前回妊娠した実績を考えてアンタゴニスト法による排卵誘発法がいい?【医師監修】

【医師監修】蔵本 武志 先生 久留米大学医学部卒業、山口大学大学院修了。山口県立中央病 院産婦人科副部長、済生会下関総合病院産婦人科部長を経て、 1990 年オーストラリア・PIVETメディカルセンターへ留学。帰 国後、1995 年蔵本ウイメンズクリニック開院。O 型・おうし座。 最近、培養室に優秀な新人数人が加入。徹底した臨床研究が行 われ、より客観的なデータに基づいた医療を提供できるように。 同クリニックは、安全性の高い治療ではヨーロッパ生殖医学会で も高く評価されているそう。
ひめかさん(44歳) Q.40歳で初めて自然妊娠しましたが、流産に終わりました。3年前から治療を始め、2年前 の秋から体外受精に。42歳当時のAMH値は9.7pM/L。クロミフェン法で2回採卵し ましたが、いずれも陰性でした。5カ月間お休みした後に治療を再開し、アンタゴニスト 法で3個採卵、2個移植して妊娠。しかし9週で染色体異常により流産。 現在はAMH:0.66ng/mL。医師からは「次回は自然でいきましょうか」と言われました。 主人と話し合い、これまでの低刺激法だと卵子の質があまりよくなかったようだし、凍結 すると受精卵に負担がかかるので、卵子の数が少なくても、一度妊娠したアンタゴニスト 法でもう一度新鮮胚移植がいいのではと考えていますが、いかがでしょうか。

年齢と卵質、流産率の関係

ひめかさんは、卵子の数が少ないことに若干の不安があるようです。
蔵本先生 流産という結果は残念でしたね。
しかし、卵子の数は女性の年齢の上昇とともに減少します。
そのため、1回で採卵できる卵子の数も減るうえ、質の低下も起きるので、受精卵の分割がうまくいかなかったり、卵子や受精卵の染色体異常が生じる場合が出てきます。
この結果、妊娠率が低下したり、妊娠しても流産する確率が高くなってきます。
40 歳以上になると、この傾向は年々顕著になります。
ひめかさんの場合、 44 歳という年齢やAMHが 0.66ng / mL と低いこと、 前回のアンタゴニスト法で卵子が3個しか育たなかったことなどを見ても、今後1回の採卵で多くの卵子の採取は難しいと思われます。
そのため、いい卵子が採れる確率が下がり、妊娠率も低下してきます。

ホルモン値全体から考える

AMHが、前回は 9.7pM /L、現在は 0.66ng / mL ということですが。
蔵本先生 これは、昨年より単位の表し方が pM /Lから ng / mL に変わっ たため、急に下がったように見える
のです。
AMHの値だけで判断はできません。
むしろ、FSHが高いほうが卵胞の発育はよくないので、できればFSHが 10mIU / mL 以下が望ましいですね。
カウフマン療法でホルモン環境を整え、月経開始2〜3日目のFSH値が 10mIU / mL 以下で、小 卵胞(胞状卵胞)がもし3個以上見えたら、rFSH/hMG製剤による卵巣の刺激をしながらショート法またはアンタゴニスト法を行ってみてもいいと思います。
それでも1〜2個しか受精せず、妊娠しない場合は、軽度の卵巣刺激法でクロミッドⓇ、またはフェマーラⓇを服用しながら、月経開始から5〜8日目頃よりrFSH/hMGを1日ごとに注射するような方法に変更になると思います。
もしくは自然周期に戻ると思います。
ただしクロミッドⓇは、子宮内膜が薄くなる場合が多いので、子宮内膜の厚さが7㎜未満なら、受精卵は凍結しておいて、別の周期に戻したほうがいいでしょう。
ひめかさんは、年齢的にはおそらく最後のチャンスです。
そこからの気持ちの切り替え方も視野に入れたほうがいいでしょうね。

自分で気を付けること

いろいろなサプリや漢方薬なども試していらっしゃるようですが。
蔵本先生 そうですね、少し多すぎるような気がします。
むしろ食事や運動、良質な睡眠など、規則正しい生活をして、趣味を持つことも大切です。
治療から離れて別のことに関心を持ったとたん、妊娠するというケースもありますから、精神面のリラックスも心掛けてみてはいかがでしょうか。
※アンタゴニスト法:ある程度まで卵子が成長したところで、GnRHアンタゴニストという薬剤を注射し、卵巣を刺激する方法。GnRHアンタゴニスト製剤は黄体ホルモンの分泌を抑制する働きを持ち、採卵前に排卵し てしまうことを防ぐ。
※カウフマン療法:規則的な月経周期を取り戻すため、卵胞ホルモン(エストロゲン)、黄体ホルモン(プロゲステロン)といった卵巣ホルモンを周期的に投与する。FSHの過剰分泌によって機 能が低下している卵巣を元の状態に戻し、排卵を誘発する方法としても用いられる。
※rFSH:リコンビナントFSH遺伝子組み換え技術によって作られたFSH製剤。
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