不妊治療歴10年。最後に治療をするならどんな方法がありますか?【医師監修】

10 年間の不妊治療、ご自身の高齢に加え、 ご主人の乏精子症にも悩み、最後にもう一度治療をしたい。 そんな場合、どんな治療法がベストなのでしょうか。 セントマザー産婦人科医院の田中先生に伺いました。

【医師監修】田中 温 先生 順天堂大学医学部卒業。越谷市立病院産科医長時代、診療 後ならという条件付きで不妊治療の研究を許される。度重な る研究と実験は毎日深夜にまで及び、1985 年、ついに日本 初のギフト法による男児が誕生。1990 年、セントマザー産 婦人科医院開院。日本受精着床学会副理事長。2009 年~ 2011年までJISARTの理事長に就任。老化卵子から細胞質 (核)を取り除き、若い卵子の細胞質と入れ替える「細胞質置換」 の研究・実験に取り組んでいる。「不妊患者さんの高齢化が進 むなか、新たな技術として検討され始めています」。

ドクターアドバイス

◎ 実年齢と卵巣年齢は異なる場合がある
◎ 卵管に勝る培養環境はない
◎ 卵管内移植法を視野に入れて
※調節卵巣刺激法:体外受精を目的に卵巣から卵子を採卵するため、ホルモン剤を多めに使って排卵を誘発する方法。ロング法とショート法、アンタゴニスト法がある。
奈々さん(47歳)Q.10 年前から不妊治療をしています。私の高齢、主人の乏精子症が悪化 し、顕微授精しか方法がありません。採卵は自然周期で、胚盤胞になら ず、移植さえできません。刺激法で卵子を少し多めに採る方法を希望し ていますが、年齢的に自然周期しか行ってもらえません。最後にもう一度 治療したいのです。どんな方法がいいか教えていただけますか?

奈々さん のデータ

■検査・治療歴

子宮卵管造影検査…異常なし。 リンパ球輸血…変化なし。 採卵8回。受精卵、合計6個。着床なし。

■不妊の原因となる病名

子宮筋腫子宮腺筋症、乏精子症。

■現在の治療方針

昨年4月から治療していません。 最後は、自然周期で卵子2個採卵。受精卵1個。 胚盤胞に至らず移植せず。

卵巣年齢と実年齢

奈々さんは、最後にもう一度治療をしたいと望んでいます。
田中先生  10 年もの間、不妊治療を続けてきたということ。
そして、 40歳になるまでに妊娠できなかったという事実の背景には、いろいろな問題があると考えられます。
そのなかで最も有力な可能性として、奈々さんの卵巣年齢が実年齢よりも高かったのではないか、ということが考えられます。
日本では過去に 50 歳の女性が妊娠・出産したという例がありますが、これは確率からすると非常にレアなケースです。
私がこれまでに診た患者さんのなかにも 48 歳での成功例がありますが、ここ数年では45 歳以上の方の成功例はまったくありません。
年齢には実年齢と卵巣年齢があって、 40 代後半で成功した方は、総じて卵巣年齢が実年齢よりも若いのです。
奈々さんの相談内容には若い頃のことが書かれていないので確実ではありませんが、卵巣年齢が実年齢相応、もしくは高かったことが原因となり、結果としてずっと不妊治療をし続けてきたと考えられるのではないでしょうか。

卵巣機能と染色体異常

卵巣年齢が高いと、具体的にはどのような問題がありますか?
田中先生 卵巣年齢が高ければ当然、卵巣機能が低下しているといえます。
そのような方が実年齢で高齢化した場合、せっかく卵子が採れても受精率は極端に下がります。
そして、仮に妊娠に至っても流産率が高くなるという問題点があります。
流産の症例を調べてみると、ほとんどの場合が染色体異常を起こしていることが原因です。
正常な細胞分裂では染色体が倍加して均等に分かれていきます。
しかし、細胞分裂の機能低下によって均等に分かれることができず、数の異常を引き起こしてしまうのです。
卵巣機能が低下している方の実年齢が高齢化した場合、欧米では卵子提供という選択肢があります。
しかし、現段階の日本ではまだ認められていないため、これと決めた治療法をくり返すしか方法がありません。
また、卵子が1〜2個採れるからこそ、どのタイミングで、どのように考え方を変えていけばいいのかがわからなくなってしまい、長く不妊治療を続けることになったのかもしれません。

顕微授精なら運動率は不要

奈々さんは刺激法を希望されていますが、年齢的に自然周期しか方法はないのでしょうか。また、ほとんど動いていないと書かれている精子についても教えてください。
田中先生 精子については、ほとんど動いていないといっても運動率18 %は問題ない数値です。
しかも、顕微授精なら卵子に精子を直接注入するわけですから、動いている必要はまったくありません。
とにかく、質のいい卵子をどう採るかが問題になるわけですが、年齢を考えると、調節卵巣刺激法をしても結果は今とさほど変わらないと考えられます。
とはいえ、これまでに調節卵巣刺激法を試したことがない場合は、卵巣年齢を調べる抗ミュラー管ホルモンの測定をして、月経初期の卵巣内に胞状卵胞が2〜3個あることが確認できたうえでなら、試してみるのも、選択肢の1つにはなります。

卵管内移植法という選択肢

「最後にもう一度」という思いはとても切実だと思います。先生なら、どの方法を最後の治療にするのがいいと考えられますか?
田中先生 体外受精や顕微授精では受精卵を子宮内に戻しますが、本来、精子と卵子は卵管で出会います。
その自然の原理からすれば、卵管内は受精するために最も優れた培養環境だということがわかります。
ですから私なら、迷わず卵管内移植法をおすすめします。
卵管内移植法には、卵子と精子を採取した当日に卵管内に戻すGIFT法と、翌日に受精を確認してから卵管内に戻すZIFT法、翌々日に戻すEIFT法があります。
今回のようなケースの患者さんの体外受精の成功率は1〜2%ですが、卵管内移植法なら 10 %を超えることが証明されています。
最後に1つ治療をして終わりにしよう、という段階なのでしたら、卵管内移植法が最善の方法だと思います。
ただし、腹腔鏡手術になりますから、その設備・技術のある病院を選ぶ必要があります。

加齢と併せて早めの選択

40 代後半の不妊治療について、アドバイスをお願いします。
田中先生 今後、奈々さんのような患者さんはさらに増えると思います。
当院を受診している患者さんも平均年齢は 39 歳で、ほとんどが 40 代です。
20 代や 30 代前半なら半年を目安に治療のステップアップを行うような時間的余裕がありますが、年齢が高くなるほど時間は限られます。
40 歳を過ぎたら、体外受精を3回ほど行い、結果が得られなければ最後の治療法として卵管内移植法を検討していただきたいですね。
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