抗セントロメア抗体陽性で 多核受精ばかりに。どんな治療が効果的?
体外受精や顕微授精に進んでも、抗セントロメア抗体という抗体があるために受 精がうまくいかないという場合、どのように治療していけばいいのでしょうか。 浅田レディースクリニックの浅田義正先生に詳しいお話を伺いました。
ドクターアドバイス
- 抗セントロメア抗体は抗核抗体の一種。
- ステロイド剤を飲んでも効果はない。
- なるべく多くの卵子獲得を目指すこと。
kan さん(42 歳)からの相談 今までアンタゴニスト法で、体外受精 16 個→初期胚1個、PPOS 法で体外受精8個→0個、ロング法で体外受精4個→0個・顕微授精7個→1個初期胚で凍結の結果です。多核受精ばかりになっ てしまいます。既往に糖尿病があると、効果があまりないとのこ とで、プレドニンは使わないでとにかく採卵数を増やして、正常 受精する卵をつくる方法が妥当だといわれているのですが、本当 にそれしか方法がないのか不安です。
抗セントロメア抗体が陽性だと成熟卵・正常受精胚の獲得が顕著に減少
――抗セントロメア抗体とはどのようなものなのですか。
浅田先生●抗セントロメア抗体は抗核抗体の一つです。抗核抗体とは自己の細胞核を抗原とする抗体の総称であり、現在では50 種類以上あると知られています。この抗体は疾患特異性が高く、膠原病やリウマチなど自己免疫疾患の診断に利用されています。
当院では2014年から患者さん全員に抗核抗体の検査を実施。なぜかというと、kanさんのように多核受精を繰り返す症例に膠原病をもつ方が結構いらっしゃったんですね。
そこで、自己免疫疾患が関連していないかどうか、事前にスクリーニングするようにしたんです。
当院におけるデータ( 2014~2015年)を見ると、抗核抗体陽性者のうちの3%、全体としては0.9 % の方が抗セントロメア抗体をもっていることがわかりました。決して多くはありませんが、不妊要因の一つになっていることは間違いありません。
──この抗体があると、妊娠においてどのような影響が出てしまうのでしょうか。
浅田先生●抗セントロメア抗体が陽性の方は、 640倍以上など抗核抗体の抗体価が高い場合が多いのですが、抗体価が40 ~320倍までなら8割程度は正常受精、640倍になると正常受精率がぐっと下がって全体の3分の1程度。前核がつ以上の多核受精の割合が半分以上になってしまいます。さらに高い 1280倍となると、ほぼ100%異常受精という結果に。多核は通常でもできますが、抗核抗体があるとその形成率は少し上昇し、抗セントロメア抗体をもっていると非常に高くなってしまうということです。
当院では多前核の原因を明らかにするため、 採卵時に未熟卵のため受精操作をしなかった卵子を蛍光免疫染色という方法で解析。通常、卵子内の染色体はまとまって存在しているのに対して、抗セントロメア抗体をもっている方の卵子では染色体がうまくまとまらず、バラバラになってしまっていることがわかりました。なぜそうなってしまうのかはまだはっきりわかっていませんが、これが多前核形成の原因と考えています。
調節卵巣刺激でなるべく多くの成熟卵を採っていくことが妊娠への近道
――kanさんのような体質に合った治療はありますか。
浅田先生●抗核抗体陽性に加え、橋本病もおも ちだということ。橋本病というのは甲状腺に対する自己免疫疾患なので、もともと自己抗体ができやすい体質だと見受けられます。
昔は治療の選択肢がなかったので、このような抗体を抑えるにはプレドニンⓇなどのステロイド剤が良いだろうと考え、当院でも使っていた時期がありましたが、効果はまったくありませんでした。卵子は半年前から育って いるので、卵子の中に取り込まれた抗セントロメア抗体をステロイドで抑えようということには無理があるんですね。
このような方の場合、抗体自体をどうにか するという考え方ではなく、とにかく卵子をたくさん採り、抗セントロメア抗体があまり入り込んでいない卵子と巡り会う機会を増やすことが妊娠への近道だと思います。
AMHの数値が 2.86ng /ml ということですから、卵子は比較的採れる方なのでは。しかし、年齢が高くなると妊娠する確率は当然下がっていきます。 35歳くらいまでだと平均で卵子 15 個程度で一人の赤ちゃんが生まれる。42 歳となると 40 ~ 50 個くらい必要になってくるんですね。
正常・異常にかかわらず、これまで受精させることができていれば成熟卵にはなっているということ。それほど悪い状況ではないと 思うので、とにかく調節卵巣刺激で我慢強くなるべく多くの成熟卵を採っていく。その中 から正常受精卵を得ることができれば、年齢相応の妊娠率を得ることができるでしょう。