Q 培養液が合わなくて 受精卵が変性することはある?

神谷 博文 先生 札幌医科大学卒業。同大学産婦人科学講座、第一病理学講座に 入局後、斗南病院にて産婦人科科長を10 年間務める。1998 年、 神谷レディースクリニックを開業。
みなさん(32歳)からの相談 Q.これまでに2度採卵を経験。1度目は13個中10個が受 精卵になりましたが、胚盤胞まで育ったのは1つでした。O HSSになったため、凍結卵を次周期に移植予定でしたが、 解凍時に受精卵が変性してしまいました。2度目は10 個 中10個が受精卵になり、新鮮胚移植をするも陰性。胚盤 胞まで育った2つの受精卵は解凍時に変性しました。私た ちの受精卵に問題はなく、培養液が合わなかったのではな いかというのが医師の所見です。そのため、次回は採卵か ら胚盤胞まで培養液を変えない方法を検討するとのことで す。通院先が私の採卵2カ月後に採卵にかかわる診療を終 了する予定で、すぐに採卵周期に向けての治療が始まりま す。正直、また受精卵が変性するのではと不安です。

二度の採卵で、受精卵はそれぞれ 10 個でき たものの、胚盤胞まで育ったのは1〜2個 とのこと。

これは少ないのでしょうか?
神谷先生 一般的には受精卵の 40 〜 50 %が 胚盤胞になります。みなさんの場合、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)になっているので卵巣の反応性はよいといえます。採卵数も十分。
しかし、 10 個のうち胚盤胞に到達す るのが1〜2個というのはやや少ないですね。胚盤胞にならない要因として考えられ るのは卵子の質。誘発方法や年齢、体質が卵子の質に影響します。受精卵の分割障害は初期胚までは卵子の質、それ以降は精子の問題によって不良胚になるともいわれています。卵割異常や胚の発育障害は精子の質・精子中心体の異常でも起こり男性因子も考えられます。

移植予定の凍結卵が、解凍時に変性していま すが、どのような原因がありますか?

神谷先生 以前は受精卵を凍結する際、細胞内に氷晶(氷の結晶)ができて細胞にダメージを与えることがありました。今主流の「超急速ガラス化法」は細胞内に耐凍剤を浸透させて脱水し、ガラス化した状態で保存する方法。細胞内に氷晶ができないためダメージを起こす危険性がなくなりました。ガラ ス化法の場合、解凍ではなく、耐凍剤を細胞内から段階的に除去していく「融解(ワーミング)」を行います。融解の段階で胚が変性することがありますが、その割合は低く、当院では1%以下です。
  まれに変性を起こす原因は二つ。胚盤胞の グレードが低く凍結に耐えられないケース。
これは各クリニックで設けている凍結基準を守ることが大切です。そして、胚盤胞の体 積が大きいため細胞質内の脱水が不完全で十分にガラス化しなかったケース。これには、 胚盤胞を収縮させたり、胚盤胞になる手前のD4で凍結するなどの方法があります。

培養液が合わなかったことに変性の原因が あるとは考えられますか?

神谷先生 ケースとしては少ないと思います。みなさんの主治医は初期胚と後期胚で培養液を替えるシークエンシャル培養液を使用しているようですが、現在の主流は同じ培養液を継続して使うシングルステップ培養液です。培養液が合わない場合があるかもしれませんから、多くのクリニックでは受精卵 を分け、同時に複数の培養液を試しています。同一の採卵で、違う培養液を試してみるのも、培養液が変性の原因かを調べる一つの方法です。また、夫婦の染色体異常でも分割不良の原因となることもあり一度調べてみるほうがよいです。

今後の治療法について、アドバイスをお願 いします。

神谷先生 次回は違うクリニックで治療を行うのもいいのではないでしょうか。

どの時点で胚盤胞になるのか、どういう時期に不良胚になるのかなど、受精卵の発育過程が詳細にわかり、取り出さず外から観察できる培養環境のよいタイムラプス型培養器を導入しているクリニックで詳しく調べてもらうのもよいと思います。

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