顕微授精に進みましたが原因がわからないままいい結果が出ません

5回目の顕微授精が陰性との結果に、治療への疑問が。

今後の有効な治療法とともに、気持ちの切り替え方などを 宮崎レディースクリニックの宮崎和典先生に伺いました。

宮崎 和典 先生 大阪医科大学医学部卒業。学生時代の新生児医療への興 味がきっかけとなり、体外受精や不妊治療の世界を志す。同 大学産科婦人科講師を経て、1992年に不妊症、不育症治 療専門クリニック、宮崎レディースクリニック開業。開業当初 より泌尿器科の専門医による男性不妊外来を開設する。A 型・しし座。今以上に少しでも患者さんに快適な治療環境を 提供したいと、クリニックではドクターを含むスタッフの増員を 計画中。オープンカウンターの受付では、いつも明るく元気な 笑顔でスタッフが迎えてくれます。

ドクターアドバイス

●クロミッド®だけでなくHMGの併用で排卵誘発を
●人工授精はあと数回は試してみる価値あり
●一つの治療にこだわらず気持ちを楽にして
ゴロさん(38歳)からの投稿 Q. 5回の胚移植で合計7個の胚を移植しました。グレードはほとんどが 1AA、最後は3BCでしたが胚盤胞終期でした。各検査では問題がな く、私が生理不順、夫が50代で精子運動率25~65%のため、人工授精1回後、顕微授精に進みました。しかし、原因がわからず着床しま せん。2回目は9週目で流産しました。 このまま回数を重ねることに意味があるのか疑問です。アシストハッチ ングやシート法、ステロイドは先生の判断でしてくれていますが……。 経済的にも厳しいです。悪いところがあれば治し、チャレンジしたい気 持ちもありますが、一般的には体外受精は5~6回が目安と聞きまし た。何かできることはないでしょうか?

●これまでの治療データ

検査・ 治療歴

治療2年間で一般的な検査はすべてやりました。
採卵2 回。顕微授精5回目が陰性で終了したところです。

不妊の原因 となる病名

特別には言われていません。

現在の 治療方針

ホルモン補充周期で移植しています。
生理は45日周期、 クロミッド®5日間の内服で排卵します。

精子 データ

精子運動率:25~65%。
59歳という年齢相応と主治医 には言われました。

グレードと移植

合計7個の胚を移植したとのことですが、ハッキリとした原因がわからず、まだ妊娠に至りません。治療法を変えたほうがいい?
宮崎先生 胚盤胞のグレードについて「ほとんどが1AA」ということですが、これはあまり発育が進んだ胚盤胞ではないですね。
そもそも胚移植するのはグレード3以上で、当院ではグレード1、2の胚ではまず移植は行なわず、翌日まで待って発育が進んだら凍結保持します。
胚盤胞のグレード評価は、胚の発育段階などを示す1~6までの数字と、内部の内細胞塊と外側の栄養外胚 はいよう 葉の細胞数の状態を示すアルファベットの組み合わせで示しますが、頭の数字が大きいほど、より成長が進んだ良い胚盤胞とされています。
グレード1はまだ初期胚盤胞で、AAとい う判定は一般的ではないと思いますが、受精卵の中に胚盤胞腔ができたばかりの状態です。
胚盤胞腔の広がりが胚の大きさの半分以上に達するとグレード2、胚盤胞腔の広がりが胚全体にまで達するとグレード3というふうに成長とともに分類されていきます。
もし受精卵の成長が遅れているのなら6日 目、7日目までは待ちますが、成長が進んできたらその時点で凍結保存し、子宮内膜のコンディションを整えた後、本来の5日目に相当する時期に移植を行うのが胚培養士の間でのセオリーです。
グレードがすべてではない、とはよく言われますが、現状では着床率以前の問題のような気がします。

