男性不妊の治療をするか? 体外受精か?

男性側に原因が 見つかったら?

男性側に不妊原因が見つかった場合、どのように治療を進めてい くのでしょうか?

男性側の不妊原因を治療する?

それとも体外受精に進むべき?

またこのようなケースでは、ご夫婦でどの ようにかかわっていくのがよいでしょうか。

レディースクリニッ ク北浜の奥裕嗣先生に教えていただきました。

奥 裕嗣 先生 1992 年愛知医科大学大学院修了。蒲郡市民病 院勤務の後、アメリカに留学。Diamond Institute for Infertility and Menopause にて体外受精、 顕微授精等、最先端の生殖医療技術を学ぶ。帰 国後、IVF 大阪クリニック勤務、IVF なんばクリニッ ク副院長を経て、2010 年レディースクリニック北 浜を開院。医学博士、日本産科婦人科学会専門 医、日本生殖医学会生殖医療専門医。

ドクターアドバイス

男性側の不妊原因のほとんどは 顕微授精による治療が可能です
おかじさん(33歳)からの相談 Q.5年前に1人目を出産、2年前に8週で流産。約1年前に1人目 の息子を病気で亡くし、現在は子どもがいません。最近、 不妊治療に通い始め、夫に不妊原因があるとわかりまし た。(精子運動率15%、正常形態率48%、総精子数1920万 個、精子濃度640万/ml、精液量3ml)。顕微授精をすすめ られ、濃縮人工授精を2回ほどした後、顕微授精を考えてい ます。しかし、ネットを見ると、男性不妊の原因の多くに 精索静脈瘤があり、これを手術すれば劇的に精子が改善す る人もいるとのこと。一方で手術の後遺症もあるようで、 夫に後遺症を残すのは嫌だと思う反面、最終手段の顕微授 精で子どもができなかった時の絶望感が怖くて迷っていま す。気持ちの片隅には自然妊娠を望んでいる自分もいま す。

精子濃度が基準値より 低いと体外受精の対象に

通常の男性の精液検査では精液量、 精子濃度、運動率、正常形態率を調べます。さらに当院では精子特性分析機を使い、精子が高速で直進する「高速前進運動濃度」や、運動精子濃度と運動スピードを考慮して数値化する「自動性指数(SMI)」を調べて受精能力を判定しています。
 質問者のおかじさんのご主人の精子濃度 (640 万/ ml )は、主治医の先生がおっしゃるとおり、早く顕微授精に進まれたほうがいい数値だと思います。精子濃度が1000 万/ ml 未満の方の人工授精の妊娠率は1%程度です。  この方は1人妊娠されていますので、 その時は精子の状態が正常だったのでしょう。それ以降に精子が少なくなっているので、1人目の時にはなかった原因が考えられます。

  一般的に精子数が少なかったり、運動性 が低い場合は、精索静脈瘤が原因になっていることがあります。精索静脈瘤は精巣にある静脈内の血流が逆流し、精巣の周りに静脈の瘤(こぶ)ができてしまう状態です。2人目不妊の方を調べると、約 40 %の確率で男性側の異常が見つかります。なかでも多いのが精索静脈瘤です。軽度の場合は、比較的簡単な外科手術で治療できますが、精巣機能が回復して健康な精子がつくれるまでには手術後3カ月かかります。

重度の場合は精子の状態がある程度改善できても、妊娠に必要なレベルに届かず、手術が有効でないこともあります。ご主人の精子の状態をみた限りでは、精索静脈瘤の手術をしても自然妊娠の可能性は少ないと思います。ただ、精子の状態は男性の毎日の体調によって大きく変化しますので、再検査されてみてもいいのかもしれません。

ご夫婦で医師の説明を受けて 治療について話し合いを

男性に原因が見つかった場合、「夫に伝えにくい…」と、パートナーへのかかわり方に悩まれる女性もいらっしゃいます。当院では、初診の時にご夫婦でお越しいただくことをすすめています。ご主人に精子検査の結果をお伝えする時は、精子特性分析機のモニターと電子カルテを連動し、電子カルテ上で実際の精子の動画を見ていただきながら説明を行っています。たとえば、精子に問題がある場合は、正常な精子のサンプル画像と、ご自身の精子の状態を比較すれば、その差は一目瞭然です。検査数値で示すよりも、視覚でとらえたほうがわかりやすいので、納得いただきやすいと感じています。治療に消極的な男性は多いですが、自分に原因があることを受け入れられると、治療に前向きにかかわることができるようになります。また、ご夫婦での受診がむずかしい場合も、精子検査の数値結果と精子の画像写真を一緒にお渡しします。奥様がご主人に直接伝えにくければ、医師や看護師が奥様に代わってお伝えすることもできます。

  また、検査の結果によっては、男性もス トレスとなることがあります。最近はカウンセリングを行っている施設も増えていますので、女性だけでなく、男性も積極的に利用してください。また、男性不妊外来を受診して原因を検索し、今後の治療法について医師とご夫婦で話し合いましょう。

男性の精子に問題がある受精障害は、重度の場合でも顕微授精で治療できることがほとんどです。おかじさんの場合は、女性側に問題がないとのことですので、顕微授精をすれば高い確率でお子さんを授かれる可能性があります。

精子濃度1000万/ml未満の方は顕微授精に

精子が少ない場合の治療基準は、精子濃度が2000万〜3000万/mlは人工授精、1000万/ml未 満は顕微授精となります。精子濃度が1000万/ml未満になると人工授精の妊娠率は1%程度で す。男性側の精子に問題がある受精障害は、重度の場合でも顕微授精でほぼ治療が可能ですの で、重度の乏精子症は早期の顕微授精をおすすめします。

男性不妊の原因で多いのが精索静脈瘤

2人目不妊では男性側に原因が見つかることが多く、そのなかでも約40%にみられるの が、精索の静脈に瘤(こぶ)ができる精索静脈瘤です。触診や超音波検査で静脈の血流を 確認し診断します。軽度であれば局部麻酔による外科手術で治療が可能です。重度の場合 は手術での回復の見込みが低いため、顕微授精が検討されます。

男性も自分の精子の状態を確認して

当院では、精子検査の結果を精子の状態がわかる動画などでわかりやすくご説明しています。 初診外来はできるだけご夫婦で参加し、男性もご自分の精子の状態を確認してください。その 結果によっては、男性不妊外来で詳しく原因を調べたり、カウンセリングの利用などをおすす めします。今後の治療法について医師を含め、ご夫婦で一緒に話し合いましょう。
>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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