胚移植をくり返してもなかなか妊娠しない原因の一つ、染色体の数の異常。PGT-A(着床前染色体異数性検査)を考えるときに知っておきたいクリニックや刺激法の選び方について、山下レディースクリニックの山下正紀先生に伺いました。
<体外受精の治療歴>
①クリニック(38歳)
採卵1回 19個採卵→10個凍結(初期胚4個、胚盤胞6個)
刺激法はゴナールF150mlを毎日注射。
移植はホルモン補充周期、自然周期どちらも試みました。
②クリニック(39歳)
採卵1回 12個採卵→6個凍結(初期胚1個、胚盤胞5個)
刺激法はPPOS法(ゴナールF150mlを1日おきに注射)
染色体の「数の異常」で起きる反復不成功
―胚移植7回されています。なぜ着床しないのでしょうか?
YuuriさんはAMHの値が高く、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の可能性は否定できませんが、年齢のわりには5AAのグレードの高い胚をはじめ、良好な胚がたくさん採れています。また、ERA・EMMA・ALICE検査、Th1/Th2検査など、ほとんどの検査もされています。これだけ良い条件が揃っているのに、なぜ着床しないのだろうと私も思いますね。
まず考えられるのは、染色体の数の異常です。これまでの胚移植の経過のなかで、1回はうっすら陽性反応が出たとのこと。これが化学流産だったとしても、良好胚のほとんどは正常胚(正倍数胚)でなかったのかもしれません。PGT-A(着床前染色体異数性検査)も選択肢の一つになると思います。
ARTを支える技術の差が結果に影響する
―ほかに考えられることはありますか?
もう一つは、ART(体外受精・顕微授精)を支える医療者側の問題が考えられます。ARTにおける妊娠の成功には、
(1)卵巣刺激、採卵、胚移植などを高いレベルで行える臨床力。
(2)胚培養士の技術力やラボワークが高い水準で維持されている培養室の総合力。
この二点が鍵になると思います。臨床力の中では特に胚移植が大変重要です。
その方の人生にかかわる胚移植は、私たち医師がもっとも緊張する瞬間です。ですが、このときに子宮頸管の形状によって移植チューブを通しやすいこともあれば、なかには曲がったり、ねじれたりして移植チューブが通りにくいこともあります。こういったことが胚移植に少なからず影響していることも考えられます。
とくに難易度が高い胚移植では、医療者の技術や経験が不足していると、良好胚であっても胚移植に失敗したり、着床に至らないなど、結果に差が出ることはもちろんあると思います。ただ、医療者の技術力を数値などで客観的に評価することはできないので、胚移植の得意な先生を探すのは現実的にむずかしいでしょう。
PGT-Aの認可施設でのみ受けることが可能
―PGT-Aを希望する場合のクリニックや刺激法の選び方について教えてください。
Yuuriさんは現在40歳で治療の時間が限られていますし、この年齢の方の正常胚の確率は高くありません。PGT-Aで妊娠率を高める胚を選択することは、とても意味があると思います。
PGT-Aは特別臨床研究として、(1)2回以上の胚移植で妊娠が成立しない方(2)過去に2回以上流産された方が研究対象になります。当院もその一つですが、日本産科婦人科学会から承認された施設でのみ受けることができます。また、原則として保険診療と自費診療を組み合わせて行う混合診療が認められていないため、PGT−Aを行う場合は、すべての治療費が自己負担になるなど高いハードルもあります。
PGT-Aを希望される場合は、クリニックを選ぶときにPGT-Aの臨床研究認定施設かどうかをまず確認しましょう。さらにPGT-Aは胚盤胞に育った受精卵の細胞の一部を採取し、染色体の数を調べる検査です。1周期に1個の卵子を採る自然周期よりも、これまでと同じ高刺激法でたくさんの数の卵子を採り、胚盤胞に育てるほうが有利だと思います。