凍結精子を使った胚の凍結

Q 凍結精子を使ってできた受精卵を 再度凍結しても大丈夫?

波多野 久昭 先生 日本医科大学卒業。ハンブルク大学産婦人科学教室留学後、日本 医科大学付属病院産婦人科学教室講師、飯田市立病院産科科長 を経て、2005年ノア・ウィメンズクリニックを開院。開院して10年、 2015年10月からは電子カルテを導入。構想1年、予約システム がついに稼働開始! ネットで24時間いつでも予約や取り消しができ るようになりました。「予約の電話対応が減った分、以前よりも相談 の電話をお受けすることができるようになりました」と先生。

ドクターアドバイス

●精子の凍結の歴史は長く、ダメージを受けるリスクは少ないです
●着床して育ってきているなら凍結による質の低下の心配はありません
どらみさん(35歳)からの相談 Q.顕微授精で第1子を授かり、現在第2子の治療をして います。第1子の時、体外受精の予定でしたが夫の都 合がつかず、事前に凍結しておいた精子を使い顕微授精 をしました。その時3つ受精卵ができて、新鮮胚移植で 第 1 子を授かり、残りの 2つを凍結しました。今回凍結 していた受精卵の1つを使って移植し、判定待ちをして います。食品だと何度も解凍・冷凍をすると質が落ちま すが、凍結精子を融解して顕微授精し再度凍結しても大 丈夫なのか気になりました。受精卵に影響はないのでしょ うか? 食品とは凍結方法も違うし一緒ではないと思うの ですが、疑問に思ったので教えていただきたいです。

食品の場合一度解凍したものを再凍結す るのは良くないとされていますが、体外受 精、顕微授精ではどうなのでしょうか。

波多野先生 結論から言えば大丈夫です。
精子の凍結は歴史的に受精卵の凍結より先 に行われていて、1949年に最初の報告 があります。
精子の細胞は卵子よりも小さ く、中には遺伝情報の染色体が入っている だけです。
細胞質がないので、凍結しても ダメージを受けるリスクが少ないのです。
卵子のほうは受精して発育し赤ちゃんを つくらないといけないので、細胞分裂する ために必要なものが細胞質にたくさん入っ ています。
水分が入っているので、同じよ うな条件で凍結させるとダメージが起きや すいため、水分が結晶にならないように凍 結しなくてはなりません。
精子はそういう ものが含まれていないので、昔から簡単に 凍結できていたのです。
凍結した精子を使って顕微授精し、ちゃ んと受精して育っているのであれば、それ はフレッシュな精子で受精したものと基本 的には同じです。
ですから凍結精子を使っ てできた受精卵を再度凍結しても問題ない ということです。

胚の凍結方法について、詳しく教えてい ただけますか?

波多野先生 さきほどもお話ししたよう に、凍結する際には細胞の中の水分が結晶 をつくらないようにしなくてはなりませ ん。
以前は受精卵を急速に凍結するとダ メージを与えるのではないかと考えられ、 徐々に水分を抜きながら温度も徐々に下げ ていくという緩慢凍結法で行われていまし た。
しかし今は専用の培養液を使って受精 卵を脱水状態にすることができるようにな りました。
受精卵を通常の培養液で胚盤胞 まで育て、凍結するとなった時に専用の培養液に替えるのです。
その後、液体窒素で 急速に凍結します。
受精卵の状態は緩慢凍結法よりも急速 に凍結するガラス化法のほうがいいとさ れています。
当クリニックでも年間 4 00 ~500件の受精卵を凍結していますが、 凍結したことでダメになってしまうケー スはその中で 1 件あるかどうかです。
それ は凍結した精子を使った場合でも変わり ません。
凍結は細胞を「眠らせる」という感じに なります。
それぞれの細胞や臓器によって 最適な凍結方法があります。
今は人間を丸 ごと凍結して生き返らせることはできませ んが、凍結の技術がもっと進めば、凍結し ておいて何年か後に眠りから覚める…とい うことも可能になるかもしれません。
凍結により受精卵が極端にダメージを受 けていたら、融解した時に復活しません。
どらみさんは凍結・融解した精子を使って できた受精卵を再度凍結したことで質が悪 くならないかを気にされていますが、受精 して育ってきているなら、精子がもってい る遺伝情報もしっかり育ってくれていると 思って大丈夫。
心配ないと思います。
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