将来の妊娠に向けて、今からはじめる 「プレコンセプションケア」

近年、よく耳にする「プレコンセプションケア(妊娠前の健康管理)」。将来、元気な赤ちゃんを迎えるために、一人ひとりができることについて、足立病院の中山貴弘先生にお話を聞きました。

医療法人財団 足立病院 中山貴弘 先生
1985年愛媛大学医学部卒業。国立大阪病院(現・大阪医療センター)産婦人科勤務、 京都大学医学部産婦人科講師などを経て、2003年足立病院副院長・不妊治療センター長に。2010年同病院生殖医療センター長。

今の自分の状態と向き合う

「プレコンセプションケア」とは、妊娠前からの健康管理のことをいいます。これは将来の妊娠だけでなく、出産、赤ちゃんの発育、子育てにも大きく関わっています。不妊治療からお産までトータルにサポートしている当院では、この言葉が登場する前から妊娠前の健康管理の重要性を実感し取り組んできました。

妊活を始めた人のなかには、甲状腺機能低下症や糖尿病、その他の内科合併症、うつや不安神経症などの精神疾患など、思わぬ病気が見つかることがあります。これまで女性は妊活をきっかけに自分の健康と向き合うことがほとんどでした。しかし、できるだけ早い時期よりプレコンセプションケアを意識し、今の自分の状態を知ることは、将来の健康を考える良い機会になると思います。

足し算でなく、引き算で考える

はじめに、次の項目にどれだけ当てはまるかチェックしてみましょう。

✅ ストレスを感じている
✅ 手足の冷えを感じる
✅ 食事(間食)の回数が多い
✅ お酒をよく飲む
✅ 運動習慣がほとんどない

妊活を始める時点で生活習慣が乱れている人をよく見かけます。一度身についた悪い生活習慣はなかなか元に戻りません。これを変えていくには、食事やサプリメントなど「何かを足す」のではなく、「マイナス要因を取り除く」ことから提案しています。

たとえば、今はほとんどの人が何らかのストレスを抱えています。その一つが夫婦間のコミュニケーションです。実際に妊活をきっかけに夫婦喧嘩が増えたり、ご主人が協力してくれないといった悩みや不安も少なくありません。妊活に協力的なご夫婦と、そうでないご夫婦では結果が大きく変わります。夫婦間の問題やストレスがある時は、一人で抱え込まず医師や看護師に相談し、カウンセリングを利用してみるのも一つです。

ストレスを軽減するもう一つの方法は運動です。体を動かすとネガティブなことを考えにくくなります。ストレスを感じたら体を動かすと良いでしょう。その一つとして、当院では10年前からHIIT(ヒット)トレーニングをお奨めしています。有酸素運動と無酸素運動を組み合わせて心拍数を上げる室内運動で、1日4〜5分行うだけで全身の血流を上げ、自律神経が整える効果があります。それによりミトコンドリア機能と糖代謝が改善し、卵子の質が改善します。HIIT はYouTubeなどで多数紹介され、お金がかかりません。慣れないうちは1日30秒でも良いので、できるところから始めて毎日の継続につなげていきましょう。

ストレスはメンタルだけの問題と思われがちですが、脳がストレスを感じると全身が緊張して血管が収縮します。すると末梢である手足に冷えを感じるように、同じく末梢である卵巣や子宮の血流も悪くなり、卵子の発育や子宮内膜の厚さに影響します。夫婦関係を良くし、運動により血流を良くすることは、薬を使わずにできる最高のプレコンセプションケアだと思います。

食べ方の工夫や選ぶ食材を変える

食事についてもマイナス要因を減らしていくのがポイントです。たとえば、食事の回数が多い人や食事時間が長い人は、インスリンの分泌回数や分泌量が増え、体への負担が大きくなります。とくに間食が多い人は、回数を減らすことから始めましょう。1回の食事時間は1時間以内が理想とされ、お酒を片手に何時間も食事をするのは良くありません。さらに近年、飲酒についても認知症との関連性や、精子へのリスクが明らかになっています。

食材を選ぶ時は、AGEs(老化を促進する物質)の代表格とされる揚げ物、ファストフードや小麦粉、白米、砂糖などの「白い食材」を控え、玄米、ライ麦パン、大麦パン、果物に代えると良いでしょう。さらにオメガ脂肪酸を含む青魚、ナッツ類、亜麻仁油、オリーブ油をしっかり摂ることをお奨めします。動物性タンパク質は、牛肉や豚肉よりも鶏肉、さらに青魚の比重を増やしましょう。なかでもサバ缶はオメガ脂肪酸も一緒に摂れる一押し食材です。

運動や食事に気をつけながら、さらにサプリメントで不足する栄養素を補うとさらに良いと思います。なかでも赤ちゃんの神経管閉鎖障害を予防する葉酸をはじめ、ビタミンB、ビタミンD、亜鉛などが一度に摂れるマルチビタミンがお奨めです。また、個人的には青魚に含まれるEPAにも注目しています。血流を促進する働きがあり、食材で十分に摂れてもいても、摂りすぎることはありません。卵巣や子宮内膜の問題の多くは血流不足ですので、抗リン脂質抗体、血液凝固因子異常による隠れ不育症や化学流産の予防にもつながります。

今から体に良い習慣を身につけておく

プレコンセプションケアは、健康の土台になっている、あらゆる「習慣化」を見直すきっかけになります。ダイエットがなかなか長続きしないように、人の体(脳)は習慣化していることから外れたことをするのが苦手です。ただ、悪い習慣から抜け出すのは難しい反面、この性質をうまく利用して良い習慣にすれば、あとは無意識に行動できるようになります。

この悪い習慣から良い習慣に移行する秘訣が、今あるマイナス要因を少しずつ取り除き、良い習慣を少しずつ取り入れていく方法です。たとえば、HIITにしても、いきなり1日4〜5分も行うと、その後が長続きしません。1日30秒行って、しんどいと思ったらそこでやめて、次の日はもう少し時間を伸ばしてみるなど、続けられる工夫をしていくことがポイントです。

プレコンセプションケアはいろんな面で自分を見直す機会です。このチャンスを将来の妊活やその後の健康に活かしてください。また、あわせて「妊活ドッグ」などを活用し、今の自分の卵巣や子宮の状態について知っておくと、将来の妊娠を具体的にイメージしやすくなると思います。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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