※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいているため、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。
ねずみさん、ご相談いただきありがとうございます。
良好胚盤胞を4回移植されても妊娠に至らず、
本当にお辛い思いをされてきたことと思います。
まずお伝えしたいのは、
ねずみさんには今後妊娠できる可能性を示す良い条件がいくつもあ
るということです。
ご年齢はまだお若く、
採卵では10個の卵子から8個の胚盤胞が凍結できており、
胚盤胞のグレードも良好です。また、
2回目の移植ではhCGが13まで上昇しており、
一度は着床した可能性があることを示しています。
つまり、「妊娠がまったく成立しない状態」ではなく、
継続的な妊娠につながるよう、
移植条件やねずみさんの体調を一つひとつ整えていく段階なのだと
考えます。
① 凍結胚を利用した治療の次のステップは何が良いでしょうか?
これまで4回とも自然周期で移植を行われているとのことですので、5回目の移植も同じ方法で行うのではなく、一度移植方法や着床環境を整理したうえで次の移植に進むことをおすすめします。
反復着床不全では、
• 胚の要因
• 子宮内膜・子宮環境の要因
• 全身状態の要因
の3つに分けて考えます。
ねずみさんの場合は、
グレードの高い良好胚盤胞が残っていることから、まずは「
移植条件」と「子宮内膜の状態」
が十分に整っているかを見直すことから始めてみてはいかがでしょ
うか。
月経不順がある場合には、
排卵のタイミングや黄体機能が周期ごとに異なるため、
毎回同じように着床しやすい条件が整うとは限りません。
特に自然周期では、
ご自身の排卵に合わせて移植日を決定するため、
子宮内膜が胚を受け入れる準備が整うタイミング(着床の窓)と、
胚移植のタイミングを一致させることが難しい場合があります。
そのため、ホルモン補充周期(
ホルモン剤のみで子宮内膜を整える方法)や、
modified自然周期(
自然排卵にホルモン補充を組み合わせる方法)へ変更することで、
より安定した条件で移植を行える可能性も考えられます。
② ERA検査以外で試すべき検査や治療方法はありますか?
これまで、
• 子宮鏡検査
• 子宮内フローラ検査
• CD138検査と慢性子宮内膜炎の治療
までしっかり行われており、とても丁寧に検査を進められている印象です。
そのうえで、今後は次の5つのポイントを見直してみるとよいと思います。
(1)慢性子宮内膜炎(CD138)が十分に改善しているか確認する
CD138は6個から3個に減少し、施設基準では陰性と判断されています。ただし、3個は完全にゼロではありません。反復着床不全が続く場合には、慢性子宮内膜炎が十分に改善しているかを再確認してみる価値があります。
(2)子宮内フローラを再評価する
前回の検査では、ラクトバチルスが0.1%と少なく、
Streptococcusが多い状態でした。
抗菌薬治療後に再検査を行っていない場合には、
ラクトバチルスが十分に回復しているかを確認しておくと安心です
。
必要に応じて乳酸菌製剤(内服や腟剤)を継続し、
子宮内環境を整えていくことも大切です。
(3)移植周期のタイミングと黄体補充を見直す
先ほどもお話ししましたが、4回とも自然周期で移植されているため、現在の移植方法がねずみさんに合っているかを、一度見直してみることをおすすめします。
移植前後にホルモン採血を行い、黄体ホルモン(プロゲステロン)が十分に分泌されているかを確認し、不足があれば黄体ホルモン製剤を追加することで、より良い着床環境を整えられる可能性があります。
ERA検査については、「すべての患者さんで妊娠率を向上させる」という十分なエビデンスはなく、積極的に実施していない施設もあります。
一方、診療をしていると、反復着床不全の患者さんの中で、移植至適時間が大きくずれている患者さんを経験することがあります。そのような場合には、ERA検査による評価が大変役立ちます。
ERA検査はすべての患者さんに必要な検査ではありませんが、必要性を慎重に判断して行った場合には有益性を認める検査だと考えています。
(4)全身状態を整える
甲状腺機能、ビタミンD、プロラクチン、貧血の有無などを確認し、全身の状態を整えておくことも妊娠に向けて大切です。
特にビタミンDは、子宮内膜の受容性や免疫調節にも関わることが分かっており、不足している場合にはサプリメントで補充することをおすすめします。
また、PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)の傾向がある場合には、血糖値の乱れがホルモンバランスや子宮内膜の状態に影響することがあります。
食事内容や食べる順番を工夫し、血糖値を安定させることが、着床しやすい環境づくりにつながる場合があります。
(5)胚側の評価としてPGT-Aを検討する
良好胚盤胞であっても、染色体の数がそろっていないことがあります。そのため、PGT-A(着床前遺伝学的検査)も選択肢の一つです。
ただし、ねずみさんのご年齢では胚の染色体異常率は比較的低いと考えられるため、優先順位は高くありません。
まずは移植方法や子宮内膜、全身状態を見直したうえで、それでも妊娠に至らないようであれば検討してみてもよいでしょう。
③ 子宮筋腫の影響はどの程度考慮すべきでしょうか?
