染色体異常について知ろう

着床前診断を受ける条件が拡大され希望する患者さんは以前よりスムーズに検査を受けられるように。詳細な染色体の情報がわかるこの検査のメリット・デメリット、染色体異常とはどのようなものなのか、セントマザー産婦人科医院の田中温先生に聞きしました。

田中 温 先生(セントマザー産婦人科医院)順天堂大学医学部卒業。越谷市立病院産科医長時代、診療後ならという条件付きで不妊治療の研究を許される。度重なる研究と実験は毎日深夜にまで及び、1985年、ついに日本初のギフト法による男児が誕生。1990年、セントマザー産婦人科医院開院。日本受精着床学会副理事長。順天堂大学医学部客員教授。

ドクターアドバイス

流産の原因のトップは「原因不明」です

染色体数異常の種類で異なる着床前診断の種類

私たち人間の細胞は22対44本の常染色体と1対2本の性染色体(X、Y)でできています。男性は22対の常染色体とX、Yの性染色体(46、XY)、女性は22対の常染色体と2本のX性染色体(46、XX)となります。

今回のテーマである染色体異常は数的異常と構造異常の2つに大別されます。数的異常の代表的なものは本来2本のペアである相同染色体が1本多い3本になるトリソミー(21番染色体が1本多いダウン症候群が代表的)と、1本しかないモノソミー、各染色体が3本あって全体で69本になる3倍体など。性染色体異常は、男性ならXが1本多いクラインフェルター症候群、女性ならXが1本少ないターナー症候群があげられます。検査は着床前胚染色体異数性検査(PGTーA)を行います。

構造異常は染色体の構造が変化したものです。染色体の一部が切れ、他の染色体に結合する転座には均衡型と不均衡型があり、夫婦どちらかが均衡型転座の保因者の場合、3回以上流産を繰り返す習慣流産が多くみられます。検査は従来の着床前診断であるPGTーSRを行います。

検査で正常と診断されても流産する可能性が

染色体異常は高齢による卵子の老化が原因の場合が多く、老化卵子による胎児の染色体異常は流産の原因としても最多。欧米諸国では採卵時に移植したいから、たくさんあるなかから良好な胚を選びたいというのが検査の目的ですが、日本の体外受精では女性が40歳以上の患者さんが多いため、高齢による習慣流産を防ぎたいという考えが主になっているのが特徴です。

染色体異常の原因は卵子の老化によるものが多いのですが、流産の原因として一番多いのが染色体異常というわけではありません。実際、年齢の若い方でも流産することがありますし、夫婦どちらとも染色体異常がなくても流産する場合があります。

では、流産の原因としてもっとも多いのは何か。それは「原因不明」です。着床前診断で異常がない胚を移植したのに流産すると「なぜ?」と思われるでしょうが、それは染色体以外にも流産の原因があるからなのです。検査さえ受ければ確実というわけではなく、子宮の奇形など子宮そのものの物理的な障害や、自己免疫異常の一つである抗リン脂質抗体、甲状腺などの検査をしっかりと受ける必要があります。そして、その結果に異常があれば治療を、もし正常でも流産をしてしまうなら不育症を疑い、アスピリン・ヘパリン併用療法を試すという方法もあります。「検査すれば流産しない」と勘違いされている患者さんも多いので、検査しても流産することがあることを知っておいていただきたいですね。

検査は経済的負担が大きい。夫婦で考え、判断を

着床前診断でもっとも診断が難しい「モザイク」は、正常と異常の境の判断が難しく、何%までが正常なのか、何%から子どもに障害が出るかなど、現在までに全世界での統一見解がありません。そこで、日本産科婦人科学会(日産婦)では着床前診断で出たデータを蓄積して、最終的なガイドラインを決めることが急務であり、世界的にも共通の見解を検討中です。

現状の診断ではモザイクの割合を10%まで、11〜20%、21〜50%、51%以上の4段階に分け、20%までは正常とする、というのが一般的ですが、何%以上はNGというものはありません。なぜなら、モザイクがあっても正常に子どもが生まれるケースはありますし、モザイクでの流産は意外と少ないからです。一般的に思われているほどモザイクは怖くないというのが私の印象ですが、判断が難しいから少しでもモザイクがあれば、検査しても移植しない施設が多いのも現状。胚生検1個につき検査費用約4万円、胚生検の採取料約10万円。そして体外受精費用50万円がおおまかな金額ですが、検査に出して一つも戻せないとなると、患者さんは経済的な負担が大きくなりますよね。

今春より日産婦の認定施設では検査するための条件が緩和され、手続きも簡略化されるなど、受けたい人なら誰でも受けられるようにはなりましたが、流産の原因のトップは原因不明なため、「染色体が正常でも流産する場合がある」ということ、そして「検査は経済的負担が大きい」ということを理解したうえで、検査を受けるのか、ご夫婦でしっかりと考え、判断しましょう。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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