採卵ごとに刺激法を変えること。

採卵ごとに 刺激法を変えると 受精率も変わる?

採卵時にはいくつか刺激法がありますが、一つの刺 激法で結果が出なかった場合、別の刺激法を試せば 受精率は上がるのでしょうか。

そんな質問に対し、 福井ウィメンズクリニックの福井先生が意外な視点 からアドバイスをしてくれました。

福井 敬介 先生 1989年、日本大学医学部卒業。卒業と同時に 愛媛大学産科婦人科に入局、愛媛大学大学院医 学専攻科修了。2000年愛媛大学産科婦人科学 助教授。2001 年、「高度な生殖医療をより身近 な医療として不妊カップルに提供したい」と、福井 ウィメンズクリニックを開設する。
相談者:haniさん(32歳)Q. 先日、①アンタゴニスト法で16個採卵しました が、受精できたのはたったの3個でした。しか も1個は異常受精で廃棄になり、残った2つと もG3で3日目9分割と3分割という結果になり ました。②採卵時に16個も採れたのでいくつ胚盤 胞になるかなと期待していたのですが、正直この ような結果が出てしまい落胆しています。  ③夫が乏精子症のため、手術をして凍結保存し た精子を使用していますが、④受精時は卵子の質 に左右されると知りました。今回がこのような よくない結果になっても、次に採卵した時は受 精率が高くなるようなことはありえますか。ま た、刺激法を変えれば、受精率が変わる可能性 はあるのでしょうか。  顕微授精の受精率は70〜80%と聞いたことが ありますが、私の場合は今後も毎回このような確 率になってしまうのではと思うと、諦めたほうが いいかもしれないと思いはじめています。

①アンタゴニスト法のメリットは 多くの採卵が期待できること

アンタゴニスト法は、ホルモン剤を注射して卵胞を育 て、一方で排卵抑制の注射をしながら採卵に適した卵胞 の大きさになるのを待つ方法です。薬剤を使う期間が短 いことや採卵日のコントロールがしやすいこと、また多 くの卵子を採卵できることがメリットとして挙げられて います。16個も採卵できたのは、アンタゴニスト法なら ではの結果かと思います。
 刺激法は、ドクターがその方のAMHや年齢はじめさま ざまなデータをみながら選択しているはずなので、それが ベストと判断したうえでの結果ではないかと思います。実 際に実施してみないとわからないため、アンタゴニスト法 で結果が出なかった場合、次回はショート法、あるいはそ の他の刺激法に変えながら、採卵していく場合が多いです。

②発育の状況をみて 男性不妊の可能性も

 顕微授精の受精率はもっと高いはずなので、採卵数に 対して受精できた数が期待どおりとならず、落胆される 気持ちはよくわかります。
 ですが、採卵時に16個も採れたことにこだわる必要は ないと思いますよ。採卵数が少なくても卵子の質がよけ れば、たとえ1個の受精卵でも、胚盤胞まで育ち妊娠で きればいいのです。
 また、アンタゴニスト法のほかにショート法、ロング 法とそれぞれ刺激法にはメリット・デメリットがあるた め、haniさんにとって最善の方法はAMHなどのデータ をみながら試す価値はあるでしょう。
 ただ、受精卵がG3で3日目9分割と3分割とのことで、 発育の状況からも男性不妊の可能性がうかがえます。原 因はご自身だけにあると考える必要はないと思いますよ。

③男性不妊の対処法にも 目を向けてみては

精子の数が少ない人を乏精子症、 精子の運動性が悪い人のことを運動 無力症といいます。精液 1 ml あたり 1500 万以上の精子数、 40 %以上 の運動率が基準となります。数の少 なさと運動率の低さは併発されるこ とが多く、奇形精子も併発している ことがよくあります。

乏精子症の方による顕微授精の場 合は、運動精子がわずかながらも存 在するので、基本的には男性みずか ら射出した精液から精子を採取する 方法が採られます。そのなかから、 運動性が良好で奇形のない精子を選 んで凍結保存し、後日その精子を融 解してから顕微授精に使用します。

hani さんのご主人の場合は、 手術をされたとのことなので、精巣 を切り開いて精子を採取したのだと 思います。この方法は、どちらかと いうと自分で精子をほとんど射出で きない無精子症に近い方にあてはま る方法だと思います。

④精子の質が受精率の 低さにつながる場合も

体外受精の場合、採卵時により質 のよい卵子を選ばれているのは事実 です。しかしそれは、精子が良好な 状態であることが前提です。精子の 質についても考えるべきではないで しょうか。
  やはり、射出したてのフレッシュな 精子をそのまま受精する方法が一番自 然に近く受精率も高いのではないかと 思います。乏精子症の方の場合、ご自 身で射出した精子を使うこともでき るはずですが、ご主人の場合は手術に よって精巣から精子を採取しているの で、どうしても質は落ちてしまいま す。さらに凍結保存の場合は、運動性 の高い精子を集めるため洗浄濃縮して から凍結するといった過程を踏まえて おり、融解した際に精子が若干疲れて しまう可能性があります。
  受精時に元気な精子というわけでは ないので、卵子の質だけにこだわらず 精子の質を上げることも考える必要が あると思います。手術までされている ので、担当の先生も泌尿器科医と連携 しながら治療を進めていると想像しま す。そのあたりのことを質問されてみ てはいかがでしょう。

卵子・精子ともに 良好なのが理想

卵子の質や採卵数ばかりに注目しがちで刺激法を模索している hani さんの質問全文を読んで、「ポイントは排卵誘発の方法ではなく、男性不妊ではないか」と福井先生は指摘します。乏精子症は多少なりとも射出した精液の中に良好な精子があるということ。

「受精率を高めるには、射出したてのフレッシュな精子を使うのがベストですが、わざわざ手術して精巣から精子を採り凍結保存しています。おそらく、そうせざるを得ない理由があるのだと思います」

すでに泌尿器科医と連携をしながら治療を進めていると想像しつつも、「主治医には採卵だけでなく採精方法についても質問しておくことをおすすめします」と福井先生。

「診療は先生に質問できる絶好のタイミングですが、質問によっては、過去のデータを調べなければ判断しづらいなどの理由で即答できない場合があります。一度、ご夫婦で質問したいことをまとめて、クリニックのコーディネーターや受付に渡しておくとよいでしょう」と、主治医とのコミュニケーションについてもアドバイスがありました。

ドクターにはこう聞いてみよう!

夫婦で疑問をまとめ、 書き出してみましょう
普段から疑問に思っていることを夫婦で話し 合いながら整理する。それを、メモ書きでい いので、ドクターもしくは窓口に渡すことを おすすめします。次回の来院時までに調べて 回答してくれると思いますよ。
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