通院先の先生がお話しされているように、子宮鏡検査で子宮内腔の変形がない筋腫は、着床への影響は比較的小さいと考えられています。
ただし、子宮内腔を変形させない筋腫でも、大きさや位置によっては妊娠率や出産率に影響するという報告があります。一般的には、4cm以上で子宮内膜に近い筋腫では影響が出やすいとされています。
ねずみさんの筋腫は約6.5cmと比較的大きいため、筋腫だけが原因とは言えませんが、着床を妨げる一因となっている可能性は考慮しておいた方がよいと考えます。
子宮内腔を変形させない筋腫でも、次のような変化が起こることがあります。
• 子宮の蠕動運動が増える
• 子宮収縮が強くなる
• 子宮蠕動運動の向きが変化する
• 子宮血流が低下する
そのため、必要に応じて、当帰芍薬散などの血流改善を目的とした漢方薬や、子宮収縮抑制剤などを併用することも選択肢の一つとなります。
④ 体外受精中に子宮筋腫を取るリスクとメリットを教えてください。
ねずみさんもご心配されているように、手術の要否については、メリットとリスクを比較しながら慎重に判断することが大切です。
子宮筋腫を摘出するメリットは、筋腫が着床を妨げている場合には妊娠しやすくなる可能性があることです。また、大きな筋腫では、骨盤内の圧迫感などの症状が改善することもあります。
一方で、手術後は子宮の回復を待つため、一般的に約6か月は移植を延期することになります。また、多くの場合、将来の分娩は帝王切開が勧められます。
さらに、子宮筋腫摘出術には次のようなリスクがあります。
• 術後癒着
• 子宮壁の瘢痕形成
• 子宮血流の低下
• 子宮内に組織液が溜まりやすくなる
• まれに妊娠中・分娩時の子宮破裂
そのため、まずは保存的に(手術を行わずに)着床しやすい環境をできる限り整え、それでも妊娠に至らない場合に手術を検討するという考え方をおすすめします。
ねずみさんの場合は、手術を検討する前に改善できる点がまだいくつかあるため、現時点では保存的治療を優先することをおすすめします。
また、月経困難症があることから、子宮腺筋症を合併していないか確認することも大切です。子宮腺筋症がある場合には、移植前に偽閉経療法を検討する場合があります。
⑤ 子宮鏡検査で内腔変形がない場合、他に考えられる着床障害の原因は何でしょうか?
これまでお伝えした内容と重なりますが、ねずみさんの場合には、次のような順番で原因を考えていくのがよいと思います。
(1)着床の窓(移植タイミング)のずれ
自然周期では排卵や黄体機能が毎回同じとは限りません。必要に応じて、ホルモン補充周期やmodified自然周期への変更も選択肢になります。
(2)黄体ホルモンやホルモン環境
黄体ホルモン不足やPCOSなどによるホルモン環境の乱れが、子宮内膜の成熟に影響を及ぼす可能性があります。
(3)子宮内フローラ・慢性子宮内膜炎
ラクトバチルスが十分に回復しているか、慢性子宮内膜炎が改善しているかを確認します。
(4)子宮筋腫による影響
筋腫によって子宮蠕動や子宮収縮が強くなっている場合には、子宮収縮抑制剤などが有効なことがあります。
(5)胚の染色体異常
良好胚盤胞でも染色体に異常を認める場合があります。ただし、ねずみさんのご年齢や良好胚盤胞が複数得られていることを考えるとまずは移植方法や子宮内環境の見直しを優先してよいと思います。
(6)免疫学的要因
Th1/Th2バランスやNK活性などが着床障害に関与する可能性が指摘されています。タクロリムスなどが有効な場合もありますが、現時点では一定の見解が得られていないため、他の原因を十分検討し必要性が高いと判断した場合に検査を行います。
⑥ その他、検査・治療データをみて気になることはありますか?
これまでの経過を拝見して気になった点は次のとおりです。
• 月経不順や強い月経痛があること
• PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)の傾向がないか確認したいこと
• 子宮筋腫や子宮腺筋症について、現在の状態を再評価したいこと
• 子宮内フローラや慢性子宮内膜炎が十分に改善しているか再確認したいこと
• 4回とも自然周期で同じ方法による移植が行われていること
• 一度hCGが13まで上昇しており、一度は着床した可能性があること
これらを踏まえると、まだ見直せる点は十分に残されていると感じました。
今後は、移植方法の見直し、子宮内膜やホルモン状態の再評価、子宮筋腫や子宮腺筋症の有無の確認、さらに栄養や生活習慣を含めた体質改善に取り組むことで、妊娠につながる可能性が高まると考えます。
最後にねずみさんのこれまでの経過を拝見すると、「妊娠できない」のではなく、妊娠まであと一歩のところまで来ていると感じます。
あと一歩、着床しやすい条件を整え、体質改善にも取り組むことが、妊娠の成立、そして母児ともに健康な妊娠・出産につながっていくと考えています。
当院では、治療だけでなく、栄養相談やカウンセリングにも力を入れています。一人で悩まず、いつでもお気軽にご相談ください。ねずみさんが一日も早くご妊娠され、元気な赤ちゃんを迎えられる日が訪れることを、心より願っています。