリラックスして精子を採取できるようです。

保険適用となった人工授精は経済的なハードルは軽減されました。タイミング法ではなかなか妊娠できず、不妊歴が長く、体外受精や顕微授精へのいきなりのステップアップに抵抗がある方は人工授精をまず検討されてみてはいかがでしょう

人工授精が適する人

・タイミング療法でもなかなか妊娠しない
・精子の状態がやや思わしくない場合
・勃起障害や出張などにより性交渉がうまくとりにくい…など

人工授精が適さない人

・精子の状態がかなり良くない場合
・女性の年齢が40 歳以上

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