もっと知りたい基礎体温の重要性体のリズムに合わせて妊活を

基礎体温は、女性ホルモンや排卵の状態を知る大切なデータ。
妊活はもちろん、日頃の健康管理にもとても役立ちます。
基礎体温の重要性について、俵IVF クリニックの俵史子先生にお話を伺いました。

俵IVFクリニック 俵 史子 先生 2007年静岡市に開業。浜松医科大学に生殖周産期医学講座(寄附講座)を開設し、不妊治療後の妊娠・出産がより安全なものになるよう研究を行っている。また臨床教授、非常勤講師として将来の不妊治療医の育成にも従事。

基礎体温のデータで女性ホルモンと排卵がわかる

基礎体温とは、生命維持に必要な最小限のエネルギーしか消費していない安静状態にある時の体温を指します。つまり、眠っている時の体温なのですが、眠っている状態で自分の体温を測ることはできないので、朝目が覚めてすぐ、動かずにベッドに横になったまま、舌下に体温計を入れて測定します。細かなデータが必要なので、体温が0・00度単位でわかる婦人体温計を使います。
 健康な成人女性の基礎体温は、ホルモンバランスによって基礎体温の高い「高温期」と、低い「低温期」に分かれます。月経がはじまって「卵胞期」に入ると基礎体温は「低温期」になり、卵胞ホルモン・エストロゲンの分泌が高まります。同時に、卵胞刺激ホルモンの働きで卵胞が成熟します。その後、排卵する「排卵期」を経て「黄体期」に入ります。「黄体期」には受精卵が子宮内膜に着床しやすくなるようにするための黄体ホルモン・プロゲステロンが分泌されます。これが体温を上げる働きをして、基礎体温は高温期に入ります。そして妊娠が成立しないと、プロゲステロンの分泌が減り、体温が下がって月経が起こります。一カ月の基礎体温データを折れ線グラフにすると、通常、月経の開始から排卵日までは「低温期」、排卵日以降は「高温期」という二相に分かれます。

妊活のすべての段階で基礎体温のデータが役立つ

基礎体温を継続的に計測、記録する最大の目的は、女性ホルモンが正常に分泌されているか、きちんと排卵されているか、の二つを把握することです。これは妊娠を希望する、しないにかかわらず、すべての女性にとってとても重要なことです。特に排卵の有無は自覚症状がないため、「無排卵出血」に気づいていない方が意外と多いのです。

そして妊活中ならば、タイミング法から高度不妊治療まですべての治療段階で基礎体温のデータが役立ちます。タイミング法の段階ならば排卵の有無や黄体期の状況を確認できますし、IVFICSIなどの高度生殖医療ARTでは、治療前後の卵巣機能の回復具合を推測するために参考にすることがあります。

体のリズムを把握してPMS やメンタル不調を改善

最近は、PMS(月経前症候群)やメンタルの不調を訴える女性が増えていますが、基礎体温で自分の体のリズムを知り、女性ホルモンの動きとうまく付き合っていくことで、生活の質の向上にもつながります。たとえば、脂肪の燃焼率が高まる卵胞期にダイエットを始める、心身の不調が出やすい黄体期は無理に予定を入れずにのんびり過ごすなど、体のリズムに合わせて生活を調整できるからです。

また、基礎体温は年齢とも深くかかわっていることが、最近の研究で明らかになっています。米国産婦人科学会ACOG の機関誌に発表された論文によると、日本人女性31万人、600 万月経周期のビッグデータの解析から、平均月経周期は23歳で最も長く、45歳にかけて徐々に短くなっていることや、基礎体温の低温期の体温は年齢によらず一定であり、高温期の体温は年齢により変化し、30代が最も高いことが報告されています。

基礎体温には睡眠時間、睡眠環境、測定前日の生活環境、食事、アルコール、季節、空調などさまざまな因子が影響するといわれており、女性のライフスタイルと深く連動していると考えられます。ストレスの多い現代社会だからこそ、自分の体のリズムを正しく把握して、長期的な健康の維持に努めてほしいと思います。

神経質になりすぎず習慣づけることが大切

当院ではすべての患者様に基礎体温の計測、記録をお願いしています。受診するまで基礎体温を測ったことがないという方も意外と多く、生理不順や不妊の原因を発見するための第一ステップとして、初診時に基礎体温の重要性をお話しています。

測定の主なポイントは、できれば朝8時ぐらいまで、睡眠を4、5時間以上取った後で測ることができれば理想です。気温の上昇とともに基礎体温も上昇するので、起床時間が遅くなると基礎体温がガタガタしやすくなります。極端に寝不足の場合も体温が上がりやすくなります。とはいえ夜勤などで就寝や起床時間が不規則な方もいますし、週末など寝坊してしまうこともあるでしょう。1カ月のうち何回か測定を忘れてしまっても、前後のデータがあれば問題ありません。ただし、妊活中の方は排卵のころは意識してしっかりつけていただいたほうがいいです。大切なのは長く継続して測ること。患者様のデータを拝見しても、グラフが均一だったり、変化が大きかったりと個人差がありますが、長期的なデータは正しい診断、治療の重要なヒントになります。

最近は婦人体温計を使わなくても、眠っている間に自動的に温度リズムを計測してくれる便利なデバイスも登場しているようです。起きる前に計測できるというのは、今までになかった新しい発想で、忙しい人や、起き抜けにうっかり測定を忘れがちな人には頼もしい味方だと思いますし、測定の習慣づけにも効果的なのでは。自分の体のリズムを知り、妊活や健康維持に役立てるために、ぜひ今日から温度リズムの計測をおすすめします。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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