初めての人もこれを読めば安心!徳岡先生の不妊治療AtoZ
初めて不妊治療をしようとする人は、どんな検査を受けるのか、どん な治療をするのか、不安がいっぱいだと思います。
事前に知識を少し もっていれば、先生の話もスムーズに入ってきて治療を進めやすくな るでしょう。
そこでとくおかレディースクリニックの徳岡晋先生に不 妊治療のAtoZを教えていただきます。
Lesson4(最終回)男性不妊について
男性不妊治療のまとめ
不妊夫婦の約半数は男性側にも原因がある
検査の第一歩は精子を採取するところから
男性不妊は原因が限られているので、治療方法も明確
不妊カップルの約半数は 男性側の原因です
前回までの3回にわたり、不妊治療の検査から高度生殖医 療までをひと通りご説明しました。シリーズ最終回となる今 回は、男性不妊の治療についてお話ししたいと思います。
WHOが行った調査から、「男性のみに原因」「男女両方に 原因」をあわせると、 48 %が男性に不妊の原因があるという 結果が出ています。調査によって幅がありますが、日本受精 着床学会でも男性不妊の割合は 30 ~ 40 %と発表されています。
以前は不妊というと、女性だけに原因があるように思われ ていましたが、今は男性にも原因があるという認識がかなり 高くなっています。当院でも、女性一人で初診に来られる方 は約4割で、半数の方がご夫婦で来られます。男性お一人で 来られる方も1割います。「検査は夫婦どちらも受けるべき。 男性にも治療が必要なことがある」という認識は広まってい ると感じます。 20 年前と比べると男性の意識は、着実に上がっ ていると思います。
男性不妊のほとんどが 精子の異常によるもの
男性不妊は女性よりも原因が明確で、ほとんどの場合が精 子の異常によります。乏精子症は精液中の精子の数が少なく、 無精子症はまったくいない症状です。精子無力症は精子の運 動率が悪いというもの。精子不動症は運動精子がまったくい ないというものですが、このケースは少ないですね。精子奇 形症は正常な精子が少なく、形に異常がある精子が多いとい うものです。これらを合わせると、男性不妊のうちの 6 ~ 7 割が精子の異常になります。
これらの症状が起こる原因の一つにホルモンの分泌異常が あげられます。女性がFSH、LHの作用で卵子が育つように、 男性もFSH、LH、テストステロンの作用で精巣細胞から 精子がつくられます。精子の異常はホルモンの分泌が乱れて いるために造精されない場合と、産生工場である精巣の働き が悪いという場合があります。
膿精液症というのは、精子ではなく、精子の周りにある精 液の異常になります。血液でいうと赤血球などの血球と血漿 で、血球に当たるのが精子、血漿が精漿という精子を保護し ている液体になります。その液体を産生する腺が精嚢腺や前立腺にあるのですが、ここがクラミジアや細菌に感染し前立 腺炎などを起こすと、精液中の白血球の数が増え、受精率が 低下します。ムズムズするような自覚症状でわかることもあ ります。
そのほかには精子を運ぶ通路の異常がある精管通過障害が あります。通りが悪いと乏精子症に、完全に詰まっていると 無精子症になります。逆行性射精といって、精子が膀胱に入っ てしまうという方もいらっしゃいます。またEDなどの性交 障害も男性不妊の一つです。
男性不妊の検査の第一歩は 精液を採取することから
男性不妊の多くが精液の異常なので、必ず精液を調べる検 査を受けていただきます。精液はクリニックにある採精室で 採っていただくこともできますが、外にいる人が気になって しまったり緊張感があったりで、時間がかかることも多いで す。ですので、ご自宅で採精して奥様に持ってきていただく という方法でも大丈夫です。
検査の結果をWHOの出している基準値と照らし合わせて、 精子の数、運動率、奇形率、濃度の 2 つ以上が異常値となっ た場合、再度検査をします。
また、その時に精巣検査を行うことがあります。これは睾 丸の容積を触診で調べる検査です。医師が睾丸をつかみ、容 積メーターと比較して大きさを測ります。 12 ~ 20ml までの大 きさが正常形態です。睾丸の大きさは精子をつくる機能と関 連していて、無精子症の場合は睾丸も小さい人が多いのです。 精子無力症も睾丸容積が原因のことがあります。過去にスポー ツや事故で睾丸を強く打ったことがある人は、片方の睾丸が ないということもあります。しかし、もう片方があれば子ど もをつくれる可能性は十分あります。
さらにホルモン値の検査を行います。ホルモン値に異常 がある場合は薬で調整していくことになります。
薬物治療から手術まで 治療は症状に合わせて
精子の状態が良くない場合、当院ではまず漢方薬から試し てもらいます。よく処方するのは補中益気湯(ホチュウエッ キトウ)です。あとは八味地黄丸(ハチミジオウガン)。これらを毎日飲んでいただき、状態が良くなるかをみていきます。 半分くらいの人は効果が出てきます。
ホルモン値が低い人にはクロミッドⓇを処方します。女性の 場合は 5 日間、長くても 10 日間の服用ですが、男性の場合は 生理周期がなく精子は日々産生されるので、毎日 1 錠を 1 カ 月単位で飲んでもらい、FSHを上げることを目指します。
精子の状態が悪くないのに妊娠しない場合や、射精障害が ある方はまず人工授精を行います。それで結果が出ない場合、 または精子の状態が悪い方は体外受精、顕微授精を行ってい きます。乏精子症、無精子症などの場合も、精巣上体から精 子を採取するPESAや、手術で回収するMESA、直接精 巣から精子を採取するTESEなど精子を採る方法はありま す。顕微授精は状態の良い精子が 1 匹あれば行うことができ るので、男性不妊のほとんどの方に対応する治療法があると 考えていただいて大丈夫でしょう。