凍結胚盤胞の数の増やし方と移植のタイミングの決め方

顕微授精で治療中のゆたさん。体外受精から2度目の顕微授精でなかなか胚盤胞まで育たず…。何か良い改善法がないか、絹谷産婦人科の岡野真一郎先生に伺いました。

岡野 真一郎 先生 (絹谷産婦人科 副院長)川崎医科大学卒業後、広島大学医学部医局、広島市立安佐市民病院産婦人科、土谷総合病院産婦人科、公立みつぎ総合病院産婦人科、呉共済病院産婦人科、中国労災病院産婦人科医長を経て、2007年より現職。日本生殖医学会認定 生殖医療専門医、日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医。
相談者/ゆたさん(31歳)最初の体外受精(アンタゴニスト法)では9個採卵、そのうち成熟卵5個で受精したのが2個のみ。さらに凍結できたのは3ACの胚盤胞1つのみでした。2度目は顕微授精(ショート法)で11個採卵、そのうち成熟卵は9個、受精したのは7個、凍結できたのは4ABの胚盤胞1つのみでした。やはり胚盤胞まで育つのが少ないです。どうにか改善できないでしょうか。また移植日の決め方ですが、移植周期のD15で子宮内膜をチェックし、D19または20(黄体補充から5または6日目)です。血液検査でホルモン値などチェックしていないのですが、大丈夫でしょうか?

胚盤胞まで育つ胚が少ない理由について先生のお考えを聞かせてください。

胚がなかなか育たないことに関しては、どこのクリニックでも悩んでいらっしゃることかと思います。31歳と比較的お若い方だと思います。通常、胚盤胞の発生率は当院ではだいたい50%ほど。かなり低いとなれば、なんらかの原因があると考えられます。これといった原因の特定は難しいのですが、最近、男性側の因子つまり精子のDNAの変性や異常が多いと受精はするのだけど、胚盤胞まで発生しにくい事例が報告されています。通常の精液検査ではわからないため、一見、精液検査が正常でもDNAに異常があると、受精後に発育が止まってしまいます。これが胚盤胞まで育たない一つの原因とも言われています。また、囲卵腔(透明帯と卵細胞質の間隙)の異常で胚の発育が妨げられる可能性があるのではとの研究も報告されています。

胚盤胞の数を増やすためにはどのような方法があると思われますか?

当院の場合、なかなか胚盤胞ができなかった患者さんへは、次回の排卵誘発方法を変えたり、採卵のタイミングを変えたりしています。ゆたさんの場合、成熟卵は取れているようですが、未熟気味だったりすることもあるかもしれません。また、最近ヒアルロン酸を含有した培養液を用い、精子を選別する方法(PICSI)にも注目しており、現在データの収集中です。囲卵腔の異常に対しては、受精後に透明帯を除去することにより、胚盤胞発生率が上昇するとの報告がなされ、現在その確認のための多施設共同研究が開始されています。培養環境がしっかりしていることも重要と思います。

 

移植日の決め方について教えてください。

ホルモン補充周期と自然周期によって異なるのですが、ゆたさんの場合は15日目ということなので自然周期なのかもしれません。

当院ではホルモン補充周期を2回やってだめだった場合、自然周期にしたり、その逆もあります。採血は、自然周期の場合に、排卵がきちんと起こったかどうか確認するために実施することはありますが、基本的には行っていません。hCGを投与して排卵を確定させるなど、施設によって方法は異なると思いますので、現在通院中の病院の治療成績が良いのであれば方法に問題はないと思われます。

ちなみにホルモン補充周期は治療が始まると移植日はほぼ決まり、スケジュールが立てやすいのが利点です。周期がご自身の排卵やホルモン値の上下に影響されないので、治療効果が安定しています。一方、自然周期だと私の場合は、排卵を確実に確認してから胚盤胞だと5日後に移植します。排卵日を確認しないといけないので、2~3日続けて診察に来ていただくこともあります。自然周期は薬をほとんど使用しないので、副作用が起こりにくいといった利点があります。

 

最後に、今後の治療のアドバイスがあればお願いします。

精子の詳細な検査をして、もしDNAに異常が見られたとしても改善が難しいのが現状です。そのため、アドバイスするのであればサプリメントなどを活用して体調を整えるといったことでしょうか。

当院であれば、胚盤胞移植だけでなく、初期胚移植や2段階胚移植といったバリエーションも考えます。ゆたさんの場合、胚盤胞までうまく育つことができれば、内膜の着床能や慢性子宮内膜炎の有無を確認する検査などをして、確実性を高めていくといったことでしょうか。

周期や体調によって変わることもあり、年齢もまだ若く、10個前後採卵できていますので、できる範囲で方法を変えるなど担当医と相談しながら治療を進められてはいかがでしょう。

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