凍結胚移植時にタクロリムス投与をすすめられています

Th1/Th2 比で異常が。
主治医に処方されたタクロリムスは有効?

いながきレディースクリニック 稲垣 誠 先生 1994 年、浜松医科大学医学部卒業。浜松医科大学医学部附属病院、鹿児島市立病院、聖隷沼津病院などで産婦人科医の経験を重ね、2012 年、不妊治療専門施設「いながきレディースクリニック」を開院。「お一人ひとりに寄り添いながら、それぞれの患者さまに合った最適な治療を心がけています」。
相談者 : エムエムさん(50歳)6年以上不妊治療を続けており、着床障害、不育症の検査をいくつか受けています。最近のTh1/Th2 検査で比が18.5 と基準値を超えていたため、主治医から次の移植時にタクロリムスを処方するといわれました。しかしタクロリムスについては医師の間でも意見が分かれているという情報を知り、着床障害・不育症の検査専門病院のHP を調べたところ、「基準値が高くても飲まないほうがいい、副作用が心配」と記載されていました。凍結胚は2 個しかなく、このまま移植に臨むのは不安です。
タクロリムス投与について先生のご意見をお聞かせください。
稲垣先生●タクロリムス投与については、成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業として、「不育症管理に関する提言2021」というガイドラインが示されています。これに照らし合わせていただくのがいいと思います。
 個人的には積極的な投与はおすすめしません。というのは、まだ先進医療の認定を受けておらず、治療法として確立していないからです。今後、いくつかのプロセスを経て多くのエビデンスを得て、時間をかけて承認されていくものだと考えています。ですから現時点で投与する場合は、医師から十分な説明を受けて、患者様が納得されての投与が前提となります。エムエムさんはすでに迷っていらっしゃるので、おすすめできないですね。
主治医と専門医の意見の違いを気にされていますが、先生ならどのような治療や検査をアドバイスされますか。
稲垣先生●流産の回数が不明ですが、2回以上ならばPGT -A 検査の対象になります。この検査は体外受精によって得られた胚の染色体数を、移植する前に調べるものです。移植前に胚の染色体数を評価し、異数性の胚盤胞があった場合には、移植の候補から除外することで流産のリスクが減ることが期待されます。さらに正数の胚を移植できれば、妊娠率の向上が期待できます。
 ただ、凍結胚でこの検査を行うと受精卵へのダメージが大きいので、もし、もう一度採卵の機会があれば検査をおすすめします。
 またエムエムさんは専門医の意見を直接聞いたわけではなく、HPの情報なので、先に挙げたガイドラインを参考に、主治医に正直な気持ちを伝えてみてはどうでしょう。最終的にタクロリムスを投与するかしないかはご自身の選択になりますが、十分に納得したうえでの選択なら、どんな結果も受け入れられるのではないでしょうか。
 最近は「TLC(テンダー・ラビング・ケア)」といって、不育症の患者様が抱えるストレスを和らげるために、医師や看護師が愛情をもって優しく患者様に接し、いたわる精神的なケアが重視されています。移植の回数が限られていてプレッシャーも大きいと思いますが、お一人で悩まず主治医や看護師に、何でも相談できるといいですね。私も患者様に対して、TLCを心がけて日々の診療に臨んでいます。

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