学校では教えてくれない! 精子のこと

不妊の原因のほとんどが女性にあると思っていませんか。まだまだ広く認知されていない男性不 妊ですが、実はデータによると不妊原因の約 24%、男女両方に原因がある場合を含めると約半 分にも及ぶことがわかりました。今回は、男性不妊の原因や対処法について、厚仁病院の松山先 生にお聞きしました。

厚仁病 生殖医療部門 先生 東海大学医学部卒業。小田原市立病院産婦人科医長、東海大学 付属大磯病院産婦人科勤務、永遠幸レディースクリニック副院長を 経て、1996 年厚仁病院産婦人科を開設。厚仁病院理事長。日本 産科婦人科学会専門医。日本生殖医学会生殖医療専門医。

当院では、初診の際には奥様お一人で来られることがほとんどですが、検査をするうちにご主人に不妊の原因が見つかることもあります。タイミング法に取り組む患者さんのヒューナーテストで、男性不妊が見つかることがあります。

ヒューナーテストとは、排卵日の直前の時期に性交していただき、その翌日の頸管粘液の中の精子の様子を調べるテストです。たとえば精子の数が多そうに見えても運動性が悪ければ卵管までうまく泳いでいけません。

ヒューナーテストの結果から精液検査、さらには抗精子抗体の検査を追加したほうがよいと判断することもあります。ヒューナーテストは男女にかかわらず不妊にまつわるさまざまな状況が見えてくる点で、私は非常に有効な検査だと考えています。精子の運動性が良くない場合は人工授精に進んだ方がいいと判断できます。また、抗精子抗体が陽性の場合は、自力での受精が困難だと思われるため、体外受精に進んだほうがよいと考えられます。

結果が悪い場合、婦人科医まず精液検査とホルモン検査を

当院では、ヒューナーテストの結果が良くない場合などは、精液検査と血液中のホルモン検査をお願いしております。精液検査では、精液量、精子濃度、運動率、精子の形態、感染の有無などをみていき、基準値と比べながら男性不妊の原因を探ります。ホルモン検査の結果から視床下部・下垂体・精巣機能を推定できることもあります。

具体的には、 FSH LH といった性腺刺激ホルモン、テストステロン、プロラクチンの項目です。結果が良くない場合は女性と同じくクロミフェン製剤の処方やFSH 製剤の注射を用いることもあります。男性も女性もホルモンは視床下部からの命令により働いていますので、検査も投薬も重なる部分がありますね。また、男性の場合は精索静脈瘤などが原因となることもあります。精索静脈瘤とは、精巣から心臓に戻る静脈の血液の流れがうっ滞して精巣周囲の静脈に瘤ができている状態です。手術の必要性がある場合もあり、当院でも泌尿器科の医師が手術を含めた治療をできる体制を整えています。精子の数や運動率が精索静脈瘤の手術前とそれほど変わらないのに体外受精の成績が上がった例も少なからずありますから、精索静脈瘤が見つかれば内服治療や手術などを考えたほうがよいと思います。

加齢に伴い精子にも問題が起こりやすくなる

これまで卵子や子宮の老化については言及されてきましたが、精子の老化についてはそれほど目を向けられなかったのではないでしょうか。元気に射精できれば何歳でも子づ   くりができると信じていませんか。精子が正常で元気であればいいのですが、実は男性でも35  歳を過ぎると精子の DNA に断片化がみられる、つまり DNA が壊れているケースが多くなります。精子の質が落ちる原因はいくつかあり、その一つが活性酸素の増加によって精子が酸化ストレスを受けやすくなることです。最近は精子の中のDNAの損傷の程度をみることができる「精子クロマチン構造検査(SCSA)」を行うことができるようになってきました。精子が酸化ストレスなどのダメージを受けることで損傷したDNAを持つ精子の割合(DNA断片化指数:D FI)が高いようであれば、その対策が必要なこともあるようです。

いい精子づくりのためには、十分な栄養と睡眠をとり、健康な体づくりを意識して活性酸素をなくす努力をしてください。ほかにも、窮屈な下着などで睾丸(精巣)を圧迫しないことや、下半身を温めすぎないことも大切です。奥様同様に、ご主人にも自己管理をしてほしいですね。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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