【Q&A】人工授精で妊娠の可能性はありますか?~吉川先生

ももさん(28歳)

人工授精を2回行いました。
主治医からは問題ないと言われていますが、精液運動率がWHO下限を下回っています。
人工授精で妊娠できる可能性はあるのでしょうか。
私側の異常は、AMHが10.91と高い事です。
よろしくお願い致します。

津田沼IVFクリニックの吉川守先生に伺いました。

吉川 守 先生(津田沼IVFクリニック)
1991年山梨医科大学(現・山梨大学)卒業。亀田総合病院、船橋二和病院、セントマーガレット病院、山王病院などを経て、2010年11月I津田沼IVFクリニックを開設。
※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。
総運動精子数は、運動精子の総数のことで、治療方針を決める際に最も重要です。

総運動精子数=精液量×濃度×運動率

精子の検査データ
◎1回目結果(調整前)では、

総運動精子数=3.2×36.7×100万×0.174=20.4×100万

◎2回目結果では、

総運動精子数=2.1×60×100万×0.15=18.9×100万

総運動精子数はおよそ10×100万以上であれば人工授精で妊娠可能ですし、最低値で1×100万くらいかと思います(それ以下でも妊娠例はしばしばあります)。

このため、2回の精子の検査データからは、人工授精で妊娠できる可能性は十分にあると思われます。自然妊娠も期待できますが、運動精子を子宮内に多く注入できる人工授精の方がより良いと思います。

●WHOの精液検査について

WHOの精液検査に参加した男性はすべて、12か月以内というごく最近にパートナーが妊娠した方で、パートナーの妊娠判明後に検査を受けています。
つまり、参加した3589人の中で、最も所見の良くなかった3589番目の方もパートナーが妊娠しています。
さらに、パートナーが妊娠した時の精液と、検査した時の精液は当然ながら別物です。
精液所見は10倍以上の変動が見られることがありますので、例えば、検査では5パーセンタイル以下の方の精液(不良)所見が、妊娠時の精液所見と大きく異なり、とても良い所見であった可能性があります(多分そうです)。
また、精液検査所見は人種によって、かなりの違いがあるとされますが、日本人のデータは一人も入っていません。

津田沼IVFクリニックは、赤ちゃんをご希望される方のためのクリニックですので、多くの男性はパートナーが妊娠したことがない、少なくとも12か月以内に妊娠していない方ですので、WHOの妊孕性判明の方の下限基準値の表は、治療選択の点からは適当ではないと考えています。

そもそもWHOは、不妊症治療のためにデータを提供しているわけではありませんし、日本人のデータでもありません。
WHOも「本書は、男性因子不妊症の治療法の選択として臨床的判断を行うためのガイドラインではありません。」としています。

津田沼IVFクリニックの精液検査の基準値は別に定めていますが、タイミング治療、人工授精、体外受精顕微授精などの治療の選択を行う上で、治療結果とよく相関していると考えています。

複数回の検査結果や、女性の検査結果、これまでの経過、ご希望などを総合的に評価して、お二人にとって最適な治療方法をご相談させていただきます。

先述しましたように、精液所見は大きく変動します。

人体の中で最も変動の大きい検査で、他には無いと思います。
精液検査結果が悪くても、パートナーが自然妊娠や人工授精での妊娠されることはよくありますし、逆に精液検査結果が正常でも、パートナーがなかなか妊娠に至らないこともよくあります。夫婦生活の際の精液所見が、検査時とは異なり、良好であったと推定されることもよくあります。
月に一度の排卵日を、不安に思わず大切にしましょう。

■参考ブログ
精子の運動率を改善する方法につきましては、多くの優良サイトなどがあると思いますのでそちらをご覧いただければと思います。

・気を付けること;食事、睡眠、運動など

・避けること;喫煙、肥満、座りっぱなし、サウナ・長風呂、締め付ける下着、育毛剤など

・手術;精索静脈瘤

・サプリメント;コエンザイムQ10、亜鉛、葉酸、ビタミンB12・C・E、Lカルニチン、セレン、リコペンなど

●AMHについて
10.91は高値と考えます。

「多嚢胞気味」とありますので、恐らく多嚢胞性卵巣かと思います。
163㎝52㎏と痩せていますし、クロミッドの内服のみで排卵しており(服用前でも月経周期は40日前後とやや遅れる程度)、AMH高値につきましては心配ないように感じます。AMH高値、多嚢胞気味でも排卵していますので、これらは「不妊の原因」ではありません。
「現在の治療方針(使用薬剤や検査なども含む)」欄が空欄ですが、他の基本的な検査、例えば、子宮卵管造影検査や子宮鏡検査、クラミジア抗体検査などはお済でしょうか。
お若くても、すべての検査をお受けになることをお勧めします。
他にできることは、イノシトールなどのサプリメント、柴苓湯などの漢方薬、インスリン抵抗性があればメトホルミン服用、テストステロン・DHEA-S測定などが考えられます。

人工授精は、「生殖補助医療」に比較すると様々な視点より軽視されがちな治療法ですが、非常に奥深い治療法で医師や病院の能力に大きく左右されます。

卵子や精子の改善、人工授精のタイミング・方法、精子調整、クロミッドやHCGの使い方など、古く、シンプルであるからこそ、一組ごと、一月ごとの熟慮が必須です。
十分な検査を実施し、異常所見に対応した上で、あと2~3回人工授精を実施してみてはいかがでしょうか。
それで結果が出なければ、ピックアップ障害受精障害なども考慮して、体外受精などの高度生殖補助医療に挑戦してみたらいかがかと思います。
>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。本サイトの全ての記事は医師監修です。