流産予防での柴苓湯服用について

Q 柴苓湯には体温を下げる 作用があるのですか?

中山毅先生 京都府立医科大学卒業。浜松医科大学医学部産婦人科学教室講 師、静岡県立大学客員教授。東洋医学専門医。産婦人科内視鏡 指導医。俵IVFクリニックでは毎週土曜日漢方外来、FT・腫瘍外来 を担当。「漢方を用いる時は正しい情報を得て、それを正しく理解す ることが大切。妊娠に行き着くまでのいろいろな悩みに丁寧にお答え していきたいと思います」。

ドクターアドバイス

●柴苓湯は特に免疫に問題がある習慣性流産の人などに用いる漢方薬。
●漢方薬には内臓など深部の体温を下げる作用はありません。
あいぽんさん(28歳)からの相談 Q.1年半の間に初期流産を2回経験。その後、不妊治療専 門病院に通い始め、流産原因を調べましたが、異常なし とのこと。そして、流産予防で柴苓湯を処方されました。 しかし、飲み始めた後の周期では子宮内膜や卵子の成長 が今までにないくらい遅くなり、基礎体温は上がらず、生 理も遅れ、月経血の量も少なかったんです。排卵はした ようですが、今までにないくらいの体の状態の悪さ……。 服用について疑問をもち始めました。たまたま行った漢 方薬局に相談したら、「柴苓湯は体温を下げることがあり、 飲んで基礎体温の状態が悪いなら体に合っていないので は」といわれました。柴苓湯は流産予防の変化球の治療 ともいわれ、今は服用を見合わせています。

紫苓湯とはどんな漢方薬なのですか。

中山先生 柴苓湯は2つの漢方が合わさったお薬。柴 さいこ 胡というストレスを緩和する作用をもつ生薬があるのですが、それから成る小柴胡湯と五 ごれいさん 苓散の合方になります。
どんな方に処方されますか。

中山先生 柴胡には炎症を落ち着かせるステロイド様の作用、五苓散にはむくみを取る作用があります。これらを合わせた柴苓湯の内服で免疫が調節されることを期待して、自己免疫疾患など特に免疫に問題があってなかなか妊娠できない方、妊娠しても流産してしまうような方に用いることがあります。

ステロイドというと少し怖いイメージを抱く方もいるかもしれませんが、柴苓湯はステロイドホルモンを直接分泌させるわけではなく、脳のレベルで調整することによって分泌を正しい方向へもってくのではないかと考えられています。

あくまでも「ステロイド様」の働きということで、ステロイド薬のようにムーンフェイスや肥満、ニキビなどの副作用が出ることはありません。

では、柴苓湯に関しては副作用を心配 する必要はありませんか?

中山先生 柴胡という生薬が入っている漢方薬は、まれに間質性肺炎を起こすことがあるという報告があります。症例としては非常に少ない。私は漢方医として20 年ほど患者さんを診ていますが、一度 も経験したことはありません。また、五苓散には利水作用があり、このお薬を服用すると尿量や排尿回数が増える方がいらっしゃいます。ただ利尿剤ではないので、体が脱水するまでどんどん尿を排出するわけではなく、水分が多い所は乾かして、乾いている所へは水分を与えてあげるような作用。心配される患者さんにはそのように説明しています。

体温を下げてしまう働きもあるので しょうか。

中山先生 柴苓湯には体温を下げたり、発汗させるなど、体温を調節する作用がある生薬は含まれていません。基本的に、深部の体温に影響する作用はどの漢方薬にもないのですね。葛根湯などは服用すると汗が出て体温が上がったり下がったりすることがありますが、それはあくまでも体表の温度。漢方薬を飲んで内臓の温度が下がることはないので、卵巣などに影響を与えることはありません。

柴苓湯が原因ではなく、もしかしたら流産が続いてしまったストレスが高じて不調を招いてしまったのでは?

漢方薬を含め、お薬を服用する時は医師の説明をしっかり聞き、安心した状態で飲むことが大切です。柴苓湯は不育症や習慣性流産の方だけでなく、多囊胞性卵巣症候群などがある不妊症の方にもおすすめのお薬。心配されることはないでしょう。

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