さまざまな方法に挑戦してきましたが妊娠できません

蔵本 武志 先生久留米大学医学部卒業、山口大学大学院修了。山口県立中央病院産 婦人科副部長、済生会下関総合病院産婦人科部長を経て、1990年オー ストラリア・PIVETメディカルセンターへ留学。帰国後、1995年蔵本ウイメ ンズクリニック開院。O型・おうし座。2013年は、培養室のリニューアル を検討中。日々多忙を極める蔵本先生のリフレッシュ法は観劇だそう。先日 も大ファンである劇団四季の舞台鑑賞に、広島まで足を運んだそう。
きょんさん(27歳)からの相談 Q.23歳で結婚、自己流でタイミング1年、妊娠しないため治療を開始。まずはクロミッド®を 服用してタイミング療法を6周期。その後、人工授精を1回試して卵管造影検査を行った ところ、右卵管閉塞がわかり、左の排卵に合わせた人工授精を6回。それでもダメで腹腔鏡手術を行うと、右ではなく左の卵管閉塞、両卵管の炎症が発覚し、体外受精にステップ アップしました。しかし移植を4回したもののすべて陰性……。原因はわからず「相性かな ……」とも言われ、へこんでいます。現病院では移植をくり返すしかないと言われましたが、 体外受精は経済的にもうできません。今後、どのような治療をすればいいのでしょうか?

採卵数と卵質の関係

きょんさんの質問を詳しくみると、ロング法で、左右合わせて 30 個近くの卵胞ができてしまいOHSSに。9個採卵したうち5個が正常受精し(拡張胚盤胞、胚盤胞、初期胚盤胞、桑実胞2個)、グレードのいい拡張胚盤胞から順にホルモン補充周期で移植されたようです。
蔵本先生 前回の体外受精では、おそらく採卵後に5日間培養して胚を凍結したと思われます。
胚発生のいいもの=妊娠できる可能性が高くなるので、この場合は最初に胚移植した拡張胚盤胞、次の胚盤胞以外の
胚では妊娠が厳しかったのではと思います。
胚盤胞もすべて正常ではなく、な かには染色体異常の胚盤胞もあり、これらは着床率が低下します。
また卵巣を強く刺激して発育卵胞数が 30個程度に増えると、卵子の質が低下することがあります。
次回、体外受精の際は、アンタゴニスト法を用いて注射の量を減らし、発育卵胞数を10 ~ 15 個程度にすれば、胚の質が上がってくるかもしれません。

卵管因子への対処

両卵管に炎症があるそうですが。
蔵本先生 記載がありませんが、クラミジア感染症によるものでしょうか。
もしそうなら、クラミジアの検査を行い、陽性でしたらご夫婦ともに抗生物質で治療する必要があります。
また卵管水腫がある場合もありま すが、これは卵管造影検査でわかります。
前回の卵管造影検査から1年以上経っているなら、再度受けてもいいかもしれません。
卵管内に狭窄がある場合は子宮外妊娠の危険性もありますので、詳しい検査を。
卵管水腫が見られず、片方の閉鎖、反対側の卵管狭窄などであれば、卵管鏡下卵管形成術(FT)を行ってもいいと思います。

治療の結果からステップアップも

治療費が高額になりませんか?
蔵本先生 FTは保険が効きますし、高額医療費の請求もできます。
またFTでは、閉鎖した卵管や狭窄を 90 %の確率で開通させることができます。
もし大きな卵管水腫があり、どうしても妊娠することができなければ、腹腔鏡で大きな卵管水腫のある卵管と子宮との境を切断し、卵管水腫の内容液が子宮内に流れ込まないようにします。
またFTを行う際、卵管鏡で卵管内を観察しますが、卵管内にヒダが見えれば、卵管機能は正常と考えていいと思います。
逆に、卵管内が瘢痕状でヒダが見えなければ、卵管の機能はあまりよくないと考え、体外受精を行ったほうがよいでしょう。
FT後に、1~2回卵管の疎通性 検査を行いながら、少なくとも半年、卵管が通っていれば、タイミング療法や人工授精で妊娠する可能性はあると思います。
途中で一度、子宮鏡で子宮内をみるのもいいかもしれません。
それでも妊娠できなければ、やはりやや軽い卵巣刺激法を用いて体外受精することをおすすめします。
きょんさんは 27 歳ですし、妊娠できる可能性は十分にありますよ。
※OHSS(卵巣過剰刺激症候群):排卵誘発法により多数の卵胞が発育・排卵することで、卵巣が腫れる、腹水や胸水が溜まる、血液の電解質バランス異常、血液の濃縮などの症状をみせるもの。

※卵管水腫:腟から侵入したクラミジア、淋菌、大腸菌などにより卵管に炎症が起こり、いくつかの場所で卵管が閉塞してその間に液体が溜まった状態。卵管采がふさがると、排卵し た卵子をキャッチできなくなる。卵管形成術による治療が行われる。

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