不妊治療を行う際、個々の症状や治療過程によってさまざまな目的のホルモン剤が処方されます。それらの薬にはどんな種類があり、どのような効果や副作用があるのか、「いくたウィメンズクリニック」の生田克夫先生にお答えいただきました。
知っておきたい、主な製剤と特色
排卵を起こす薬は2種類あり、一つが「クロミッドⓇ」で、ポピュラーなものです。抗エストロゲン作用で女性ホルモンが流れていないように見せかけ、その情報が脳の生理中枢に伝わり、生理中枢からの刺激を強くし、それによって下垂体から出る卵胞刺激ホルモンの量を増やす強い刺激が排卵を起こします。もう一方の「セキソビットⓇ」は、女性ホルモン作用が強く抗エストロゲン作用は弱いので排卵を起こす作用も弱いです。
排卵をコントロールするGnRHアンタゴニスト製剤は、投与すると視床下部から分泌されるGnRHの下垂体での作用をブロックして排卵を抑制します。「セトロタイドⓇ」と「ガニレストⓇ」の違いは作用時間。有効作用時間が過ぎると脳から排卵刺激が出てしまう可能性があるので、次の投与時間がずれても効果の長い後者が多少便利です。
子宮内膜を整えるエストラジオール製剤には、貼り薬や飲み薬などいろいろな種類があります。「エストラーナⓇ」や「ジュリナⓇ」のほか、安価な「プレマリンⓇ」もよく使われています。
黄体機能を整えるプロゲステロン製剤は腟坐薬で、成分を溶かしてある液状基剤が腟から出てくる場合があるので、就寝前でないと使いづらいかもしれません。純粋なプロゲステロンではなく少し形を変えたものや同じ作用をもつが違う構造をした「ルトラールⓇ」「デュファストンⓇ」などの経口薬もあります。
卵巣を休ませる薬は要するに排卵を止める薬で、昔は中用量ピルといわれていたものです。「プラノバールⓇ」が一番ポピュラーですが、同様の多くの製剤が出ています。
不妊治療でよく使われる薬
卵胞を育てたり排卵を促す薬
→ クロミフェン(クロミッドⓇ)
特徴
クロミフェンクエン酸塩を成分とする経口薬で、排卵がない場合、最初に処方される。脳下垂体に働きかけ、卵胞刺激ホルモン(FSH)や黄体化ホルモン(LH)の分泌を促進し、卵胞を成熟させて排卵を促す。同類薬のシクロフェニル(セキソビット®)よりも排卵誘発作用が強い。「クロミッド®」を服用しても妊娠に至らない場合、保険適用外となりますが血液中の女性ホルモン濃度を見せかけではなく実際にゼロにすることで排卵の刺激が強くなる、アロマターゼ阻害薬のレトロゾール(フェマーラ®)が処方されることもある。
適応ケース
排卵障害、クロミフェン療法によるタイミング療法や体外受精、軽度の多囊胞性卵巣症候群の治療など。
副作用
頸管粘液の減少、子宮内膜が薄くなる、顔のほてり、頭痛、まれにかすみ目などの視神経障害が出たり、多胎が起こることもある。
排卵をコントロールする薬
→ GnRHアンタゴニスト(ガニレストⓇ、セトロタイドⓇ)
特徴
早期排卵を防止する注射薬。体外受精の際、排卵誘発剤とあわせて使用されるのが一般的で、成熟した卵胞が採卵前に体内で排卵しないよう調整する。投与すると視床下部から分泌されるGnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)を下垂体手前でブロックし、下垂体から分泌されるLHの排卵刺激ホルモンを抑制する。「セトロタイド®」が約27時間、「ガニレスト®」が約30時間と作用時間が異なるだけで、ほぼ同等の効果をもつ。「セトロタイド®」には5日間ほど作用する3mgもあり(一般的には0.25mgを使用)、不妊治療では保険適用外となるが注射薬と同様の作用をもつ経口剤(レルミナ®)もある。
適応ケース
副作用
注射部分が赤くなったり、多少痛みが出る。
子宮内膜を整える薬
→ エストラジオール(エストラーナⓇ、ジュリナⓇ)
特徴
エストラジオールを成分とする製剤で、受精卵が着床しやすい状態になるよう、卵胞ホルモン(エストロゲン)を補充することによって子宮内膜を整える。下腹部や臀部に貼り、成分を皮膚から吸収させる貼り薬の「エストラーナ®」、飲み薬の「ジュリナ®」のほか、妊娠馬尿から抽出された卵胞ホルモン製剤の「プレマリン®」などがある。塗り薬は更年期障害などの治療で処方され、不妊治療ではあまり使用されない。
適応ケース
卵胞ホルモンの分泌が不足している場合。更年期障害や骨粗鬆症の治療。ホルモン調節周期での胚移植。
副作用
頭痛、吐き気、貼り薬は貼付部のかゆみやかぶれなど。長期使用する場合は、エストロゲン自体に発がん性があり子宮内膜などにがんを発生するケースがあるため、飲み終わる前にプロゲステロン製剤を飲むことで内膜をきれいに剥がす必要がある。
黄体機能を助ける薬
→ プロゲステロン(ルティナスⓇ、ウトロゲスタンⓇ、ワンクリノン®)、HCG
特徴
黄体ホルモン(プロゲステロン)を体外から補充することで子宮内膜の状態を整えて受精卵を着床しやすくし、妊娠を維持する。これらは純粋なプロゲステロン錠剤で経口では吸収率がよくないため、腟坐薬、ゲルという剤型になっている。注射剤のHCGは卵巣からのプロゲステロンを分泌させる働きがある。HCGは半減期が27〜28時間と長く、1回投与すると1週間は卵巣を刺激して卵巣からエストロゲンやプロゲステロンをしっかりと分泌させる作用があるが、痛いのが難点。このほか、「ルトラール®」「デュファストン®」「プロベラ®」などの経口薬もある。
適応ケース
黄体機能が低下している場合。体外受精の治療。
副作用
生理痛や月経前症状(PMS)が起こる。経口薬に比べると腟坐薬のほうが症状は少ない。
卵巣を休ませる薬
→ プラノバールⓇ、ルナベルⓇ
特徴
卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)を補充することで排卵を止め、無排卵状態をつくる経口薬。生理が始まってすぐ服用すると視床下部から出る信号を抑制し、卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体化ホルモン(LH)の分泌を抑えるため排卵が起こらなくなる。卵巣や子宮を一時的に休ませることで、排卵による卵巣の負担を軽減して次の周期の卵子の質を改善したり、卵巣機能が弱り高くなったFSHの数値を効率よく下げる作用がある。
適応ケース
月経困難症、月経周期異常(稀発月経、頻発月経)、子宮内膜症、卵巣機能不全。
副作用
悪心、胃痛、頭痛など。長期服用で血栓症が起きる場合も。