臨機応変に妊娠を目指す

9週目で流産されたそうですが、着床よりも受精卵の質の問題ということでしょうか?
宮崎先生 流産の原因のうち、7割は胎児側の問題だといわれています。
9週目まで妊娠が継続できたのだから、1度の流産にとらわれすぎないほうがいいのではないでしょうか。
ゴロさんの 38 歳という年齢を考えると、もっと積極的に妊娠のチャンスを増やす努力をする必要があると思います。
気になったのは、ゴロさんは生理周期が 45 日間と、少し排卵障害の傾向があることです。
クロミッド ® で排卵させているようですが、クロミッド ® だけでいいのかなという気がしますね。
ゴロさんのようなタイプの排卵障害の方にはHMGの併用が有効です。
クロミッド ® を使えば子宮内膜が薄くなるなどのマイナス面が出てくるので、通常はエストロゲン療法といってプレマリン ® などを服用させる場合もあるのですが、当院では様子を見ながら少しずつHMGを追加することが多いです。
ハッキリした不妊の原因が見当たらず、薬を飲めば生理周期が順調になるのに妊娠しない、という方には一番おすすめの方法です。
さらに、頸管粘液の量が減ってヒューナー テストの結果も悪くなってきた場合、子宮内に精子が入っていきにくいので、それを補う人工授精も有効な方法だと思います。
「顕微授精を5回した」ということですけれども、もし費用の問題があるのなら、排卵誘発法の見直しと人工授精という治療もいいと思います。
ただ、人工授精を5~6回やるにしても最低5~6カ月かかってしまうわけですから、それをやらないと「次へステップアップできない!」と考えるのではなく、ある程度のところで体外受精もやってみるなど、柔軟に考えていくといいでしょう。
当院の場合ですが、私は 38 歳以上で初診に 来られた方には「1年以内に一度は体外受精も考えておいてね」と伝えるようにしています。
卵巣予備能には個人差があるので、 38 歳ですでに手遅れになりかけている人もいるわけですから。
老化による卵巣機能の低下の問題は、もう 運のようなものです。
生殖医療の技術が確立されている現代、体外受精はもう「最後の手段」ではありません。
手遅れになって後悔する前に、チャレンジしておいてほしい治療なのです。
一度、体外受精に進むと、もう前の治療には戻れないと思い込んでいる方もいますが、決してそんなことはありません。
原因不明の不妊で結果が出ない場合は特に、残された時間を無駄にすることなく、いろいろな方法を取り混ぜて並行してやっていかないと、と思います。

サプリや漢方など、まだ方法はある

一つの治療法だけにこだわらないということですね。今後、治療についてどのように考えていけばよいでしょうか?
宮崎先生 グレードが1とはいえ、ゴロさんの受精卵は胚盤胞まで到達しているし、胚移植を5回行ったということは、卵巣の反応も悪くはないのだと思います。
今のうちにできることはやっておきたい。特に人工授精はまだ1回だから、あと数回やってみるのがいい。
その間にできることは何でもやるという気持ちで、サプリメントや漢方薬の内服もいいでしょう。
胚移植の際に受精卵の透明帯に孔を開けて着床しやすくするアシストハッチングなど、効果があると思われるものは何でも試してみることをおすすめします。
顕微授精を5回というのは確かにプレッシャーだとは思います。
でも「もう少しチャレンジしたい」という気持ちがあるのなら、たとえば 40 歳までの2年間は、人工授精を続けながら半年に1回だけ気合いを入れて治療する期間を作ってもいい。
そう考えれば、精神的にも費用の面でも楽なんじゃないかな。
体外受精は5~6回が目安とかいうことにも、あまりとらわれないほうがいいです。
悲観的になりすぎず、もう少し気楽に治療に向かったほうが良い結果につながることもあると思います。まだチャンスはありますよ。
※HMG:排卵誘発剤。閉経後の女性の尿から精製して作られた卵胞刺激ホルモン。黄体化ホルモンを含み、卵胞の発育・成熟を促す。
※プレマリン®:エストロゲン製剤。黄体機能不全による不妊症に用いられる。
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