排卵したと言われましたが、体温は低いままです。本当に排卵していますか?
一般不妊治療において、排卵の確実な判定は難しいといわれています。排卵確認があったのに体温が上がら
ない場合、排卵の有無をどうとらえたらいいのでしょうか。また、肥満型の多囊胞性卵巣の場合、どのよう
な形で治療を進めていったらよいのか、ファティリティクリニック東京の小田原靖先生にお話を伺いました。
ファティリティクリニック東京 小田原 靖 先生 東京慈恵会医科大学卒業、同大学院修了。1987年、オーストラリア・ロイヤルウイメンズホスピタルに留学し、チーム医療などを学ぶ。東京慈恵会医科大学産婦人科助手、スズキ病院科長を経て、1996年恵比寿に開院。
こまさん(33 歳)からの相談 初潮を迎えてからずっと生理不順で、20 代半ばで多囊胞性卵巣の診断を受けていましたが、4年前に自然妊娠・出産できました。現在2人目を希望していますが、生理周期が33 ~ 72 日と安定しないため通院し、クロミッドⓇとHCG 注射をしています。「排卵している」と言われますが、基礎体温は低温期のままで注射してから1週間後にデュファストンⓇを処方されます。HCG注射後は36 時間以内に排卵するとのことですが、これは排卵できていない?排卵できていたとしても1週間後からのデュファストンⓇの効果は期待できるのでしょうか。
目次
こまさんは20代で多囊胞性卵巣と診断されたようですが、相談内容を見て何か気になることはありますか。
小田原先生●こまさんは身長165cmで体重が81kg以上ということ。多囊胞性卵巣というのはインスリンというホルモンが卵巣の中で代謝異常を起こしている、いわゆる糖尿病的な要素をもっていることが知られています。
日本人の場合、痩せ型の多囊胞性卵巣が多い印象を受けますが、こまさんは体重増加を伴ったインスリン抵抗性タイプの多囊胞性卵巣である可能性が高いと考えられますね。そうなると糖尿病的なアプローチ、たとえば体重のコントロールや糖尿病治療薬を内服するなどの対応が有効になってくると思います。
現在、クロミッドⓇとHCG注射で治療をされているようですが、「排卵できていないのでは?」と心配されているようです。
小田原先生●多嚢胞性卵巣の場合、クロミッドⓇの使用は第一選択になると思います。HCG注射については、通常使用量である5000単位を使えば足りないということはないので、それで卵胞が熟しているのであれば排卵を期待できるのかなと思います。
こまさんの悩みは「排卵をしているといわれているが、体温が上がりにくい」ということ。普段から基礎体温をつけており、排卵するときちんと低温期・高温期の2相性になっているということであれば、やはり今回はうまく排卵に至っていないのかもしれません。
また、もともと体温が上がりにくいという場合も。黄体ホルモンが増えることにより体温中枢のスイッチが入り、体温が上がるのですが、排卵をしてもそのスイッチがうまく入らず、体温が上がりにくいという人もいます。こまさんの基礎体温は、普段どのようなパターンなのでしょうか。
排卵したかどうか、確実に確認することはできるのでしょうか。
小田原先生●体外受精だと、卵胞が成熟しているかどうかは血中のホルモン値などで確認しながら進められるので、ほぼ確実に排卵させたり、採卵することができるのですが、一般不妊治療のなかで排卵の状態を細かく診ていくのはなかなか難しいこと。そうなると、卵胞の大きさで判断せざるを得ないというケースが出てきてしまいます。
多囊胞性卵巣の場合、卵胞が成熟しにくいので、ある程度卵胞を大きくしてからHCGを投与するので、排卵が起こりやすい状況になることは確かだと思います。当院が考えている卵胞の大きさの基準は20mm以上。20~22mmくらいであれば、比較的安定した排卵が起こるのではないかと判断しています。
デュファストンⓇの効果についてはどう思われますか。
小田原先生●デュファストンⓇは黄体ホルモン薬。なぜこのお薬を処方するのかということですが、受精卵は排卵から5日後くらいで着床するので、その時期に向けて着床環境を整えるという考え方が一般的だからです。そうであれば、排卵を確認した直後から黄体ホルモン薬を使っていくほうがメリットはあると思います。
こまさんも、排卵確認後すぐにデュファストンⓇを処方されたということでしたら、ある程度効果は望めるのではないでしょうか。
小田原先生だったら、今後どのような治療方針を立てますか。
小田原先生●こまさんは一度出産をされています。33歳で適切な排卵があれば半年以内には妊娠が成立するはずなので、まずはご自身での排卵にトライしていく。
そのために一番にやっていただきたいのは体重のコントロール、つまり減量です。インスリンの代謝異常による多囊胞性卵巣は肥満により悪くなり、減量することで良くなりますので、まずはダイエットをこころがけてください。標準体重に戻しただけで排卵障害が改善される方も多くいらっしゃいます。
お薬についてはクロミッドⓇに加え、糖尿病治療薬のメトホルミンを併用されるといいでしょう。クロミッドⓇの使用は引き続きおすすめしますが、このお薬は3、4周期くらい使うと子宮内膜が薄くなったり、頸管粘液が減ってしまう副作用が出ることがあるので、その場合は抗エストロゲン作用の少ないレトロゾールなど、ほかのお薬に切り替えるという選択肢もあります。