費用を考えると刺激法の選択に迷います

Q 2回の顕微授精で受精しません。 次の刺激法は何がいいですか?

田中宏明 先生 聖マリアンアンナ医科大学卒業。慶応義塾大学病院、東京歯科大学市川 総合病院リプロダクションセンター、海老名総合病院などで約25年間に わたり不妊と周産期医療に携わる。2018年、ノア・ウィメンズクリニック 院長に就任。一人ひとりの生き方に配慮した、オンリーワンの診療に努め る。医学博士(大阪医科大学)、日本産科婦人科学会認定専門医。

ドクターアドバイス

●3回目は成熟卵をたくさん採る刺激法がいいでしょう。
●男性不妊外来での検査と治療をして精子の状態を改善しましょう。
こあらさん(28歳)からの相談 Q.男性不妊のため2回顕微授精をして2回とも受精すらしませ んでした。初回は自然周期法で1個採卵しましたが未成熟卵。 2回目はクロミッド Ⓡを飲んで4個採卵。うち3個が未成熟卵 でした。卵子の質が悪いことも考えられるそうです。私は 26歳で生理周期は安定しておりAMH値13ng/ml、多囊 胞性卵巣症候群(PCOS)ではありません。夫は30歳で 総精子数160万/ml、運動率10%です。次回以降は高刺 激法でたくさんの数を採ったほうがいいのか、粘り強く低刺 激法を続けたほうがいいのかわかりません。正直金銭的に厳 しいです。移植に進むためのアドバイスをお願いします。

こあらさんが行った卵巣の刺激法につい て、先生はどうお考えですか?

田中先生 おそらく担当の先生は2つの理由から低刺激法を行ったと思います。 1つめはこあらさんが 28 歳と若く、卵巣 の働きを示す AMH(抗ミュラー管ホル モン)の値が 13ng/ ml と高いので、低刺 激法でもそれなりの数の成熟卵が採れる という判断だったのではないでしょうか。2つめはクリニックの方針で低刺激法しか行わないかです。

2回とも受精しなかったのは、卵子の質 に問題があると思われますか?

田中先生 いいえ、卵子の質というよりは採卵で未成熟卵の数が多いのが問題でしょ う。2回目の採卵で成熟卵が採れたのはたった1個。この数ではほかのクリニックが顕微授精を行っても受精卵になるのはなかなか難しい気がしますね。

ご主人の精子の状態はどうですか?

田中先生 総精子数 160 万/ ml ・運動 率 10 %という数値は、WHO の正常基準 値に比較すると極端に低く、よくないです ね。1500 万/ ml 以上・運動率 40 %以上 が正常値ですから。質問票に書かれていませんが、すでに泌尿器科など男性不妊外来 を受診しているかどうかが気になります。精子の状態が改善すれば体外受精にチャレンジすることも可能なので、しかるべき検査と診断を受けて適切な治療をしてほしいですね。

次の刺激法ですが、先生なら何をこあら さんに提案されますか?

田中先生 費用がご夫妻のご負担になっているとのことなので、低刺激法から高刺激法にガラリと変えて、成熟卵を確実にたくさん採るやり方に再チャレンジしてもらい ます。受精卵になるまで低刺激法で何度も採るやり方は、お金がかかって大変です。高刺激法のほうが費用を抑えられるかもし れません。AMH 値の高いこあらさんなら、成熟卵をたくさん採れる状態だと思います。薬の副作用で卵巣が腫れてお腹が張る卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の心配はありますが、それを少しでも回避するアンタゴニスト法などがあるのでリスクを軽減できるかもしれません。担当の先生に高刺激法を相談されるといいと思います。クリニックの方針が低刺激法なら転院を考えてもいいのではないでしょうか。

卵子の質についてなど精神的にまいって いるこあらさんに助言をお願いします。

田中先生 卵子の質については先にも説明したとおり心配ご無用です。極度に落ち込む必要はありません。私の考えを一つの参考にして、あらためて担当の先生に、ご自分からちゃんと確認しましょう。未成熟卵が多かった原因や費用の心配も伝えて、先生の回答に納得できるかどうか。それによって選ぶ治療がわかってくるはず です。シンプルなことですが、前向きな治療には大切な作業です。ご主人にも同席してもらって一緒に頑張ってください。
>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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